2016.12.12

【コラム】鹿島の歴史に新たなページを…常勝軍団が国際舞台で遂げる“急成長”

遠藤康(一番右)の先制点を喜ぶ鹿島の選手ら [写真]=Getty Images
スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

 不思議と悲壮感は漂っていなかった。アフリカ特有の身体能力の高さとスピードに翻弄され続けた前半の45分間で、鹿島アントラーズが放ったシュート数はゼロ本。一方で招いた決定機は4度もあり、そのうち3回をGK曽ヶ端準のファインセーブで何とか無失点でしのいだ。

 アフリカサッカー連盟代表のマメロディ・サンダウンズ(南アフリカ)と市立吹田サッカースタジアムで対峙した、11日のFIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016第2ラウンド。数字だけを見れば「敗色濃厚」と映る状況にも、ベンチスタートのMF小笠原満男に代わってゲームキャプテンを務めたMF永木亮太は、むしろ手応えに近い思いを抱いてハーフタイムのロッカールームへと戻っていた。

「勝敗は90分間で決まるので、前半にピンチはありましたけど、そこでソガさん(曽ヶ端)を中心に耐えたことはすごく大きかった。自分としては全く悲観していなかったですし、後半は相手が間延びしてくると予想していたので。90分間を通してのゲームプランとして、試合前から『後半はより攻撃的にいこう』と自分の中で考えていたし、実際にその通りの展開になったので」

マメロディ・サンダウンズ戦でキャプテンマークをつけた永木 [写真]=Getty Images

マメロディ・サンダウンズ戦でキャプテンマークをつけた永木 [写真]=Getty Images

 オセアニアサッカー連盟代表のオークランド・シティ(ニュージーランド)に2-1で逆転勝ちした8日の開幕戦。メンタル的にフワッとした感じで試合に入り、後半開始早々には先制点を許す展開に、永木は「この過密日程と、優勝した余韻が自分たちの中にあったのかもしれない」とチーム全体を戒めていた。

 浦和レッズに逆転勝ちを収め、年間王者を獲得した明治安田生命2016Jリーグチャンピオンシップ決勝第2戦が行われたのが3日。心身両面で難しい部分はあったが、常勝軍団のプライドが言い訳を許さない。緒戦から中2日で迎えた準々決勝でしっかり修正できた点は、短い期間の中で鹿島が成長した証となる。後半にMF遠藤康、途中出場のFW金崎夢生の2発で勝った一戦を、永木が笑顔で振り返る。

「確かに危ない場面はありましたけど、最後のところでしっかりと守れていたし、すごく引き締まった内容で90分間を戦えた印象があります。後ろからも足が伸びてくる点などは日本人の間合いと全く違うし、自分がボールを持った時に少し慌てすぎた部分はありますけど、普段はできない経験ができた上に、なおかつ勝てたことが一番良かった」

 永木が勝利への青写真をいよいよ具現化させようと思いを巡らせていたハーフタイム。ディフェンスリーダーのDF昌子源は、おもむろにチームメイトたちに頭を下げている。

「前半はホンマごめん。後半は絶対に集中し直して、ゼロでいくから」

 競り合ったFWカマ・ビリアトのひじが、まともに口元に入ったのは20分すぎ。ピッチの外に出て応急処置を受けると、前歯が真っ二つに折れて、神経がむき出しになっていることが判明した。この日が24歳の誕生日だった昌子にとっては、人生で初めてとなる“手痛い”贈り物だった。

「これは言い訳になるかもしれんけど、この歯がいってからマジで集中力が…風とかが当たるだけで痛すぎて、マジで集中できなくて。ナオ(DF植田直通)にも『急にゲン君、黙った』と声を出さなくなったと言われたけど、前半はホンマに情けなかった」

 相手のスピードに圧倒された挙げ句、13分、29分と背後を取られては決定機を作られた。特に後者の場面では、身長167センチメートルのMFパーシー・タウにロングボールの競り合いで負け、半ば強引に体を入れ替えられて、曽ヶ端と1対1になる状況を作られてしまった。

 昌子にとっては、アフリカ勢との対戦は“未知との遭遇”だった。加えて、気の遠くなりそうな歯の激痛。二重の苦しみはしかし、後半になると“楽しみ”へと変わっていった。

「(アフリカ勢は)初見ということで僕自身、すごく戸惑って…戸惑ったというか、難しかったし、あの22番の小っちゃい人(タウ)なんて、あの体じゃありえんくらいに力が強かった。すごくいい経験になったし、やっていて面白かった。特に前半でやられたから、後半はしっかり修正できたというか。体を入れ替えようとしてくると思ったので、最初はあまり行かず、ディレイしながらついていくことができた」

