2014.07.14

W杯優勝までわずかに届かず…メッシは裸の王様だったのか

メッシ
W杯のトロフィーには、あと一歩届かなかったメッシ [写真]=Getty Images

 時計の針は既に120分を回っていた。延長後半終了間際に自身で得たFK。リオネル・メッシの左足から放たれたボールは、ゴールを捉えきれずにドイツサポーターによって埋め尽くされたスタンドに向かっていった。

 ボールの軌道を最後まで見届けたメッシは、命運が決まったかのようにその場に立ち尽くす。ほどなくして、ドイツの24年ぶり4度目の戴冠を告げるホイッスルが響き渡る。最後にして、最も欲したタイトルをすんでのところで獲り損ねたメッシは、呆然として目の前で湧く歓喜をただ見つめるしかなかった。

 改めて言うまでもなく、今大会のアルゼンチンはキャプテンを務めるメッシのチームだった。そして、彼はまさにピッチ上の王様だった。

 守備の負担はチームメートに分け振られ、メッシの役割はとにかくゴールを奪うことだけに特化されていた。ピッチを闊歩する王様と、その周りを働き蜂の如く動き回るチームメートの図式は、決勝でも変わらなかった。

 いざこざが起きれば、ドイツのキャプテンであるフィリップ・ラームが一目散に駆け寄る姿とは正反対に、ゆっくりと近づいて、当事者達と僅かな言葉を交わしただけで離れていってしまう。決勝後半に、ゴンサロ・イグアインマヌエル・ノイアーの衝突があった際も、ハビエル・マスチェラーノセルヒオ・アグエロが血相を変えて主審に詰め寄る一方、悠然と歩くメッシは主審にそれとない抗議をし終わると、倒れたままのイグアインを大丈夫かとばかりに少し気にした程度ですぐに踵を返してしまう。

 90分をスコアレスで終えた延長突入直前には、アレハンドロ・サベジャ監督が円陣の中央で熱弁を振るっていることをよそに、チームの輪の横に座り込む。仲間に促され輪の中に入っても、指揮官の言葉が終わる前にどこか離れていってしまう。

 30分にはメッシのパスから、エセキエル・ラベッシを経由してイグアインがゴールネットを揺らしたが、惜しくもオフサイド。アルゼンチンが沸いた一瞬の歓喜とは裏腹に、メッシは頭を掻きながら既にゴールに背を向けていた。後半から出場したアグエロが、左サイドから強引にシュートに持ち込む。しかし、ゴール前に詰めていたメッシは枠を逸れることを見届けるやいなや、アグエロを一瞥した。

 傍から見ると、王様どころか暴君にも見えなくもない。ところが、さすが存在感は抜群だ。

 ほとんど試合に関与しないが、一度ボールを持てばドイツの選手が数人がかりで包囲網を作り、アルゼンチンサポーターは無得点の時間が続くとメッシの名前を叫ぶ。

 ただ、皮肉にも窮地に陥った時にすがるには、存在があまりにアンタッチャブルになり過ぎていたのかもしれない。

 惜しまれるのは、今大会で初めてビハインドを負った113分からの時間帯。何がなんでもゴールが必要となった状況だったにも関わらず、よりによって王様にボールが集まらない。終了間際のFKの際、隣でバスティアン・シュヴァインシュタイガーが倒れていたこともあり、何度もボールを置き直し、助走の幅を確認するメッシの姿があった。結果論となるが、遠目の位置だったこともあり、味方に合わせる選択肢もあったはずだが、メッシにはその考えがあったかどうかと要らぬ邪推もしてしまう。

 4ゴールを挙げたグループステージの活躍の一方、勝ち進むにつれてアンヘル・ディ・マリアやマスチェラーノといった脇を固める選手にスポットライトがあたっていった。決勝でも不発に終わったことで尻すぼみとなり、最後の最後で裸の王様だったのかという印象すら残した。

 ただ、メッシは裸の王様のように疎んじられてはいない。むしろ、愛されているのだ。

 わずか3年前、確かに彼は母国でもブーイングを浴びせられる存在だった。

 2011年にアルゼンチンで行われたコパ・アメリカでは、よもやのベスト8止まり。当時は、国民から「バルセロナでのメッシは好きだが、代表では全然だ」とはっきりと口にされていたほどである。ところが、失意のどん底を経て、新たにキャプテンマークを託されたメッシは代表でもゴールを量産。南米予選の1位通過に導き、本大会でも最優秀選手に選ばれる働きで、母国の24年ぶりとなる決勝進出の立役者となったことに間違いはない。

 かつて、実兄であるロドリゴ氏は、世界一のサッカー選手を家族に持つことについて、「私達にとってはレオ(メッシの愛称)のような素晴らしい家族を持てるということは、本当に素晴らしい経験で、特別なこと」と語ったことがある。

「レオを家族の一員として持てて、全員が幸せだと思っている。彼は非常に素晴らしく、人間味があり、みんなから愛されているから、本当に嬉しい」

 国民の失望を買ってから、3年。今となっては、家族の部分をアルゼンチンに置き換えても問題はないだろう。

 今大会のメッシは、良くも悪くも王様だった。そして、愛されながらもどこかエゴを捨て切れなかったようだ。

 試合後に「トロフィーを掲げたかった。個人賞はあまり意味がない」と言った通り、メッシはロイヤルボックスで贈られた最優秀選手に渡されるゴールデンボールのトロフィーを掲げることなく、2位チームに贈られたメダルも階段を下る途中に外してしまっていた。ドイツの選手達が作った花道を通ることもなかった。再び訪れた失意の時は、半ば栄冠も見えていただけに苦しさはさらに深まっているかもしれない。

 27歳になったばかりのキャプテンに、眼前で世界王者の誕生に立ち会うという強烈なまでの悔しさが、どのように作用するかは見ものである。もちろん、最も期待されるのは、王様ではなく争いの最前線に身を投じられる勇ましさを持った英雄への変貌だろう。

文=小谷紘友

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