バルセロナを好きになった経緯
日本屈指の戦術眼を備えていると形容される、川崎フロンターレの中村憲剛。2016年のJリーグMVPに輝いた36歳のこのプレーメーカーは、ピッチを離れてもサッカーのことで頭がいっぱいだ。そんな彼を魅了し続けてやまないクラブが、スペインのバルセロナである。中村憲剛のバルサ好きはサッカー界でも有名で、一度、語り出すと止まらない。まずはその出会いと魅力から語ってもらった。
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インタビュー・文=いしかわごう
写真=野口岳彦、ゲッティ イメージズ
――バルセロナとの最初の出会いをさかのぼると、いつになるんですか?
「1992年ですね。チャンピオンズリーグではなく、まだチャンピオンズカップだった時代で、バルセロナとサンプドリアの決勝戦でクーマンがフリーキックを決めた試合なんですけど…。(周囲を見渡して)大丈夫ですかね?半分ぐらいの人が、すでにポカーンとしてますけど(笑)」
――92年はヨハン・クライフが監督だった時代ですね。試合を見て感じるものは、何かありましたか?
「独特だな・・って思いました。適当じゃないというか、哲学のようなものを子供ながらに感じました。自分たちが美しく勝つ。それが体現されているチームだなと。あとは何でしょうね・・・名前とか字面にも惹かれました」
――えっ、字面ですか?
「バルセロナという響きも、自分にヒットしました。こんなこと初めて言いましたけどね(笑)」
――当時はトヨタカップを見る機会もあったと思いますけど、南米よりも欧州のほうが好きでしたか?
「あの当時のトヨタカップは、サンパウロにライーがいて、点を取ってバルサに勝ったんですよ。でもなぜかバルサのほうに惹かれたんですよね・・・何でだったんでしょう。ただ、好きなことに理由はないですね。とにかく惹かれました」
グアルディオラ政権の圧倒的強さ
ファン歴が20年以上あるので、クラブの歴史を語る言葉も実に流暢だ。ファンハール監督が来てオランダ化したことでクラブの哲学が少し薄れた時代、リバウドが活躍した時代、リケルメが機能せずに移籍していった時代、ロナウジーニョやデコが躍動した時代・・・・語り始めると、本当に止まらない。それでも、ベストを問われると、迷わずペップ・グアルディオラ監督の時代を挙げる。メッシによるゼロトップやイニエスタやシャビを中心とした中盤によるパスワークで、驚異的なポゼッション率を誇るサッカーを展開。無敵とも言えるほど強さを発揮したペップ時代は、歴史上最強のチームとも称されたほどだ。
「グアルディオラのときは、ものすごく見てましたね。中継されている試合は全部見てるんじゃないかな。彼の自伝も3冊ぐらい読みましたし。自分が監督だったらこうしたい、と監督目線で見ていました」
――どこが素晴らしかったですか?
「とにかく緻密でした。その前のライカールト監督の時代は、組織としては少し脆かった。そこをペップが全部埋めたと思ってます。切り替えのところもそうだし、個を生かしながら、ボールを回収する能力のところもそう。ペドロもいて、ブスケッツが出てきてカンテラばかりになって、バルサイズムをグラウンドで表現できる監督だったので・・・・観ていて強烈でした。信じられないぐらい強かったですし。今でも6点ぐらいとりますけど、あのときは本当に隙がなかった」
――ボールを大事にする哲学を、とことん貫いてましたね。
「今も丁寧ですけど、それぞれが自分に集中して、攻守に気を抜いている時間がほとんどなかったと思います。ピッチにいる11人が同じことを考えて、自分たちのボールは取られないようにする。チームの約束事はありつつも、個人の判断と技術で、ボールを取られないというところは徹底していた。体が大きくない中で、相手に触れられないようにポジションを取りながらプレーしている。自分のサッカーに対する考えのベースはバルセロナにありますね。そのぐらい影響を与えてもらいました」
サッカー選手を刺激するバルセロナの魅力
中村憲剛だけではなく、バルサイズムに影響を受けた日本人選手は多い。そこには、サッカーの楽しさが詰まっているからだろう。グアルディオラ政権時代、日本代表はザッケローニ監督が率いていたが、選手の間でもバルサのサッカーはよく話題にあがっていたという。
「バルサを好きな選手は多かったですよ。ヤットさん(遠藤保仁)とか、今ちゃん(今野泰幸)とか。やっぱり、みんなああいう風にやりたいじゃないですか。相手にボールを触らせないでゴールを取る。相手ボールでも息をつかせずに、ボールを取って、また自分たちのボールにして攻める。本来、ゴールに向かうのが楽しくてサッカーやっていたと思うんですよ。サッカー選手である以上、そこがスタートなので、みんなにもスッと入ると思うんです。食事中も、守って守ってという試合を見るよりは、攻撃が面白いチームを見るほうが楽しいですし(笑)」
――もし、あのときのバルサの中盤に自分が入ってプレーしたら・・・というイメージは沸きますか?
