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『キャプテン翼』でシリア難民に希望を…留学生がアラビア語に翻訳

2017.05.09

『キャプテン翼』の作者である高橋陽一先生 [写真]=野口岳彦

 東京外国語大学4年のシリア人留学生、カッスーマー・ムハンマド・ウバーダさんが『キャプテン翼』をアラビア語に翻訳し、シリア難民の子供たちに送っていることが明らかになった。イギリスメディア『BBC』が伝えている。

 ウバーダさんは2012年にシリアの首都、ダマスカスから来日。交換留学生として日本で学ぶチャンスを得た。当時からシリア政府軍と、シリアの反体制派による武力衝突が始まっており、若い男性というだけで反体制派と思われ、警察から事情聴取されることもあったという。彼の自宅付近でも治安は日に日に悪化し、両親はヨルダンに住む叔母のところへウバーダさんを避難させ、その後ウバーダさんは来日することとなった。

 交換留学生としてのプログラムは終わったものの、その後も正式に学生として日本に滞在。『キャプテン翼』の翻訳アルバイトをしながら生活している。現在26歳のウバーダさんは幼いころから同作品の大ファンだったことを明かし、与えられたチャンスに感謝しているようだ。

「小さいころからテレビで見ていたんだ。大好きだった。プロサッカー選手になるために主人公が奮闘し、努力して夢を叶えていく話さ。その姿はすごく美しいし、小さい子供たちは絶対に見るべきものだと思う」。

 アラビア語版の出版について企画したのは、紀伊国屋書店。中東や北アフリカでの販売が計画されており、集英社から翻訳出版の許可を得たという。さらに同じ時期に集英社は、中東問題を専門とする同志社大学の内藤正典教授からシリア支援の要請を受けていたことで、プロジェクトが実現した。

 内藤教授は1980年代にダマスカスに滞在していたことがあり、何らかの形でシリア難民を支援することを望んでいたという。そして集英社に対し、難民の子供たちへ同漫画を寄付することを持ちかけた。実際にNGOやユニセフを通じて届けられ、ヨーロッパやトルコ、中東にいる難民たちの手に渡ったようだ。

 内藤教授は「シリアでの悲劇は私にとって、実に辛い出来事。今は反体制派が支配している村で、かつて私は働いていたんです」とコメント。

「現在の状況は、彼らが過ごしてきた日常とはかけ離れてしまっている。でも子供たちにとっては、ほんの少しの間だけでもその現実から離れることが大事。そしてこの物語を通して、自分の未来に対して希望を持っていてほしい。漫画というソフトパワーで、絶望と先鋭化に立ち向かえるはず」。

 日本からサプライズギフトを受け取った難民の子供たちは、目を輝かせて喜んだ。WefaというNGOのイスメット・ミシリオグルさんは「普段洋服や食べ物を受け取る時とは、全く違う反応だったよ。母国語で書かれた日本の漫画が読めることに驚いていた」と、子供たちの反応を明かしている。同団体は今後もさらに、子供たちへ漫画を手渡していく予定だという。

 ウバーダさんも引き続き翻訳作業を進めており、単行本37巻のうち7巻まで終えた。現時点で母国に戻るつもりはなく、まずは大学での単位を取得する予定。シリアが将来的に、彼のスキルを必要とする日が来ると信じ、日本とシリアの架け橋となることを目指しているようだ。

 ウバーダさんは「政府軍についている友達もいるし、反体制派として活動している友達もいる。僕たちは一つの家族なはずだ。誰も殺し合うことなんて望んでいない」と語り、暗い表情を見せた。

 そして自身の活動によって翻訳された『キャプテン翼』を読んだ子供たちが笑顔を取り戻し、恐怖を忘れてくれることを祈ると話している。

「シリア人として、母国の助けになるのは当たり前のこと。これが僕に与えられた任務だと思う。それは子供たちが戦闘を通して刻まれた悪い記憶を、ほんの少しでも忘れられるための手助けをすることだ」。

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