[写真]=Getty Images
2019-20シーズンにおけるセリエAの予想勢力図を整理しよう。
優勝候補は8連覇中の絶対王者・ユヴェントス。しかし前回の記事で指摘したとおりその可能性は1年前と比較して「90%」から「50%」に下落しており、その理由はシンプルに言えば“大きすぎる転換期の不安”にある。
王者の調子が上がらなければ…
開幕戦のスタメン11人に新戦力を1人も使わないあたりが、過去にも同様の転換期を迎えながらそれを難なく乗り切ってきたユヴェントスらしさなのだが、前評判どおりパルマを1-0で退けたとはいえ、やはり内容はそれほどポジティブなものではなかった。このまま「調子が上がらなくとも勝てるユヴェントス」という例年どおりの必勝パターンを築けるか、それともどこかで歯車が狂うことがあるのか。今シーズンのセリエAを見る上での大きなポイントだ。
怪しさを秘めながらも9連覇の可能性を「50%」としたのは、そんな状況であってもやはり、セリエAにおいてはユヴェントスの強さが突出しているからに他ならない。その可能性をさらに引き下げて番狂わせを促し、セリエA全体の面白さを加速させるならライバルの奮起は不可欠である。
スクデットの可能性だけで対抗馬を探るなら、ナポリとインテルの2チームに絞られると見る。
適材適所の補強に成功したナポリ
言わずもがな、ナポリはユヴェントスにとってここ数年における唯一の対抗馬だったと言っていい。今シーズンからユヴェントスの指揮を執るマウリツィオ・サッリは、独創性のある“個”の集合によってソリッドな組織を作る野心的な挑戦で結果を残し、過去4シーズンで3度、2位の座を確保した。
昨シーズンからスタートしたカルロ・アンチェロッティ体制では、サッリ体制下の課題だった“非ローテーション型”の改善に着手。夏に獲得したMFファビアン・ルイスの“大当たり”でジョルジーニョの放出を忘れさせ、結果的には出場時間が増えたピオトル・ジエリンスキが急成長し、1トップ、2トップ、3トップのシステムを使い分けることで攻撃のバリエーションも増えた。
今夏のマーケットでもDFコスタス・マノラス、DFジョヴァンニ・ディ・ロレンツォ、さらにFWイルビング・ロサーノと適材適所の即戦力補強に成功しており、パワーアップが見込める。昨シーズン途中にマルコ・ログ、今夏のマーケットでアマドゥ・ディアワラを放出した中盤の選手層に不安があるが、組織としての充実度とメンバーリストの魅力はユヴェントスにも見劣りしない。
開幕戦ではフィオレンティーナと派手な打ち合いを演じて3失点を喫した守備の不安を指摘する声もあるが、第2節でいきなりユヴェントスと対戦するスケジュールを考えれば、“派手に勝つ”ほどポジティブな流れはない。序盤戦の最注目マッチで絶対王者を倒せば、他チームのモチベーションを高める意味も含めて番狂わせの“可能性”を広げることができる。
爆発力を兼ね備えたインテルは最も楽しみなチームに
一方のインテルは、今シーズンのセリエAにおいて最も楽しみなチームだ。
何と言っても、かつてないほどの魅力的な補強を実現したことによる期待感が大きい。前線には存在感を誇示する場を求めてプレミアリーグからやって来たいずれもビッグネームのロメル・ルカクとアレクシス・サンチェス。中盤にはイタリアサッカー界の未来を担う“走るクリエイター”のニコロ・バレッラと同じくアッズーリに名を連ねる“闘えるレジスタ”のステーファノ・センシ。最終ラインには33歳の今も世界屈指の名手であるディエゴ・ゴディンを加え、補強ポイントの1つだった左サイドバックにはダイナミックな攻撃参加と高精度のクロスを誇るクリスティアーノ・ビラーギを加えた。
指揮官は、ユヴェントスの8連覇における“最初の3年”を獲ったアントニオ・コンテである。クラブCEOとして彼を招へいしたのは、昨シーズン途中までユヴェントスのゼネラルディレクターを務めたジュゼッペ・マロッタだ。対ユーヴェの構図を考えれば、その機運の高まりは間違いなく彼らによって作られていると言っていい。
