カラバオ杯決勝のPK戦 [写真]=Getty Images
週末に『ウェンブリー・スタジアム』で行われたカラバオ・カップ決勝は、リヴァプールがPK戦の末にチェルシーを下した。延長戦も含めた120分間はスコアレスで終了。PK戦に突入後も互いに一歩も譲らず、両チームともに最初の10人が成功。11人目はどちらもGKが担当することになった。
先攻のリヴァプールは先発出場していたクィービーン・ケレハーが成功。一方、PK対策として延長後半の終了間際にエドゥアール・メンディに代わってケパ・アリサバラガを投入していたチェルシーは、そのケパがキックを枠の上に外して万事休す。リヴァプールが史上最多となる9度目のカラバオ・カップ制覇を果たした。
試合後、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は「私にとってアリソン・ベッカーは世界最高のGKだが、ケレハーは世界最高のナンバー2だ」とケレハーを絶賛。「彼をプレーさせるという決断が完全に正しかったことを証明してくれた。トップクラスだったね」と語り、報われないことの多いセカンドGKの活躍を誰よりも喜んだ。
ほとんどの試合で出場機会が訪れることのない第2GK。一方で、正GKの負傷や退場といったアクシデントが発生した場合は急遽ピッチに立ち、即座に結果を残さなければならない辛い立場に置かれている。
それでもビッグクラブが複数のコンペティションで戦いを続けるためには、レベルの高い控えGKの存在は必要不可欠だ。不甲斐ないパフォーマンスを見せれば、ポジションを奪われかねないという緊張感を正GKに与えるのも立派な役割の一つだろう。
そこで今回は、ケレハーを含め、プレミアリーグの上位4チームの第2GKにスポットを当てる。いずれもチャンピオンズリーグ(CL)のベスト16にも残っているチームだが、控えGKはどのような状況に置かれているのだろうか。
■マンチェスター・C
正GK:エデルソン(28歳/ブラジル代表)
第2GK:ザック・ステッフェン(26歳/アメリカ代表)
「毎日エデルソンにプレッシャーを与え、自分にチャンスが到来した時にはそれを掴みたい」。昨年11月にマンチェスター・Cとの契約を2025年まで延長した際、アメリカ代表GKザック・ステッフェンは意気込みを口にした。2018年のMLS(アメリカ1部)最優秀GKのステッフェンは、2019年夏にコロンバス・クルーからマンチェスター・Cに加入。2019-20シーズンはデュッセルドルフにローン移籍をし、シーズン前半はブンデスリーガで正GKとしてプレーをしていたが、膝を負傷した後半戦は一度もピッチに立つことが出来なかった。
2020-21シーズンからはエデルソンの控えGKとしてマンチェスター・Cのベンチに常駐。国内カップ戦では全試合でゴールを任されており、昨季はFAカップでベスト4に進出した上、カラバオ・カップでは優勝の立役者となった。今季はカラバオ杯では4回戦でウェストハムにPK戦の末に敗れたものの、FA杯ではベスト16に進出している。
プレミアリーグではこれまで2試合に出場。デビュー戦となった昨年1月のチェルシー戦では開始4分でバックパスを手で触る失態を冒したが、試合は3-1で勝利。10月のバーンリー戦では2-0の完封勝利に貢献した。15歳頃まではサッカーだけでなく、野球やバスケットボールもプレーをしていたというステッフェン。マンチェスター・Cからオファーがあると聞いた時には「ジョークだと思った」というが、世界の頂点を目指すビッグクラブでセカンドGKの役割を忠実にこなしている。
■リヴァプール
正GK:アリソン(29歳/ブラジル代表)
第2GK:クィービーン・ケレハー(23歳/アイルランド代表)
「ジョン・アフテルベルグ・プロジェクトの成果」。クィービーン・ケレハーの著しい成長ぶりに関し、ユルゲン・クロップ監督は信頼を置くGKコーチを称えた。16歳でリヴァプールに加入したやせっぽちの少年が、同クラブの次のGKになると思った人物は、アフテルベルグ氏だけだったと明かしたクロップ監督。1月に行われたアーセナルとのカラバオ杯準決勝セカンドレグの直後に、コンディションさえ整っていれば決勝でもケレハーをピッチに立たせると宣言。現時点の実力だけではなく、将来を見据えた選択であることを説明していた。クロップ監督の期待に応え、ファイナルではチェルシーの攻撃を120分間にわたって封じ、PK戦ではチームの最終キッカーを務めて成功させたケレハー。試合後には同監督から「世界最高のナンバー2」という賛辞を引き出した。
