[写真]=Getty Images
日本代表の切り札、三苫薫を擁するブライトンは近年、目覚ましい躍進を遂げた注目クラブの一つだ。
創設は1901年。実に120年以上の歴史を誇る計算だが、フットボールリーグ時代におけるトップディビジョンの在籍期間は79-80から82-83シーズンまでのわずか4季。また、97年から2011年までは正式なホームスタジアムすら持たずに戦っていた。
転機は2009年。資産家のトニー・ブルームが財政難にあえぐクラブ(当時3部)を買い取って、新オーナーとなる。少年時代から“シーガルズ”(クラブの愛称)のサポーターを自認するブルームは、人一倍の情熱と冷静さをもって再建に着手。まず、2年後の11年7月に肝心の根城(現アメックス・スタジアム)を手にすると、16-17シーズンにEFLチャンピオンシップ(2部)で勝ち点を積み上げ、宿願だったプレミアリーグ初昇格を果たす。トップディビジョンへの返り咲きは、実に35年ぶりのことだった。
プレミアリーグ初参戦の17-18シーズンから2季連続で残留。もっとも、指揮官クリス・ヒュートンの手掛ける“堅守速攻”は頭打ちで、さらに上を目指すには何かを変える必要があった。そこで新監督に抜擢されたのがグレアム・ポッターである。19年夏のことだ。その哲学は前任者のそれとは対照的であり、ポゼッションプレーを基盤とするアタッキング・フットボールの信奉者だった。つまり、この監督人事はチームの“大転換”を意味したわけだ。
見事、オーナーの決断が吉と出る。就任1年目は15位、2年目も16位止まりだったが、3年目の21-22シーズンに大きく跳ねる。アーセナルやマンチェスター・ユナイテッドを相手に勝利を収めるなど強豪クラブとも堂々と渡り合い、最終的には9位でフィニッシュ。周囲の想像をはるかに超えるサプライズとなった。
しかも――である。この目覚ましい躍進には“続き”があった。翌22-23シーズンも開幕から4勝1分け1敗と好スタートを切ると、その手腕を評価された指揮官がチェルシーに引き抜かれてしまう。突如、躍進の立役者を失うことになったが、それもステップアップの呼ぶ水でしかなかった。ポッターの跡目を継いだ気鋭の指揮官がチームをさらなる高みへ引き上げたからだ。その人こそ、イタリアの鬼才ロベルト・デ・ゼルビである。
チームの設計は極めて革新的。キャプテンのルイス・ダンクを含む2人のセンターバックと2人のピボットが自陣の深い位置で執拗にパスをつなぎ、敵が食いついてきたところで一気にラインブレイクを狙うスリリングな戦術は斬新の一語。当代随一の名将とも言うべきマンチェスター・シティのペップ・グアルディオラもその戦いぶりを絶賛したほどだ。事実、マンCを含む強豪クラブの多くが恐れを知らない“デ・ゼルビ・ボール”に苦しめられることになった。
見事な戦いぶりは数字にも表れている。チーム総得点は4位で、1試合平均のボール保持率(60.5%)はマンC、リヴァプールに次ぐ3位。1試合平均のシュート数(16.1)に至ってはリーグ最多だった。わずか1年でクラブ記録を塗り替える6位に食い込み、クラブ史上初となるUEFAヨーロッパ・リーグの出場権を手にした。
冒険的なフットボールは実に魅力的なものだったが、それも優秀な人材がそろったからこそ。だが、資金力にモノを言わせて実力者をかき集めたわけではない。その多くは加入時点で名の知られていない“無印良品”である。誰あろう、三笘がそうだ。イングランド人にとって未知の存在だったからこそ、鋭い単騎突破でツワモノたちを手玉に取る日本人の躍動は衝撃的だった。オーナーの掲げる強化指針とは、経験豊かなベテランと将来性豊かなヤングガンズとの融合にある。とりわけカギを握るのが安価で手に入る“スター候補生”の発掘だ。このリクルーティング・システムがいかに優秀か。ブライントで一気に覚醒し、強豪クラブに引き抜かれた選手たちの顔ぶれを見てもわかる。
アーセナルで活躍するベルギー代表のFWレアンドロ・トロサール、リヴァプールで10番を背負うアルゼンチン代表のMFアレクシス・マック・アリスター、チェルシーに在籍するスペイン代表のDFマルク・ククレジャとエクアドル代表のMFモイセス・カイセド、トッテナムの中盤を支えるマリ代表のMFイヴ・ビスマ……。いずれもシーガルズの一員となってからメキメキと頭角を現し、その名を売った成功者たちだ。彼らの台頭なくして、ブライトンの躍進もなかった。
ともあれ、近未来のスターに出会いたければ、ブライトンを見ればいい。シーガルズの動力源はやはり野心あふれる若い力だ。アタック陣にはブラジル代表のジョアン・ペドロ、パラグアイ代表のフリオ・エンシソ、アルゼンチン代表のファクンド・ブオナノッテら南米からやって来た20歳前後の興味深い人材がひしめく。欧州ではアイルランド代表のFWエバン・ファーガソンやスコットランド代表のMFビリー・ギルモアらが虎視眈々とブレイクの機会をうかがっているのだ。
昨シーズン限りでデ・ゼルビが退任し、クラブは新たなサイクルに突入する。その先導者が31歳のファビアン・ヒュルツェラーだ。プレミアリーグ史上最年少の指揮官となる。昨シーズンは2部でくすぶるドイツのザンクト・パウリをブンデスリーガ昇格へと導いた。一見、大胆に映る決断も、したたかな計算に基づくものだ。
「彼はチームの理想に合致するプレースタイルを標ぼうする人物」とはオーナーの弁。新監督自身はデゼルビの手掛けてきたアタッキング・フットボールに共鳴しており、継続路線は必至だろう。ポッターやデ・ゼルビの時代とは一味違った『シーガルズ3.0』――。今夏開催される『ブライトン&ホーヴ・アルビオン・ジャパンツアー2024』、そのプロローグ(序章)を見逃す手は、ない。
文=北條聡
対戦カード:鹿島アントラーズ vs ブライトン
試合会場:国立競技場
開催日時:2024年7月24日(水)19時試合開始
放送予定:Amazonプライム・ビデオ
対戦カード:東京ヴェルディ vs ブライトン
試合会場:国立競技場
開催日時:2024年7月28日(日)18時30分試合開始
放送予定:Amazonプライム・ビデオ
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