昇格組のレッチェをホームに迎えた開幕戦は、圧巻の出来だった。ウォームアップ中のケガによってステファン・デ・フライが欠場したことは誤算だったが、ミラン・シュクリニアル、ダニーロ・ダンブロージオ、アンドレア・ラノッキアの3バックは無失点ゲームを演出し、中盤ではスタメン出場したマルセロ・ブロゾヴィッチとセンシ、マティアス・ベシーノがそれぞれに攻撃的な特長を発揮してルカクとラウタロ・マルティネスの2トップの背中を押した。
攻撃意識が高まりすぎて中盤のバランスが乱れ、ミスからショートカウンターを食らうシーンもあったが、ルカクのゴール、アントニオ・カンドレーヴァの復調とポジティブな要素ばかりが際立つゲームだった。
安定感ならナポリ。爆発力ならインテル。チャンピオンズリーグとうまく向き合うことができれば、この2チームは、やはりユヴェントスを脅かす力を秘めている。
ナポリ、インテルに続くのは“ローマの雄”
彼らの後には、ローマ勢の2チームが続く。
昨シーズンのコッパ・イタリア王者であるラツィオは、チームとしての充実ぶりではナポリに並ぶ。今夏のマーケットでは派手な動きはなかったものの、昨シーズンのベストプレーヤーのひとりである右サイドのクロッサー、マヌエル・ラッザーリをSPALから獲得。開幕戦では敵地でサンプドリアを圧倒し、3-0と好スタートを切った。
中盤の安定感は昨シーズンと変わらないが、やはり特筆すべきはチーロ・インモービレとホアキン・コレアが形成する2トップの破壊力だ。サンプドリア戦でも2人の連係によって敵陣にスペースを生み出し、そこを突いてゴールを奪う絶妙のコンビネーションを披露。この連動的な動きによってスペースを生む信頼関係こそ彼らの強みだ。スクデット争いには及ばないかもしれないが、チャンピオンズリーグ出場権を勝ち取るだけのチーム力は十分にある。攻撃的な駆け引きと大胆な采配が魅力のシモーネ・インザーギ監督には、今シーズンも注目したい。
クラブそのものの変革期に直面しているローマにとって、ピッチで出す今シーズンの結果は今後を左右する重要な要素だ。ピッチからはダニエレ・デ・ロッシが去り、フロントからはフランチェスコ・トッティまでもが去った。ファンの心情を大きく揺さぶったこの事実と向き合うためにも、より強く結果が求められる1年となる。
カギを握るのは新戦力だ。もっとも、落ち着きのないフロントの様子に反してマーケットでの立ち回りは決して悪くなく、最終ラインにはレオナルド・スピナッツォーラ、ジャンルカ・マンチーニ、ダヴィデ・ザッパコスタと代表クラスを補強。中盤にはサッリ時代のナポリで頭角を現したアマドゥ・ディアワラと昨シーズンはフィオレンティーナで活躍したジョルダン・ベレトゥを獲得。余剰戦力と言われたイバン・マルカノやリック・カルスドルプを放出し、体制は整えた。
ジェノアとの開幕戦は3-3のドローに終わったが、勝負は第2節だ。いきなり実現するラツィオとのローマダービーで、昨季終盤から漂うネガティブなムードを一新したい。
快進撃の可能性を秘めたチームは?
個人的にはチャンピオンズリーグに参戦するアタランタ、アンドレア・ピナモンティやクリスティアン・クアメ、パオロ・ギリョーネら魅力的なヤングタレントが揃うジェノア、アルマンド・イッツォを軸とする堅守が魅力のトリノ、さらにマリオ・バロテッリとサンドロ・トナーリがコンビを形成するブレシア、ラジャ・ナインゴランが帰還した“島クラブ”カリアリにも注目しているが、彼らの快進撃については、それが起きてから改めて記したい。
今シーズンのセリエAは、ユヴェントスの牙城がついに崩れるかもしれない――と最も強く期待したくなるシーズンだ。言い方がまどろっこしいが、「とにかく何かが起きそうなセリエA」を、今シーズンはさらに注意深く見守る必要がありそうだ。
文=細江克弥
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By 細江克弥