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2017年ベトナムサッカーまとめ…若きベトナム代表の挫折と再生

2018.01.04

■黄金世代が味わった“挫折”…チーム再建は韓国人指揮官の手に託された

 2017年に行われたサッカーの国際大会のうち、ベトナムサッカー関係者が最も重視していたのが“東南アジアの五輪”とも呼ばれるSEA Games。22歳以下の代表チームが出場する男子サッカーは大会の花形競技で、この大会で金メダルを獲得することは大変な名誉と考えられている。

 昨年までJ2水戸ホーリーホックでプレーした“ベトナムのメッシ”ことFWグエン・コン・フオンを擁するU-22ベトナム代表は、今大会の金メダル候補筆頭とされ、国内では、「今年、金メダルを獲らなくて、いつ獲るのか?」と言われるほど高い期待を受けていた。これに先立ち行われたFIFA U-20ワールドカップでは、弟分であるU-20ベトナム代表が、初出場ながら東南アジア勢として史上初となる勝ち点1を獲得していたこともあり、「U-22代表もこれに続け!」という雰囲気が国内では流れていた。

 しかし、U-22ベトナム代表は開幕3連勝で滑り出しこそよかったものの、力が拮抗した相手との対戦では、大事なところで決定力不足と勝負弱さを露呈。グループリーグ最終節では宿敵タイに敗れ、首位から一気に3位に転落して、まさかのグループリーグ敗退を喫した。大会後、A代表とU-22代表を兼任していたグエン・フー・タン監督が敗戦の責任をとる形で辞任。金メダルを目指した黄金世代の挑戦は、実にあっけなく幕を閉じた。

 大きな失望感に包まれたベトナムがチーム再建を託したのは、韓国人のパク・ハンソ監督。2002年の日韓ワールドカップで、韓国代表フース・ヒディング監督の右腕として3位入賞に貢献した人物である。2017年は、ベトナムと韓国の国交樹立25周年ということで、両国サッカーの協力関係が一層促進されたが、ベトナム代表監督(U-23代表兼任)にパク氏が選ばれたのも、この流れと無関係ではないだろう。

 パク監督は、就任会見の席で、任期中にベトナムをFIFAランキング100位まで押し上げることを公約。初陣となったAFCアジアカップ最終予選のアフガニスタン戦で堅実なサッカーを見せ、劣勢の試合をスコアレスドローに持ち込み、グループ2位以上を確定させて、12年ぶり2度目の本大会出場を決めた。前回の出場は、東南アジア4か国(タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア)共同開催のホスト国の一つだったため、自力での予選突破はこれが初めて。なお、ベトナムは2017年12月時点のFIFAランキングで112位まで順位を上げており、約2年ぶりに東南アジア首位の座をフィリピンから奪い返した。

 その後、パク監督が率いるU-23代表は、タイ・ブリーラム県で開催された国際親善大会「M-150カップ」で地元タイを下して3位でフィニッシュ。3トップの中央で起用されたグエン・コン・フオンは、これまでの鬱憤を晴らすかのような活躍をみせ、今大会でゴールとアシストを量産した。絶対的エースに自信を取り戻させることに成功したパク監督。新生ベトナムの船出は、まずは上々といったところだが、年明け1月にはAFC U-23選手権、年末にはAFFスズキカップという重要な大会が控えており、“パク・ベトナム”の真価が問われるのは2018年ということになりそうだ。

■大混戦Vリーグ“プロビンチャ”クアンナムFCがクラブ設立20年目で初優勝

 毎年、シーズン終盤まで優勝の行方が分からないVリーグ。今年も最終節前の時点で4チームに優勝の可能性が残る大混戦となった。この接戦を制したのは、世界遺産の街ホイアンで有名なクアンナム省を本拠地とするクアンナムFC。同じベトナム中部で、ビーチリゾートとして有名な近隣の大都市ダナンには、SHBダナンという強豪且つ人気クラブがあり、クアンナムFCの存在感はかなり希薄。観客動員にも苦戦し、資金力にも乏しい、冴えない“中部のプロビンチャ”である。

 クアンナムFCは、いわゆる弱者の戦い方を徹底したクラブだ。守備陣と中盤には、ベトナム代表クラスの実力者が何人かいるが、いずれも玄人受けしそうな職人タイプの選手たち。ゴール前でブロックを作り、フリーキックの名手で、ベトナム代表のキャプテンでもあるMFディン・タイン・チュンと、ポストプレーに秀でたブラジル人FWクラウデシールが起点となってカウンターから得点を狙うシンプルな戦術は、大崩れすることがなく、シーズン通して安定した戦いを披露した。

 過去2シーズンは、非常に引き分けが多く、勝ちきれない印象だったが、今シーズンは粘り強いうえに勝負強さも際立ち、1点差の厳しい試合をものにすることが増えた。地道に勝ち点を積み重ねたクアンナムFCは、最終節で昨年王者ハノイFCから首位の座を奪って、クラブ設立20年目にして初優勝。お祭り好きの国民性もあり、優勝争いの中で観客動員数は日に日に増加。優勝を決めたホームの最終節では1万4000人もの観客を動員した。

 なお、優勝したクアンナムFCだが、スタジアムと下部組織の条件で、AFCの基準を満たしていないため、ACL予選の出場権を得られず、代わりに2位FLCタインホアが出場することになった。

■“ベトナムの英雄”レ・コン・ビンがHCMC会長に就任


 上位争いに絡むことはなかったが、今季のVリーグで最も話題を振りまいたのは、“ベトナムの英雄”レ・コン・ビンが会長を務めるホーチミン・シティ(HCMC)だろう。31歳での衝撃的な現役引退表明から僅か1ヶ月後のクラブ会長就任。その後、同選手を慕って、かつてのベトナム代表のチームメイトらが複数移籍してきた。日本やポルトガルでのプレー経験もあるレ・コン・ビン会長は、“真のプロフェッショナル化”をスローガンとしており、ロッカールームや女子トイレ、老朽化した観客席などスタジアム内の施設を次々に改修し、クラブミュージアムもオープン。プロサッカー選手育成アカデミー設立の準備も着々と進めている。

 HCMCは、昇格1年目のシーズンを14チーム中12位で終えて、なんとか1部残留に成功。意欲的なレ・コン・ビン会長は、2018シーズンの上位進出を虎視眈々と狙っており、このオフにも“ベトナムのC・ロナウド”の異名で知られるMFチャン・フィー・ソンをはじめとした代表クラスの大物を次々と獲得。新指揮官には、元ベトナム代表の三浦俊也監督を招聘するなどオフシーズンの主役となっている。

文=宇佐美 淳
協力=アジアサッカー研究所

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