2018.12.21

【インタビュー】ドイツでファンの心をつかんだ21歳のアタッカー、伊藤達哉が持つ知性と向上心

伊藤達哉
2016年にドイツに渡った伊藤達哉、昨シーズン途中からトップチームでプレーする [写真]=Getty Images
サッカーキング編集部

 昨シーズン、ブンデスリーガの屈強なDFたちを翻弄した日本人がいる。ハンブルガーSVに所属する伊藤達哉――。切れ味鋭いドリブルとスピードを武器にする21歳だ。

 163センチの小兵アタッカーが、大柄な選手の間をスルリスルリと面白いように抜き去っていく姿は、見ていて気持ちが良い。一体どこまで行くんだ? とワクワクしてくる。

 たぶん地元のファン・サポーターも同じ気持ちだと思う。伊藤がボールを持つたびに、本拠地のフォルクスパルクシュタディオンには大歓声が響く。けれど、2部の舞台で戦う今シーズンは、そんなプレーを見る機会が少ない。クリアになっていない部分があって、と伊藤は頭の中から言葉を探るように話す。

 伊藤はとてもクレバーな人間だ。自分を一歩引いたところから見ることができるし、その時の感情や状態を言葉にする能力に長けている。会話をしていると、まだ21歳だということをつい忘れてしまう。だから、彼の「言語化できない」という表現に、今のすべてが凝縮されているような気がした。葛藤はあるけれど、焦りはない。自分と向き合う伊藤から感じ取れたのは、向上しようとする意欲だった。

「相手をどう抜くか」のイメージがある時はストレスを感じない

――今シーズン、クラブは2部を戦っています。ここまでを振り返ってみていかがですか?
正直、今は試行錯誤しています。戦うリーグが変わって、10月には監督も代わりましたからね。やっているサッカーが昨シーズンとは違っていて、どういうやり方がいいか模索している途中です。僕自身、まだ100パーセントの力を表現できていませんし……。クリアになっていない部分が鮮明になれば、もっとチームを助けられるんじゃないかと思っています。

――やるサッカーが違うとは?
1部の時は僕たちが常に格下だったので、例えば前からボールをどんどん奪いに行くようなアグレッシブな戦い方ができました。でも2部になると、僕たちが格上として捉えられる。対戦相手が低いラインで守備を固めてくるのでスペースがなくなって、ロングボール主体の攻めになってしまう。そうなると、僕の良さは出せない。1部とは違う難しさがあると感じています。

――では、自分の中でクリアになっていない部分とは?
んー……。自分でも正確に言語化できないというか。多分、言語化できていたら問題ないと思うんですよね。“なんかやりづらいな”というのが常にあって。コンディションも上げていかないといけないんですけど、“やり心地が良い”という感覚がないんですよ。そこは監督やチームメートと話しながら、良い方法を見つけていけたらいいと思っています。

――伊藤選手に対するマークも厳しくなっていますね。
そうですね。去年よりも相手選手が僕のことを知っていると感じます。ただ、自分の調子が良ければ、どんなに厳しくマークされていてもストレスを感じることなくプレーできる自信があります。実際に、昨シーズンの終盤戦はすでにマークが厳しくなっていましたけど、ストレスを感じることはありませんでした。今シーズンもそういった感覚は何度かありましたけど、コンスタントにできていない。そこは課題ですね。

――その感覚をもう少し詳しく。
ボールを受ける前から「相手をどう抜くか」のイメージができているかどうか。それができている時は、90分間何も考えずにプレーできるので、ストレスを感じないんですよ。その感覚が生まれない時は、「良くないな」と考えてしまって、余計に悪いほうに傾いてしまうというか……。

――抜き方のイメージができるのは、あらかじめ相手の情報を予習しているからでしょうか。それとも、実際にプレーしながら相手の特長をつかんでいくのでしょうか。
相手のサイズやプレースタイルはスカウティングの情報で何となく頭に入っています。でも、実際に試合でつかんでいくことのほうが多いですね。本当に調子が良い時は、相手の間合いが手に取るように分かる。相手も1、2回抜かれると、焦ってボールを取りに来るので、そうなるとよりやりやすいですよね。

――2部の戦いではどうしてもフィジカル勝負が増えますし、もっとステップアップしたいという意欲を持った選手が多いと思います。そういう選手たちと対戦する上で意識していることはありますか?
僕は体が小さくて、相手に当たっていけるタイプではないので、どの選手よりも体のキレを良くしておかないと使い物にならない。プレーの仕方というよりも、自分のプレーを常に最大限発揮できるように練習前後のケアを意識しています。

