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日系クラブ「JPヴォルテス」選手兼監督が語るフィリピンサッカーの現状

2016.05.12

かつてASEAN諸国の中でも「サッカー弱国」とみられていたフィリピンだが、東南アジア王者を決めるスズキカップで2010年から3大会連続でベスト4に入るなど、近年は代表レベルで著しい躍進を見せている。しかし、フィリピン国内のサッカーシーンに関する情報は非常に限られており、その多くはベールに包まれている。

そんな中、今季から同国のトップリーグに日系クラブ「JPヴォルテス」が参加することとなった。指揮を執るのは選手兼監督として今季からクラブに加わった星出悠。トリニダード・トバゴリーグで活躍して中米版チャンピンズリーグにも出場した実績を持つ異色のフットボーラーに、フィリピンサッカーの現状について聞いた。

―フィリピンのサッカーリーグについて教えてください。

トップリーグは「United Football League(UFL)」と呼ばれており、2009年に開幕しました。昨年までは1部と2部に分かれていましたが、昨年限りで撤退したクラブが複数出たため、今年は2部がなくなりました。そのためプロリーグであるUFLのすぐ下がアマチュアリーグになったので、今年は下部リーグとの昇降格は行われない予定です。

リーグ戦やカップ戦といった年間カレンダーは、毎年のように変更されています。今年は2月~4月半ばまでカップ戦を行い、リーグ戦は4月23日に開幕して9月に終わる予定です。カップ戦は12チームで争っており、リーグ戦に参加するのも12チームのはずですが、突然リーグを脱退してしまうチームもあるので確定とはいえません。(註:取材は4月6日に実施)

―フィリピンではサッカーは人気があるのですか?

フィリピンではバスケットボールが一番人気のあるスポーツで、基本的にサッカーはあまり人気がありません。バコロドやセブなどサッカー人気の高い地域もありますが、地方にはプロサッカーの試合を行えるスタジアムがないため、UFLの試合は首都マニラにある1つの会場(リザル・メモリアル・スタジアム)で集中開催しています。

UFLのクラブはほとんどがマニラを拠点としています。地方のクラブが1つだけありますが、そのクラブも試合はマニアで行うので、他クラブがマニラ以外に遠征することはありません。来年からホーム&アウェーの全国リーグにしたいという考えもあるようですが、毎年のように「来年からやる」と先延ばしになっている状況なので、実際に全国リーグがいつから実施されるかはわかりません。

―UFLにはどのようなクラブが参加しているのですか?

各クラブはスポンサーが所有している形になっていて、クラブには企業の名前が付くことが多いです。例えば強豪クラブの「セレス・ラ・サール」は、バス会社の「セレス・ライナー」がオーナー企業です。バスケットボールクラブもオーナー企業の名前が付いていますが、あちらの方が大手企業が多いですね。

UFLクラブを所有していても、オーナーに経済的なプラスはほとんどありません。そのためワンマンオーナーの気分が変わったり、会社の業績が悪くなったりしたら、クラブを手放してしまうこともあります。

グローバルFCは昨年のシンガポールカップに招待出場し、ベスト4の好成績を残した。写真後列右端の星出選手をはじめ、5人の日本出身選手を擁していた。(写真提供:大友慧)

グローバルFCは昨年のシンガポールカップに招待出場し、ベスト4の好成績を残した。写真後列右端の星出選手をはじめ、5人の日本出身選手を擁していた。(写真提供:大友慧)

―フィリピンサッカーのレベルはどうですか?

今季のUFLに参加している12クラブの間でも、大きなレベルの差があります。グローバル、セレス、カヤといったトップクラブは、プレーのレベルも選手の待遇も悪くありません。昨年、私が所属していたグローバルFCは、シンガポールのカップ戦に招待されて、ベスト4まで残ることができました。ピッチで対戦した実感でもシンガポールのクラブと差があるとは感じませんでした。

その一方で、下位チームはお金もなく、それに比例してプレーレベルも低くなっています。下位チームのフィリピン人選手は、サッカーだけでは食べていけない選手がほとんどで、勝利給しか払っていないという例も聞いたことがあります。でも、そのチームは弱くて勝てないので、実際にはお金をほとんどもらっていないはず(苦笑)。

トップクラブは選手個々の能力が高いし、サッカーに取り組む姿勢にも大きな違いがあります。フィリピン人は性格的につらいことをやりたがりませんが、トップクラブはフィリピン人でも外国育ちの選手が多く、チームの中のメンタリティにも大きな違いがありますね。

―海外育ちのフィリピン人選手は多いのでしょうか?

現在AFCカップ(AFCチャンピオンズリーグに参加しない国のクラブで争われる国際大会)を戦っているセレスは、ブンデスリーガでプレーしていたシュテファン・シュロック(フィリピンとドイツのハーフ)を獲得するなど、積極的にチーム力アップを図っています。

フィリピン代表もそうですが、強いチームは外国育ちのハーフの選手が多いので、試合前の集合写真を見ても、どこの国のチームなのかよくわからない感じです。リーグ全体のレベルもここ3年ほどでかなり上がっていますが、外国育ちの選手が多くなっていことに反対の人も多いようで、フィリピン育ちの選手をもっと育成しなくてはいけないという意見もあります。

フィリピンリーグには、JPヴォルテス以外にも複数の日本人選手が所属している。写真はカヤFCに所属するDF大村真也選手(写真提供:大友慧)

フィリピンリーグには、JPヴォルテス以外にも複数の日本人選手が所属している。写真はカヤFCに所属するDF大村真也選手(写真提供:大友慧)

―JPヴォルテス以外にもUFLで活躍している日本人選手もいますか?

日本育ちのフィリピン人ハーフの選手を含めて、グローバルやカヤ、ロヨラなどの強豪クラブに何人かいます。グローバルの佐藤大介選手は、フィリピン代表にも選ばれています。

日本人選手は外国人選手としてコンドミニアム(高級マンション)を用意してもらったり、それなりの待遇を受けていると思います。周辺の東南アジア各国のリーグに比べるともらっている金額は落ちるかもしれませんが、フィリピンは物価が安いので、最終的に残るお金で言えば、こちらのほうが高くなることもあるかもしれません。

(後編「フィリピンサッカーに挑む日系クラブ・JPヴォルテスに迫る」に続く)


星出悠(Yu Hoshide)
1977年8月16日生まれ。東京都出身。三菱養和SC→明治大学→YKK AP→ハリスバーグシティ・アイランダーズ(米国)→ノーザン・バージニア・ロイヤルズ(米国)→ジョーパブリック(トリニダード・トバコ)→スポルティング・クラブ・デ・ゴア(インド)→グローバルFC(フィリピン)→JPヴォルテス(フィリピン)。日本人として初めてトリニダード・トバゴ・リーグでプレーし、CONCACAFチャンピオンズリーグにも出場。その後、インドを経て2011年からはフィリピンに活躍の場を移し、今季から選手兼監督として、日系クラブ「JPヴォルテス」を牽引する。

(アジアサッカー研究所/安藤)

「サムライフットボールチャレンジ」とは、
アジアのサッカークラブや事業者の”中の人”になって、本物のサポーターやスポンサーを相手にリアルな運営を体験し、楽しみながら学ぶ&自分を磨く海外研修プログラムです。ビジネスでも大注目のアジア新興国は、チャンスも無限大。何を成し遂げるかはあなた次第!日本にいては絶対得られない体験をこれでもか!と積重なてもらいます。経験・年齢・性別・語学力不問です。
http://samurai-fc.asia/

By アジアサッカー研究所

東南アジアを中心としたアジアサッカーの今を伝える情報サイト

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