番組に出演したベン・メイブリーさん
先日サッカーキングのYouTubeでサッカーパブの特集が組まれ大いに盛り上がった。イギリス出身のベン・メイブリーさんからパブの本場イギリスのパブ文化を学びつつ、日本のパブ文化もレポートした。番組を見ていただいた方には、改めてサッカーとパブは切り離せない関係だということを感じていただいたと思う。
今回はベン・メイブリーさんに日本のパブ文化をさらに盛り上げるためにどうすべきかを中心に掘り下げて話を聞いた。そこにはイギリスから学ぶパブの素晴らしさだけでなく、日本サッカーが強くなっていくためのヒントがたくさん詰まっていた。
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――イギリスのパブではあまり戦術の話をしている人がいないと聞きました。
ベン イギリスではフットボールがあまりにも日常だから、いろいろな人がいます。ものすごく戦術に詳しい人もいますし、ものすごく分析力が高い人もいます。でも、それは一部で1割ぐらいしかいません。サッカーの話をする時に知識や高い分析力が求められてしまうと話のハードルが凄く高くなってしまう。以前Twitterで「私はあまりフットボールに詳しくないから、何かを言われるのが怖い」という意見を見かけました。そんな怖がるようなものがもしあるのなら、ちょっと残念ですよね。ヨーロッパのサッカーの盛んな国は、ほとんどイギリスと同じような状況で、分析を楽しむ人はごく一部だと思います。分析好き同士が話すのは、それは間違いなく絶対楽しい。でも、分析ができないとフットボールのことを話せないとなってしまうと、それはハードルが凄く高くなり過ぎてしまう。もっといろいろな人が楽しめるライトな話や、喜怒哀楽で純粋に試合を楽しめる文化も必要。仲間とフットボールを見にいく時に戦術に詳しい人もいて、分析力が高い人もいて、全然詳しくない人もいる。戦術に詳しくて分析ができる人たちが、そういったことに詳しくない人たちを認めることも必要なのかもしれません。
今年の夏にイギリスに帰って改めて思ったのは、みんなフットボールが好きでいろいろな人がいる。もちろんフットボールが好きじゃない人もいます。「フットボールが好き」と言っても特別なことではなく普通のこと。もしかしたら日本では野球のほうがメジャーなので、フットボールを好きと言ったら特別になるのかもしれない。もし特別だと感じている人がいたら、その人はフットボールを自分だけのものにしたいという気持ちがあるのかもしれません。そんな人がいたとしても、それは本当にごく一部だと思いますが、そういう人がSNSで目立ったりするじゃないですか。でも周りは、「この人フットボールに詳しいけどちょっと怖い」って引いちゃう人もいますよね。ヨーロッパのパブが盛り上がっているのは、どんなフットボールのファンでもみんなが楽しめるからなんですよね。だから日本でもパブで戦術に詳しくなくても、分析ができなくても、それぞれの楽しみ方で楽しんでほしいと思います。
――番組中のベンさんの言葉でしびれたのが、「フットボールが好きな時点でフットボール馬鹿なんですよ。だって自分がやっていることじゃないのにこんなに夢中になってるんですから。みんなフットボール馬鹿なんだから誰でも一緒に楽しめる」という話です。
ベン 本当にそうなんですよ。もちろんマンチェスターではマンチェスターユナイテッドのパブがあって、そこにはマンチェスター・シティのファンは入れません。その逆のパターンもあります。リヴァプールでも、リヴァプールファンのお店とエヴァートンファンのお店があります。でも、私の街のトーントン・タウンだったら、リヴァプールのパブやマンチェスター・ユナイテッドのパブは存在しません。両方のサポーターが同じパブにいたりします。そこでもちろん喧嘩にならないようにすることは重要です。熱くなるには熱くなるんですが、そこで共存できることが重要です。Jリーグも同じだと思うんですよね。試合中は仲良くはなれませんが、試合前後は同じサッカー馬鹿として、自分がやっていないことに熱くなる人同士としてパブで一緒に楽しめると思います。あまり過敏にならずにお互い同士をイジり会えたらより一層楽しくなります。
――イジり合いってサッカーの一つの文化ですよね。イジりにはユーモアセンスが問われるところはありますが。
ベン そうですね。でも、フットボールは“永遠に終わらないドラマの連続”なので、今回勝っても次が必ずまたやってくるものです。だから「次こそ勝つぞ!」とか「倍返しするぞ!」って言えるんですよ。日本人は日本のサッカーの歴史が浅いって言いますけど、もうプロになって30年経ってますからね。歴史がありますよ。イギリスのパブでは結構歴史の話も楽しんでいます。「今はたしかにたまたま勝ててないけど、あの時は凄かったんだぜ!」って、そういう話が盛り上がる(笑)。歴史は我々の文化財だと思って語り続けるという面もあります。自分のお父さんやおじいちゃんや周りの先輩、大人からそういう話を聞いて引き継いでいく。例えば50年代のマンチェスター・ユナイテッドのバスビー・ベイブスですね。飛行機事故で選手たちが8人亡くなりました。『バスビー・ベイブズは本当に凄かったんだよ!』 って見た人たちは語るわけですよ。だから今の若いファンの間でもバスビー・ベイブスの話はしますよね。そうやって伝統を引き継いでいくことも本当に重要なことだと思います。
