[写真]=Getty Images
イタリア代表を指揮するロベルト・マンチーニもしかり、かつて日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニもまたしかり。今シーズンも多くの識者が「絶対的」とユヴェントスを推すのだが、果たして、結末は本当にそうなるだろうか。
ちょうど1年前、ユヴェントスのセリエA8連覇の可能性については「90%」と断言したが、現時点における9連覇の可能性については「50%」と見る。その理由は、現時点での成否の可能性を「フィフティ・フィフティ」と言いたくなる不確定要素が、例年と比較して多いこと。だから今シーズンに限っては、この絶対的王者に懐疑的な視線を向けることで新シーズンの展望としたい。
最大の敵の1人だった新指揮官
最大の懸念は、やはり新指揮官のマウリツィオ・サッリだろう。
周知のとおり、ユヴェントスにとって“ナポリのサッリ”は、近年における最大の敵の1人だった。ユヴェントスのジャージを着ることになったサッリは、自身の就任会見でこう言った。
「ナポリを率いた3年間、毎朝目が覚めると必ず、どのようにしてユヴェントスを倒すかについて考えていた。ユーヴェに勝つことに110%の力を注いできたんだ。中指も立てた。だからここでは憎まれるかもしれないが、目標に向けて心血を注いだ仕事ぶりについては評価してほしい」
確かにサッリは、ナポリをあのマラドーナがいた時代以来の最強チームに仕上げた。ユヴェントスとの直接対決では、リーグ戦で2勝1分3敗、コッパ・イタリアで1勝1敗と大善戦。しかし、1年目は9ポイント差で2位、2年目は5ポイント差で3位、3年目は4ポイント差で2位と及ばなかった。2年目、3年目はポイント差こそ小さかったかが、これは早めに優勝を決めたユヴェントスが最後の最後に力を抜いた結果とも言える。
直接対決で互角に渡り合いながらスクデット争いで水を開けられた理由ははっきりしていた。サッリは完成度の高いチームを作った一方でメンバーをある程度固定し、ナポリは“一発勝負”にはめっぽう強いチームになった。しかし、並行してチャンピオンズリーグを戦う長い1年においては、常に新しい刺激を入れながらチームの高水準を保ち、疲労感がプレーレベルを上回る時期を作らないのが指揮官に求められるマネジメントである。
ナポリ時代のサッリは、メンバーのローテーションを頑なに行わなかった。チェルシーでの1年間を経てユヴェントスの指揮官になり、そうした姿勢にどのように変化が生まれているのか。前任のマッシミリアーノ・アッレグリが持っていた特筆すべきシーズンマネジメント能力は、ユヴェントスが連覇を継続するために不可欠な武器だった。その点におけるサッリの力は未知数である。
“らしくない”補強戦略を経て
2つ目の懸念要素は、移籍マーケットの立ち回りから見え隠れするここ数年の“らしくなさ”にある。
前ゼネラル・ディレクターのジュゼッペ・マロッタは、いわゆる「カルチョ・スキャンダル」以降のユヴェントスを救った立役者のひとりだった。サンプドリア時代から定評のあった適材適所の補強はユヴェントスでも奏功し、毎年のように主力選手を抜かれながらも大崩れさせない手腕は見事だった。しかし昨年秋、突如として退任。後任に就いたのは、長年にわたってマロッタの右腕として“現場責任者”を務めてきたファビオ・パラティチである。
誰もが驚いたクリスティアーノ・ロナウドの獲得はこの人事以前に実現したが、事実上、この電撃移籍が新体制のスタートだった。クラブがパラティチに託したタスクは何か。もちろん、チャンピオンズリーグ(CL)制覇である。それまでのクラブの目標は「チャンピオンズリーグを含むできるだけ多くのタイトル」だったが、この時点で、明確にたったの1点に絞られた。これだけ長くリーグの覇権を維持してきたのだから当然のことだが、それほどまでに、今のユヴェントスはビッグイヤーを欲しがっている。
となれば、補強計画も話は早い。見据えるのは“数年後”ではなく“今”で、文字どおりの超即戦力をかき集めたい。もちろん、フリーで手に入れたアーロン・ラムジーとアドリアン・ラビオはもちろん、マタイス・デ・リフトも19歳とはいえ数年後のレギュラーではなく超即戦力。おそらく“慣らす猶予”を計算に入れていない。昨季終了時点でアッレグリを退任させたことも、「このままではCLを獲れない」と判断したからにほ他ならない。
アカデミーからの生え抜きであるクラウディオ・マルキージオの放出もそうした姿勢に由来するし、今夏のマーケットではアッレグリ体制下で“イズム”を体現したマリオ・マンジュキッチを売り台に乗せた。昨季までの主力という意味では、サミ・ケディラもしかり、ブレーズ・マテュイディもしかりである。これまでのユヴェントスにも「去る者追わず」の潔さはあったが、今は少し、雰囲気が違う――そのあたりの立ち回りに“らしくなさ”を感じるユヴェンティーノは、きっと多いに違いない。帰ってきたジャンルイジ・ブッフォンは、この1年の変化をどう見ているだろうか。
もっとも、プレミアリーグの移籍マーケットが例年より早くクローズした影響で、移籍マーケットでの“売り”はうまくいっていないのが現状だ。パウロ・ディバラを筆頭に、クラブが売り台に乗せた選手のほとんどにまだ買い手がついていない。それはすなわち、本格的にシーズンがスタートしてからの、指揮官のマネジメントを難しくする。
尽きることがない9連覇への不安要素
その他にも細かい問題は多い。プレシーズンの仕上がり具合はイマイチで、システムも陣容もはっきりせず、加えて肺炎を発症した指揮官サッリの一時離脱が決定した。ピッチの内外に不安材料は多い。
それでもシーズンが始まれば着実に勝点を積み上げきたのがユヴェントスだが、今シーズンに限っては、例年どおりとはいかない可能性が例年よりも高い。
最大のライバルであるナポリは“現状維持”の補強戦略に成功し、インテルは大型補強で生まれ変わりつつある。ライバルの動きは例年以上に順調なだけに、今シーズンのセリエAは“1強”ではない新たな時代の始まりとなる可能性を秘めている。
文=細江克弥
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By 細江克弥