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【イタリア発コラム】“彼”の時間を待ちわびて

1時間前

[写真]=Getty Images

 6月20日、メキシコのモンテレイで、日本対チュニジアを観戦した。

 状態がどん底に近い感じのチュニジア相手だったとは言え、日本はワールドカップの大舞台で敵を圧倒。まさに、歴史的なゲームだった。

 森保一監督は、積極的に多くの選手を起用する。今回も初戦のオランダ戦を含め、26人の登録選手中22人をピッチに送り出している。残る選手はGKのサブ2人を含む4人。そのなかに個人的に気になる選手がいる。チーム最年長のDF長友佑都だ。
 
 長友がセリエAでプレーしていた頃、彼のインタビュアー兼番記者をしていた。

 チェゼーナというプロヴィンチャーレ(地方クラブ)から、イタリアの3巨星のひとつ、インテルへの移籍を果たし、奮闘する彼の姿を間近で見てきた。

 当時のインテルには、まだ2010年のチャンピオンズリーグ制覇の面子が揃っていて、世界でも有数の陣容だった。そのなかで、長友選手は、イタリア3大クラブに初めて加入した日本人選手として、レギュラーに定着し、最終的にはゲームキャプテンも務めたのだから、ある意味「とてつもない痕跡を残した」と言っていい。

長友佑都

[写真]=Getty Images

 あれから時は流れ、彼は今、アジア人として初めて5回目のワールドカップ参加という、これまたとんでもない偉業を成し遂げ大会に臨んでいる。

 気になるのは、出番がいつになるのか、だ。
 
 彼がメンバーに選出されたとき、SNSなどでは少なからずの批判があった。

「何のために連れていくのか」「もはや終わった選手」「ワールドカップは観光旅行ではない」

 そんな辛辣な声もあったと聞く。
 
 2014年のブラジル大会、グループリーグの第3戦、日本はアマゾンに近い街、クイアバでコロンビアとの一戦に臨んでいた。勝てば決勝トーナメントへの道が開け、逆に負ければ敗退が決まる大事な試合。

 1-1の同点で迎えた後半、コロンビアは後半から入ったハメス・ロドリゲスのゴールで勝ち越すと、82分にも彼のアシストからゴールが生まれ、日本を突き放す。私の隣で観戦していたコロンビアのファンたちが、狂乱と呼んでいいほどのお祭り騒ぎを始めた。

 85分、コロンビアのホセ・ぺケルマン監督は、GKのダヴィド・オスピナに代えて、ファリド・モンドラゴンをゴールマウスに送り出す。当時のモンドラゴンは43歳。控え中心だったが長年代表を支え続けてきた功労者であり、チームのシンボルだった。

 当時の大会最年長出場記録を更新する彼の投入の際、隣で大騒ぎをしていた一団がしばし静かになった。真剣な表情でスタンディングオベーションを続けている。モンドラゴンの登場を待っていたのだ。今までずっと、コロンビアの名を背負い、チームを守り続けてきた男の登場を。

 その光景を見て、こう思った。「これもまたワールドカップの醍醐味なのではないか」と。

ファリド・モンドラゴン

[写真]=Getty Images

 その国の代表の歴史、そこまでの道のり……。それを思い出し、様々な場面を振り返りながら、ファンたちはこの祭典に臨む。時には過去を捨て、代表が次の時代に入ることを確認する。そのためにはシンボルが必要だ。チームのベテランは、偶像としての機能も果たす。

 柿谷曜一朗がゴール前に切り込み強烈なシュートを放つ。モンドラゴンは、それを見事にはじき返した。隣の一団のなかにいた老婦人はそれを観て、泣き声をあげた。胸で十字架を切りながら、何度も何度も祈りの言葉を口にしながら。モンドラゴンは、その出場を機に代表を去った。

 1998年のフランス大会、我々は三浦知良、北澤豪の選出外により、その“儀式”を行えなかった。2002年には、その役を中山雅史が務めた(ように思う)。

 1998年、アレッサンドロ・デル・ピエロの交代要員としてピッチに上がったロベルト・バッジョは、フランスとの準々決勝でPKを決め、チームは敗れたものの、1994年アメリカ大会で味わったPK失敗の呪いを全てではないが祓ってみせた。多くのイタリアのファンは、その“儀式”を受け入れ理解した。

 その種の起用が、チームの戦いにポジティブに作用することも多い。

 26人が“実力”で選ばれていることは大前提だ。それでも、長友はそれ以上の何かを期待してしまう盛り上げ役だけでは物足りない。彼にとっておそらく最後のワールドカップ。点差が開いたチュニジア戦、最後の交代枠で出場機会が来るかと、ひそかに期待した。ただ、ベンチから送り出されたのは、21歳の若武者、後藤啓介だった。

 後藤は、くしくも私の高校時代の同級生の息子さん。彼のワールドカップデビューに私は観客席から心からのオベーションを送った。

 ただ、まだ“彼”の時間は来ていない。選手に満遍なくチャンスを与える森保監督のこと。それは来る。どこかで必ず……。

 ワールドカップには結果以外の楽しみも、数多くある。

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