今季限りで引退するマイク・ディーン 氏 [写真]=Getty Images
2021-22シーズンのプレミアリーグは22日に最終節を迎える。ウェストハムのキャプテン、マーク・ノーブル、ワトフォードを率いるロイ・ホジソン監督と共に、プレミアリーグのファンが別れを告げなければならないのが、今シーズン限りでの引退を発表している名物レフェリーのマイク・ディーン氏だ。
6月で54歳となるディーン氏。プレミアリーグでの“デビュー”は、2000年9月9日のレスター対サウサプトン戦だった。プレミアリーグで主審を務めた試合数(559)と、提示したレッドカード(114)&イエローカード(2046)の枚数は歴代最多。2位以下に大差を付けており、当面の間、抜かれることはないだろう。
冷静沈着が求められるレフェリーという業務に就きながら、試合中に顔を紅潮させて怒りを露わにしたり、ゴールの瞬間を飛び上がって喜んだりすることもあったディーン氏。22年間も続いたプレミアリーグの主審キャリアで、数々の名珍場面を提供してきた。
ディーン氏がプレミアリーグのレフェリーとして最後の一戦を迎える前に、同氏について知っておきたい7つのトピックを紹介する。
[写真]=Getty Images
■レッドカード100枚以上は唯一無二
2019年4月2日のウルヴァーハンプトン対マンチェスター・U戦で、ディーン氏はプレミアリーグ史上初めて、通算100枚目のレッドカードを提示した主審となった。57分にディーン氏から退場を命じられたのは、当時マンチェスター・Uでプレーをしていたアシュリー・ヤング。元イングランド代表MFがプレミアリーグで退場したのは生涯で2度だけだが、いずれもディーン主審が担当した試合だった。
プレミアリーグ477試合目で100枚目のレッドカードを出したディーン氏。同時点で1試合平均0.2枚のペース。その後も順調に数字を伸ばしたディーン氏は、現時点までに559試合を裁いて114人を退場処分に。1試合平均に換算すると、3年前と同じ0.2枚。同氏の中にぶれない基準があることは間違いないようだ。なお、レッドカードの枚数ランキングで2位につけるのは、68枚のマーティン・アトキンソン氏だが、同氏も今季限りでプレミアリーグの主審業務からは退く見込みであり、この先にディーン氏の記録が破られることはなさそうだ。
■トッテナムのゴールを2度も喜んだ疑惑
中立公正な立場を貫かなければならないレフェリーが、どちらか一方のゴールを喜ぶことなどあってはならない。しかし、そんな掟破りの行動をとった疑惑をかけられたのがディーン氏だ。2015年11月のトッテナム対アストン・ヴィラ戦で、トッテナムのMFムサ・デンベレが先制点を決めた瞬間に両手を上げて喜びを露わにしたディーン氏。後日、トッテナムのゴールを喜んでいたのではなく、得点に至る過程でアストン・ヴィラのファールに笛を吹かず、トッテナムにアドバンテージを与えた自らの判断が正しかったことが嬉しかったのだと弁明した。
しかしディーン氏には“前科”があった。2012年2月のノース・ロンドン・ダービーで、トッテナムのFWルイス・サハのシュートが、アーセナルのDFトーマス・ヴェルマーレンに当たってゴールに吸い込まれる際、ボールがゴールラインを越えるのを願うかのように手を動かしていたディーン氏。ゴールが決まった後は、その場で軽くジャンプを繰り返し、喜んでいたと捉えられても仕方がない状況だった。
■4部所属クラブの熱狂的サポーター
ディーン氏には心から応援するクラブがある。出身地ウィラルを本拠地とするトレンメア・ローヴァーズだ。リーグ2(4部)所属のトレンメアの試合をスタジアムで観戦する姿がしばしば目撃されているディーン氏。2018-19シーズンの昇格プレーオフでは、トレンメアが適地でフォレスト・ローヴァーズとの準決勝を制した際に、スタンドで柵の上に乗って派手にガッツポーズをする動画が話題となった。
ただ、サポーターとして試合を楽しみながらも、本業を忘れることは決してないようだ。今季のリーグ2開幕戦を、ホームスタジアムの『プレントン・パーク』で友人たちと観戦していたディーン氏。試合開始1時間が過ぎた頃に、アシスタントレフェリーの1人が負傷離脱すると、ディーン氏は急遽、第4審判を買って出たという。これが吉兆となったのか、73分にカラム・マクマナマンが決勝ゴールを決めて、ウォルソールを相手に1-0の勝利を収めたトレンメアだが、今季は9位に終わり、昇格プレーフに回ることはできなかった。