 いきなり距離を詰めると、フィジカルの強さやしなやかな身のこなしで相手を逃してしまう。劣勢を強いられた前半を糧に、後半になるとボールが入る刹那で相手の前に出て奪い、味方へのフィードにつなげた。十数分間という短い時間の中で、成長を遂げた昌子が守備網に安定感をもたらした。

歯を負傷しながらプレーを続けたDF昌子 [写真]=Getty Images

歯を負傷しながらプレーを続けたDF昌子 [写真]=Getty Images

 もっとも、11本ものシュートを浴びるなど、波状攻撃にさられた前半も鹿島伝統の“らしさ”を出せていたからこそ無失点に抑えられたと、曽ヶ端は静かな口調の中にチームメイトへの感謝の思いを込める。

「ディフェンダーの選手たちがしっかり体を寄せて、相手もプレッシャーを受けながら難しい体勢で打ったシュートということもあったので、シュート自体もそれほどスピードが速かったわけではなかった。最後は僕が止めはしましたけど、そういう小さな積み重ねがないと止めることは難しい。弾いた後のこぼれ球にも相手より早く反応してくれた。なかなかリズムをつかめず、うまくいかなかった中でも我慢強く戦い、結果的に前半を乗り切ったことが後半の2ゴールにつながったと思います」

 ベンチ入りできる選手の数は、Jリーグの公式戦の18人からFIFA主催の今大会では23人に拡大されている。交代枠は3人だが、延長戦に入ればさらにもう1枚のカードを使える。小笠原と並ぶチーム最年長の37歳の守護神には、初めて戦う世界大会の舞台で鹿島が確実に変化していると映っている。

「普段はなかなか普段ベンチに入れない選手が23人の枠に入っていて、練習を見ていても『こういう場を経験したい』という雰囲気が伝わってくる。ポジション争いを含めて、それがチーム全体のレベルアップや成長にもつながる。今日の相手もパスを出して裏へ動くという動きがすごく多かったし、もちろん後手を踏む場面はあったけど、その後の対応はしっかりできていた。初めての相手で、事前に見た映像の情報だけではつかめないものもあったはずだけど、そのへんをこの難しい舞台で経験できたことはチームにとっても選手個々にとっても、大きな積み重ねになると思う」

 7シーズンぶり8度目のJ1年間王者を獲得した直後のこと。前身の住友金属蹴球団時代から在籍し、強化部長職に就いて21年目を迎えている鈴木満常務取締役は「今は上手く戦えば勝てる状態で、まだ他チームとの差はない」と認めた上で、来たる2017シーズンが勝負になると目標を定めていた。

「ジュビロ磐田と争っていた時のウチみたいに、ちょっと頭が抜きん出たチームにしたいという気持ちがある。来年からはJリーグからの強化配分金が増えるのもあるし、少し無理をしてでもやらないと。ここで勝って勝ち組に入らないと、どんどん差をつけられていくので」

 3年ぶりに国内三大タイトル獲得となった昨シーズンのヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)を“ホップ”、今シーズンの年間王者獲得を“ステップ”とすれば、1ステージ制に戻る来シーズンのJ1制覇で“ジャンプ”とする。鈴木常務取締役が描く青写真は、もしかすると前倒しされるかもしれない。

 国内三大タイトルでは他の追随を許さない18冠を達成している鹿島だが、前身のアジアクラブ
選手権時代を含めて、Jクラブで最多の9度出場しているAFCチャンピオンズリーグの最高位はベスト8。J1制覇の“ご褒美”として初参戦したクラブワールドカップでベスト4進出を決めた時点で、すでに未知の領域に足を踏み入れている中で選手たちのモチベーションは最高潮に高まっている。

「みんながレアル・マドリードとやりたいと思っている。次勝つのと負けるのとでは全く違うので」

 熱い思いを代弁したのは、アフリカ勢の身体能力を「特に感じなかった」と豪語するDF植田直通だ。14日に同じ市立吹田サッカースタジアムで行われる、南米サッカー連盟代表のアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)との準決勝を制し、過去に浦和、ガンバ大阪、柏レイソル、サンフレッチェ広島が破れなかったベスト4の壁に風穴を開ければ、ほぼ100パーセントの確率で夢の頂上決戦が実現する。

 我慢を含めた試合の運び方、選手個々の世界基準への対応力、経験の積み重ね、そしてチーム内にみなぎる切磋琢磨するライバル心。これらの相乗効果でシーズンの終盤にきて急成長を遂げている常勝軍団が、栄光の歴史に光り輝く1ページを加える大一番に挑む。

文=藤江直人

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