私が応援しているガンバ大阪は今だけ弱いですが、Jリーグを優勝している大阪はガンバだけだし、ACL制覇している大阪はガンバだけですから(笑)。その歴史は強みになっていますよ。もちろん今は弱いじゃんって言われてしまうかもしれません(笑)。こういうのがライバルサポーター同士のネタになりますし、今はつらいガンバサポーターには助けにもなります。
――今夏イギリスに帰って他に感じたことはありますか。
ベン スマホができてから、ちょっとパブトークの内容が変わったことですね。昔だったら「あいつがあそこでプレーする前どこに移籍していたっけ?」って、そういう話だけで5〜10分は盛り上がれた(笑)。今はすぐWikipediaで調べられるからしなくなった。あとは昔の試合で、「あの試合の先制点誰だっけ?」っていうのも今はすぐ調べられますが、みんなのおぼろげな記憶を集めてつないで、楽しかった試合を思い出すというのもパブトークの一つでした。スマホですぐわかっちゃうとかえってつまらないですね(笑)。
――もう一つパブの魅力って、知らない人同士でも盛り上がれますよね。
ベン 私が大学生の時ですね、あまり一人飲みはしないんですが、見たいフットボールの試合があるときは一人でパブに行ってました。そうしたらフットボール好きの一人の人が他にも何人もいるんですよ。そういう人たちと一緒に喋ったりすることはよくありますよね。同じ試合を見たいっていう話の共通点が最初からありますから。
――パブと居酒屋の一番の違いは一人でも入りやすいところですよね。
ベン 日本のパブは一人でも入りやすいですよね。私が行く美味しいビールを出すパブは一人のお客さんが多い。そういうお店に来る人は美味しいお酒が好きという共通点があって、一人で来てもマスターと話したりしますよね。スポーツパブの場合は同じスポーツが好きという共通点があるので、一人で行っても自然に会話のきっかけがありますよね。
――日本はまだまだ一人でスポーツパブ行く人が少ないのかなと。
ベン でも、日本でも特定のチームを応援するパブには一人で来ているお客さんもたくさんいるし、そこで一人で来ているお客さん同士が新たなグループを作っていくということもありますよ。応援してるクラブの試合がどこかのパブで放送されるかはFanstaで検索すれば家から近いお店がすぐに分かります。
スタジアムだと年間パス持っていて、もう何年も顔を合わせて顔はよくわかってるけど、名前も知らないってこともあるじゃないですか。でも、スタジアムで会うとよく話すし、盛り上がる。パブも同じパブに通っていればそういうことが頻繁に起きますよね。名前も知らない人とめっちゃ話が盛り上がるなんてフットボールでしか起こらないことですよね(笑)。もちろん一人で来て、お酒を飲んで、ただ試合を見て家に帰るっていうのも当然ありですよ。でも、一人で行っても通っているうちに自然と人との関わりができてしまうというのがパブなのかなと。
――番組の中でグラスやケチャップなどテーブルの上に並べてオフサイドの議論をしたりするのがパブあるあるだって話してくれましたが、他にパブあるあるってありますか?
ベン 知らない人たちの会話に割り込んで入ってもいいというのはありますね。熱く自分の主観を喋っている人がいたら、「俺はこう思うんだよね」とか入っていったり、あとは間違った歴史の話をしていたら、「それはあの時じゃないよ」って訂正してあげたり。そういう状況はありますね。
――改めてパブは気軽なところだというのは伝えたいですよね。
ベン イギリスにはどの村にもパブがあってその村の中心になるところにある。会員制とかではなくて、誰でも入っていいもの。友達と行ってもいいし、家族で行ってもいいし、一人で行ってもいい。とにかく人が集まる場所で、安く利用できる場所じゃないといけないのがパブ。特定の人のものじゃなくてみんなのもの。それはまさにフットボールと同じですよね。オーナーだけのものじゃないし、常連さんだけのものでもない、フットボールもパブもみんなのものなんですよね。できるだけ多くの人が楽しめるのがフットボールでありパブです。だからパブとフットボールは相性がいいんだと思います。Fanstaができたおかげでお店の検索も簡単にできるようになったので、皆さんに気軽にパブに行ってほしいと思います。
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