アイルランドのコークにあるリングマホン・レンジャーズでサッカー人生をスタートさせたケレハー。当初はストライカーとしてプレーをしており、U-14チームでGKに転向するまでは、1シーズンに20から30ゴールをマークする点取り屋だったという。今季のカラバオ杯3回戦では、ノリッジのFWクリストス・ツォリスのPKを足でセーブするスーパープレーを披露したが、巧みな足技と相手の動きを読む能力はストライカー時代に培われた財産なのかもしれない。
技術だけでなく気の強さも備えているというケレハー。カラバオ杯準決勝のファーストレグでは、新型コロナウイルス陽性後で出場機会が必要だったアリソンを起用したクロップ監督だが、ケレハーを納得させるのに一苦労したという。「クィービーンの素晴らしいところは、『そうですか、わかりました』とはならなかったところ。『なんだって?なぜですか?』という感じだった。我々がGKに求める要素だよ」とクロップ監督に暴露されたケレハー。アリソンからポジションを奪うのは至難の業だが、ブラジル代表GKと共に毎日トレーニングを行う機会は若きGKにとってプラスでしかないはずだ。
■チェルシー
正GK:エドゥアール・メンディ(30歳/セネガル代表)
第2GK:ケパ・アリサバラガ(27歳/スペイン代表)
プレミアリーグで最もハイレベルなGKのポジション争いが繰り広げられているのはチェルシーだ。2018年夏にGK史上最高額となる8000万ユーロ(当時レートで約100億円)でアスレティック・ビルバオからチェルシーに加入したスペイン代表GKケパ・アリサバラガ。レアル・マドリードへ移籍したティボー・クルトワの後継者として正GKの座を与えられたが、不安定なプレーが頻出。クラブは2020年夏にレンヌからセネガル代表GKエドゥアール・メンディを獲得した。
国内カップ戦要員に“格下げ”されたケパだが、トーマス・トゥヘル監督からは“PK戦要員”の役割も託されることに。2019年のカラバオ杯決勝マンチェスター・C戦では、PK戦の直前に交代を命じられながら拒否したことが話題となったケパ。しかし今季はUEFAスーパーカップのビジャレアル戦に続き、カラバオ杯決勝リヴァプール戦でもPK戦を見据えて延長後半の終盤からピッチに登場。リヴァプールのPKを一本も防げず、最終的には自らが“敗戦キッカー”となってしまったが、今季はこれまでに3度もPK戦を制しており、トゥヘル監督の采配ミスと断定するのは早計かもしれない。
熾烈なライバル関係に置かれるメンディとケパだが、両者の関係は良好だという。アフリカネーションズカップ(AFCON)に参加している間に好パフォーマンスを披露したケパについて、「驚きはしなかった。毎日のトレーニングで彼を見ているからね。彼のプレーを最高に嬉しく思ったよ」とライバルの活躍を讃えたメンディ。実力伯仲のライバルの存在が、互いのレベルアップにつながっている好例だと言えるだろう。
■マンチェスター・U
正GK:ダビド・デ・ヘア(31歳/スペイン代表)
第2GK:ディーン・ヘンダーソン(24歳/イングランド代表)
運命の歯車が狂ってしまったとディーン・ヘンダーソンは感じているかもしれない。マンチェスター・Uのアカデミーで育ったヘンダーソン。2018-19シーズンはローン先のシェフィールド・Uをプレミアリーグに昇格させると、翌シーズンは同クラブを9位に導き、イングランド代表からも招集がかかるように。プレミアリーグでの経験を積んだヘンダーソンはダビド・デ・ヘアとの真っ向勝負に挑むために、2020年夏にマンチェスターに戻って来た。
カップ戦要員としてシーズンをスタートさせたヘンダーソンだったが、昨年3月にデ・ヘアはパートナーの出産に合わせてスペインへ帰国。その間に与えられた出場機会でアピールに成功すると、シーズンが終了するまでファーストGKの立場を維持した。しかし、新シーズンは正GKとしてスタートしたいと意気込んだヘンダーソンに、次々とアクシデントが襲い掛かった。
股関節の負傷でEURO2020のイングランド代表メンバーから外れることになったヘンダーソンは、クラブのプレシーズンがスタートする前に新型コロナウイルスに感染。その後、“慢性的な疲労”に苦しめられて開幕に出遅れることに。一方、ポジション奪回に向けて、夏の休暇を早めに切り上げていたデ・ヘアは、安定したプレーを継続。先月のチャンピオンズリーグ(CL)で古巣アトレティコ・マドリードと対戦する前には、「自分がマンチェスター出身であるかのように感じている」とマンチェスター愛を強調。11年も所属するクラブから離れることは想像もできないと語った。子供の頃からマンチェスター・Uファンであり、クラブに対する思いはデ・ヘアに負けないヘンダーソンだが、正GK以外の条件で残留するつもりはないという。今月中に25歳の誕生日を迎えるヘンダーソンの今後の動きに注目したい。
(記事/Footmedia)
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By Footmedia