「その発想は無駄ですけど(笑)、面白そうですよね。でも物凄く緊張するんだろうな」
――あの中でプレーすると、自分の中でどんな感覚が満たされそうですか?
「たぶん、パス一本でわかると思うんですよ」
――具体的には?
「ここに、この角度で(パスが)入ってくるんだとか、このタイミングで右足につけてくるんだ、とか。そういう幸せな時間があればいいなぁ・・・」
――ああいうチーム、今後もまた出てくると思いますか?
「それは難しいと思います。みんな目指すだろうけど、中途半端に目指して痛い目を見ているチームもたくさん見てきたので。それだけメッシという存在が本当に大きいんじゃないかと思います」
ブスケッツに感じる凄み
話題は、ルイス・エンリケ監督政権の現在のバルセロナに進む。メッシ、スアレス、ネイマールのMSNで構成された最強の3トップについて評価しながらも、一番熱を持って中村が語り出したのは、やはり中盤の底に君臨している、あのいぶし銀の選手についてだった。
――現在のバルサはどうですか?
「それまでは中盤ありきだったのが、今は前線ありきですよね。まずMSN(メッシ、スアレス、ネイマール)の3人を気持ちよくプレーさせて点を取る。それで流れを引き込む。主役は彼らだし、それで優勝しているので、文句はないです」
――3人のコンビネーションというのは、1トップや2トップよりも可能性は広がるものですか?
「彼らはパターンじゃないですよね。崩しの質が、『あれは練習してないでしょ?』というレベル(笑)。それぞれが、瞬間、瞬間の即興でやっているのだと思いますよ」
――アドリブですか?
「もちろん、お互いの信頼感もあって成り立っています。メッシだったら、ここを絶対に通してくる。そして、それを信じて走り出す。その連続ですね。ただチームとしての隙はありますよね。ディフェンスのときも、前の3人が残っていたりするので・・・最近は2人に可変していますが。ボールを奪われたときの切り替えも、ペップのときのほうが徹底していた。ピンチも多いので、エンタメ性は高いかもしれません(笑)」
――それとバルサの中盤の肝といえば、ブスケッツでしょうか?
「彼を語り出すと、ここから1時間ぐらい話せますよ?もし、バルサから誰かを引っ張ってこいと言われたら、自分はブスケッツですね。自分がイメージしているサッカーにはブスケッツが必要です。メッシですか?メッシがいると一人でやってしまうので(笑)」
――ブスケッツの凄さというのは?
「いて欲しいポジションにいる!(パスワークが)詰まったなというときに、スルスルっと斜め後ろにいるんですよ。みんなが詰まったときに助けてくれる・・・それがブスケッツ。次の選手がやりやすいところにボールを運んでくれるし、守備も一人でできる。あれだけ大きいのに足技もうまいんですよね。ダイレクト、ツータッチ、ミドル、ロングと、全部のパスが出せる。なにより、あれだけの選手なのに目立ちたがらないのがいいですね」
――ピッチに彼を置くだけでチームが上手く回っていく。
「前をとにかく気持ち良くプレーさせますから。ボールを取られないで、かつプレッシャーをうけてもボールを前に運べる。あのサッカーを体現する中では重要なピース、心臓ですね。彼がいなくなると、誰をはめてもしっくりこないんです。マスケラーノがいてもちょっと違うし、ラキティッチもまた違う」
――ボランチが中盤でボールを持ったときに受けるプレッシャーの大変さは、憲剛選手もよくわかると思います。
「よくあそこで受けられるな、と。もちろん、チームとして逃げ道を作っているのだけど、彼がボールを受けるのが怖がったら、もうチームが成り立たないんです。彼がプレーをすることで全員が息をできる。絶対にボールを取られないと思って、プレーしているんでしょうね。その強気な姿勢は大事なんですよ」
日本代表が強くなるヒント
バルセロナの哲学と歴史を通じて、話題は日本サッカーの強化にも及んだ。日本代表がワールドカップに出場するのは当たり前になった現在、日本がさらに進化するためのヒントは、どこにあるのだろうか。中村憲剛なりの提言をしてくれた。
――日本のサッカーは、あの領域にたどり着けますかね?