■怖かったのはファーガソンではなくヴェンゲル
22年に渡ってプレミアリーグで主審を務めたディーン氏が、最も恐れを抱いていた監督は、マンチェスター・Uを長年率いたアレックス・ファーガソン氏ではなく、アーセナル時代のアーセン・ヴェンゲル氏だったという。2009年に『オールド・トラッフォード』でディーン氏から退席を命じられたヴェンゲル氏が、スタンドで観客に囲まれた状態で両手を広げた場面はあまりに有名だ。
今季限りでの引退を発表した後で応じた『BBC』の取材で、最も恐れていた監督は誰かと問われると、「アーセナル時代のアーセン」と答えたディーン氏。「アーセナルではなく、彼が監督だった頃のアーセナルの主審を務めるのが大変だった。彼は常にアーセナルにとっての最善を望んでいたからね」と告白。しかしアーセナルを退任した後のヴェンゲル氏は好人物だとフォローし、「白線を超えれば審判と同様に皆が別人だ。我々は普通の人間なんだ」と付け加えた。一方で、ファーガソン氏については「自らの見解を伝えに来ることはあったが、世間が言うほど悪い人ではなかった」と印象を述べている。
■工場勤務からの転職
プレミアリーグ歴代最多となる559試合で主審を務めたディーン氏は、ユニークな経歴の持ち主だ。1980年代にダイエットの目的で審判活動を始めたというディーン氏。プレミアリーグのレフェリーに採用される前は、鶏肉工場で働いていたそうだ。昨年受けた取材の中で、前職について語ったディーン氏。今でも当時の職場の人たちとは交流があると言い、「彼らは一週間におよそ100万羽の鶏を殺しているそうだ。れっきとしたファールだね」とジョークを飛ばした。
また2020年に元イングランド代表FWピーター・クラウチ氏のポッドキャストに出演した際には、工場勤務と審判業務を掛け持ちしていた頃のエピソードを披露。「工場のシフトは朝6時から午後2時までだった。それから家に荷物を取りに戻り、どこかへ行って審判をしてから、翌朝3時に起床して、5時には職場にいた」という超過酷なスケジュールをこなしていたそうだ。
■名物監督から名物審判への贈る言葉
審判は報われることが少ない職業だ。判定を批判されることは日常茶飯事だが、称賛を受けることはほとんどない。それでも22年もプレミアリーグの主審を務めてきた人物が引退するのだから、労いの言葉をかけるのが一般的だろう。しかし歯に衣着せぬ発言が持ち味のニール・ウォーノック氏は違った。
過去にシェフィールド・Uやクリスタル・パレス、QPR、カーディフ等を率いた指揮官は、ディーン氏の今季限りでの引退が伝えられた直後にコメントを求められると、「10年遅い!」と即答。さらに、「私は常に小さなクラブを率いていたが、マイクはビッグ・クラブとうまくやっていた」と皮肉を言うと、「私の父は『名審判は決して目立たないものだ』と良く言っていたが、彼は常に何かをして脚光を浴びていた」と痛烈に批判。「総合的に彼は優秀なレフェリー」だとフォローしつつも、「ただ我を忘れてしまうだけ」と付け加えることを忘れなかった。御年73歳のウォーノック氏も今年4月に、42年の監督キャリアに別れを告げている。
■一番の思い出はあの伝説の一戦
今シーズンの最終節を目前に、インターネットで多く検索されている自身の話題ついて答えたディーン氏。22年間に及んだプレミアリーグのレフェリー歴の中で最も印象的だった瞬間に、「アグエローーーー!」の実況でお馴染みの10年前の最終節を選んだ。
2011-12シーズンの最終戦。勝ち点で並ぶマンチェスター・Uを得失点差で上回っていたマンチェスター・Cは、ホームにQPRを迎えていた。試合は1-2のビハインドのまま後半の追加タイムに突入。優勝は絶望的かと思われた。しかしエディン・ジェコが同点弾を決めると、「93:20」にセルヒオ・アグエロが劇的な逆転ゴール。マンチェスター・Cが44年ぶりにリーグ制覇を果たした。
この試合で主審を務めていたディーン氏。「とにかく最高のエンディングだったし、あれを越える試合はこの先もないだろう」と感慨深げに振り返った。ユニフォームを脱いで喜びを爆発させたアグエロにイエローカードを提示したことに関しては、「そこはきちんと出さなければならない」としながらも、「もしも、2枚目のイエローカードだったら、出していなかったかもしれない」と茶目っ気たっぷりに語った。
(記事/Footmedia)
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By Footmedia