――そうすることで、持ち味であるスピードを発揮できると。
そうです。もっとスピードに乗ったドリブルは出していきたいですね。やっぱり止まった状態からスタートして加速するほうが得意なので、そこはもっと磨いていきたいところです。

――ドリブルで抜く時は何を意識していますか?
フェイントをかけるというよりは、間合いを見て、相手が届かないところにボールを置くことを意識しています。相手に向かって行くのではなく、空いているスペースに運んで行くイメージです。今シーズンも長い距離を運んで、最後はシュートを打った場面がありましたけど、そういうプレーを増やしていきたいですね。

――抜いた後はフィニッシャーとの連係が重要になってきます。FWのどういう動きを見て、どういう判断をしていますか?
例えば、僕が左サイドを突破した時に、FWの選手がどこにいるかを見て、ニアなのかファーなのか、マイナスなのかを判断する。選手によって動き方が違うので、それは練習の中で把握するようにしています。サイドを突破した後はFWの選手がちゃんと合わせられるところにボールを渡してあげる。そこまでが僕の仕事だと思っています。体ごと突っ込んでいく選手なのか、きれいなシュートを決めたい選手なのか、足元でもらってシュートを打ちたい選手なのか。選手のスタイルや性格も意識しています。

「お前は準備万端なのか」と毎日自問自答している

――森保一監督に招集された9月の代表戦で「連係面で難しさがある。ドイツとは違う」と言っていました。具体的にどういった点で難しさを感じましたか?
連係面というか、日本とドイツのサッカーにはいくつも違いがあると感じました。一つ挙げると、あまりボールを持たず、カウンターのようにゴールに直結する動きを繰り返すドイツに対して、日本はボールを大事に握って、遅効で攻めていく。練習中から何となくそのテンポに慣れないというか……。もちろん、日本人同士のほうがコミュニケーションを取りやすいですよ。でもなんだろう……。そういうテンポがやりづらいと感じたんです。僕のような選手はスペースが欲しいので、遅効になればなるほどそのスペースがなくなってしまう。そういう意味で、僕個人としてはやりにくさを感じました。

――守りを固めてくる2部のチームを相手に良さを出せるようになれば、日本代表でも伊藤選手の良さが生きてくるのでは?
そう思います。狭いスペースでも、僕一人で相手をかわすことができれば一番いい。だけど、やっぱりスペースが限られていると難しい。そういう場面では周囲との連係が必要になってくると思います。昨シーズンは連係で崩すプレーをコンスタントに出すことができなかった。少ないタッチで味方とボールを回して崩せるようになれば、代表でのプレーにも生きてくると思います。

――話を聞いていると、現状を冷静に分析して、前向きに捉えているように感じます。焦りはありませんか?
まあ、僕はどんな時でも物事をプラスに考えるタイプなので(笑)。出番をもらえるように練習からアピールしますし、出番が来た時に自分のプレーを出せればいい。今シーズンが終わるまでに、スタメンを勝ち取れる選手になっていたら、去年の自分よりも大きくなったということですからね。少し焦ったほうがいいのかもしれませんけど(笑)。自分の成長次第ですし、楽しみです。チームは首位に立っているので、今後は自分も助けになりたいと思っています。

――成長するために、参考にしている選手はいますか?
ナポリのロレンツォ・インシーニェとドリース・メルテンスですね。

――なかなか渋い選手を(笑)。
そうですか?(笑) 2人とも僕と同じようなサイズですけど、毎年ゴールとアシストを量産している。プレーの質とアイデアで完全に相手を上回っていて、身長が低いことを全く感じさせない。あんな選手になりたいと常に思っています。

――将来的にプレーしてみたいリーグはありますか?
プレミアリーグやセリエAに挑戦してみたいです。でもそれは3、4年後の話というか、長期的なプランになりますね。今は今シーズンのことで頭がいっぱいなので。でも、いつかはプレーしてみたいという気持ちがあります。それこそナポリで彼らのような選手と一緒にプレーできたら最高ですね。

――長期的なプランの中には、2年後に東京で開催される大会も入っていると思います。
そうですね。さっき、現状に焦りはないと答えましたけど、それに関しては焦りがあります。その世代では絶対的な主力として出たい。東京が地元なので、開催が決まった時からモチベーションは相当高かった。主役になってやろうという気持ちは今も変わっていないし、本番でも譲る気はない。そこに対する焦りはあります。「もうすぐその舞台が来るけど、お前は準備万端なのか」と毎日自問自答していますね。でも、その気持ちがモチベーションにつながっている。絶対に譲りませんよ。

インタビュー・文=高尾太恵子
取材協力=ナイキジャパン

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