「向こうが止まればいいですけど、向こうも進んでいきますから、なかなかそこに到達するのは難しいと思います。同じ土俵でやろうとしても厳しいかもしれませんね。体も作りも違うし、やはり身体能力も違うので。単純に身体を強くするとか、そういうアプローチも大事ですけど、日本人特有の勤勉性、俊敏性も生かしていく。そういうオリジナリティを意識的にやっていっても良いかもしれません。『これが日本のサッカーだ』というのを出していかないと」
――日本が世界と戦う上で、個と組織の問題はよく話題に挙がります。
「個で戦える日本人選手がたくさんいればいいですけど、一番上のレベルに行ったらなかなか難しい。例えば、バルサの前線3人は個が強烈で、そういう選手たちを相手にしないといけない。1対1で勝つのはもちろん目標として大事なことです。でも、そこを2対1で抑えるとなると、チームとしてどこかでズレが出てくる。現段階で個で劣るのは仕方がないし、個で勝つ選手を育成するのは大前提。それに、むこうも進歩してきますからね。世界的にもグループワークができる代表チームもどんどん出てきています。そう考えると、なかなか同じ土俵に立つのは難しい気がしている・・・なんか暗くなりますね(笑)」
――だからこそ、日本のオリジナリティが重要だと?
「日本独自の道もありだと思いますね。そういう意味では、バルサの真似じゃないですけど、良いところを学ぶというか。まともにぶつかったら勝てないわけで、だったら相手に当たらないでゴールに行けばいいとか。もちろん、そういうことは、みんなが考えているとも思いますし、どこかで日本サッカーが舵を切るタイミングが来るかもしれません」
――いずれにせよ、時間が必要ですね。
「日本はプロ化して、まだ20数年です。むこうは100年を越えてますから。でも日本が世界に追いつくためにはどうすればいいのか。そこを真剣に考えたので、日本のサッカーはワールドカップベスト16まで進むことができました。それは進歩ですよ。だって自分が子供の頃、ワールドカップは『見るもの』だと思っていましたから。今は『出ること』が当たり前になりました。意識って変わってくるし、それってすごい変化ですよ。今の子供も、ワールドカップに日本が出るのが当たり前だと思っているはずです」
――なるほど。
「子供達も、海外でサッカーやりたいって普通に言いますよね?自分が小さい頃は、そんなことを言ったことがなかった。だって、日本にプロがなかったですから(苦笑)。プレミアリーグにいきたい、バルサにいきたいという発言が出ている時点で日本のサッカーは相当進化していると思います。もちろん、ここから先に進むには、そんなに簡単じゃないですよ。ブラジルやアルゼンチンでもワールドカップ決勝トーナメント一回戦で負けますから。でも前進していかないといけないと思います。日本サッカーを強くするためにも、いろんな関わり方があると思っています。だから、ウイイレなんかは良いと思ったんですよ」
――「ウイニングイレブンでサッカー観を養う」というのは面白いアプローチですね。
「そうですね。子供たちが『ウイイレ? そんなのあるの?』って知って、ウイイレがポンっと世の中に出たらすごくないですか? 日本サッカーの強化に携わるわけですから。代表とかでも結構みんなでやってましたからね」
――ウイニングイレブンを選手同士でやることを“ウイニケーション”というらしいです。
「え!? 造語じゃん! でも、その人のサッカー観が分かりますからね。『そこつなぐんだ』とか『そこでスライディング行くんだ』とか。実際の練習とかでもそういうのが出るんですよ。だから面白いんですよ」
冒頭からバルセロナへの思いが全く尽きないインタビューは後半へ。これほど情熱を注ぐチームを中村憲剛が采配を振るったらどうなるのだろうか?そこで、インタビュー後半では”中村憲剛監督”としてクラブマネージメントゲーム「ウイニングイレブンクラブマネージャー」をプレイしてもらった。采配を振るったチームはもちろんバルセロナ。日本屈指の戦術マニアが見せた采配のこだわりとは…。
【インタビュー:後編】中村憲剛が「ウイクラ」で見せた“名将”の素質…日本屈指の戦術マニアが「ウイクラ」で監督に
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