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マンチェスター・シティ スーパークラブの作り方/後編【雑誌SKアーカイブ】

マンチェスター・Cの本拠地エティハド・スタジアム[写真]=Getty Images

[サッカーキング No.004(2019年7月号)掲載]

プレミアリーグ記録を次々と塗り替え、圧倒的な成績で連覇を達成──。
独創的なプレースタイルを持つこのチームの始まりは、3年前にさかのぼる。
2016年夏、イングランドにやって来たジョゼップ・グアルディオラは、
タレント集団だったマンチェスター・シティをスーパーチームに作り変えた。
しかしそれは、この巨大なクラブを構成する要素の一つでしかない。
国際的な市場を開拓しながら、地元マンチェスターを発展させ、
最先端のアカデミーで若い才能を育て、女子チームを欧州の強豪にした。
全方位に投資を続ける彼らが目指すものは、プレミアリーグの覇権よりも、
あるいはチャンピオンズリーグのタイトルよりも、はるかに大きい。

文=クリス・フラナガン
翻訳=加藤富美
構成=寺沢 薫
写真=ゲッティ イメージズ
【前編】はこちらから

フットボールのアイデンティティ

 グアルディオラがチームに築いたアイデンティティとはどんなものだろうか。

 就任1年目となる2016年夏、シティは6人の選手の獲得に1億6360万ポンド(約230億円)を費やしている。セルタからノリート、シャルケからレロイ・サネ、ドルトムントからイルカイ・ギュンドアン、エヴァートンからジョン・ストーンズ、そしてバルサからクラウディオ・ブラーボ(パルメイラスのガブリエウ・ジェズスとも契約したが、加入は翌年1月に延期された)。

 そのなかで最も高い移籍金を払ったのは、ジョン・ストーンズだった。“後方からゲームを組み立てる”スタイルを担う選手として、シティは当時22歳のセンターバックに4750万ポンド(約67億円)もの移籍金を投じた。DFとしては当時イングランド史上最高額だ。その彼に、シティの打診を受けてから気持ちが固まるまで、どれだけ時間が掛かったのか聞いてみた。返ってきたのは「その場で決めた」というシンプルな答えだ。

「断るなんてありえない。僕みたいなレベルの選手がグアルディオラに声をかけてもらったら、誰だって即決するよ。世界最高の監督に指導してもらう機会なんていつあるか分からない」

 ストーンズはグアルディオラが指揮したバルサやバイエルンの試合をよく見ていたという。「だけど、実際の彼は想像以上だった。全員を同じように扱ってくれるし、ピッチ上での役割についても完璧な指示をくれる。グアルディオラのやり方は最高なんだ。僕たち選手はどうプレーすべきか、どうプレーしたいかを完璧に理解してピッチに立っている」

グアルディオラ同様、16年夏にマンチェスター・Cにやって来たストーンズ。名将の指導は「最高」と語る[写真]=Getty Images


 この若者に指揮官が与えた仕事は、“バタフライ効果”(フットボール用語ではないが、グアルディオラはそう呼ぶ)を発揮することだった。グアルディオラはこの精神を彼の師であるクライフから学んだという。

「最初にいいパスが出れば、それがすべてのいい結果を生み出す、とクライフは考えていた」

 グアルディオラは最近になってそう話している。指揮官はストーンズこそ、「最初のいいパス」を出せる選手だと感じていた。そしてパスに自信があったストーンズは、その役割を喜んで受け入れた。

「まだバーンズリーでプレーをしていた16歳の頃から、パスを出すのが僕の仕事だった。うまくいかないときもあったけど、パスゲームをするチームでプレーするのは本当に楽しいよ」

 そのプレースタイルから、ストーンズは“スペイン向き”の選手だと言われてきた。ラ・リーガのチームに行く前にシティを選んだのは、彼にとって正しい選択だったのかもしれない。

 とはいえ、すべてがうまくいったわけではない。ストーンズが加入した16-17シーズン、アウェーのトッテナム戦では相手のハイプレスによってDFのパスが封じられ、0-2で敗れた。その直前に行われたCLのセルティック戦でも同じ戦術にハマり、シティは3-3の引き分けに終わっている。

 しかし、グアルディオラが信条を変えることはなかった。「褒められたような気分だったよ」とストーンズは振り返る。「相手が準備してくるのは、僕たちのスタイルが認められた証拠だからね」

 相手が対策してくるのに、なぜプレースタイルを変えないの? ストーンズの答えは明確だ。

「シティのフットボールに対応しようとすれば、運動量が必要だ。ハイプレスを90分間続けることはできないからね。まあ、あの日のスパーズのように90分間やり切ってしまう場合もあるけど(笑)」

 すべての試合に勝つことはできない、とストーンズは言う。「大事なのは、難しい試合でもスタイルを貫くことだと思うんだ。他のチームもハイプレスを対抗してくるかもしれないけど、シティは自分たちのスタイルを貫きながら、必ず勝機を見出すことができると思う」

 ストーンズの言葉が正しかったことは、その後のシティの成績が証明している。

海外の“シティ”と女子選手の“シティ”

 ここで、マンチェスターから5000キロ離れたマンハッタンにある、ニューヨーク州立大学に舞台を移そう。2016年、ニューヨーク・シティの練習拠点だったこの場所で、当時の監督パトリック・ヴィエラがインタビューを受けていた。話題の中心は、その日発表されたトレーニング施設の建設計画だ。

 マンハッタンの北西部に位置するオレンジバーグに建てられたこの施設は、マンチェスターの「シティ・フットボール・アカデミー」と同じく、ラファエル・ビノリが設計した(メルボルンにも同様の施設がある)。ニューヨーク・シティがアメリカで初の試合を戦ってわずか1年後、CFGは長期的な展望に基づく施設に着手したことになる。

 ニューヨーク・シティの立ち上げに大きな役割を果たしたのはソリアーノだ。彼はまだバルサに所属していた2008年、マイアミでの新クラブ立ち上げについてMLSの役員と交渉を行っている。その後、リーグ側がニューヨークに2番目のクラブを作る計画を立てたとき、声を掛けたのが(シティに移っていた)ソリアーノだった。

 クラブ発足初年度の2015シーズンの成績は20チーム中17位。しかしニューヨーク・シティはその後、4位、2位、7位と着実に結果を残している。2016シーズンから3シーズンはヴィエラが監督を務め、かつてマンチェスター・シティでプレーしたクラウディオ・レイナがフットボール・ダイレクターとしてクラブを支えた。ヴィエラは当時のインタビューで次のように答えている。

「最初は他のクラブに追いつくことが目標だった。2部練習や、ビデオ分析も始めた。驚いたのは、選手がみんなバラバラの服装で移動していたことだ。だから『一つのチームだ』と表現するために服装をそろえた。ヤンキー・スタジアムでホームゲームを戦ったのは素晴らしい思い出だね。フランス人の私にとって、あのスタジアムはニューヨークのシンボルだ。CFGが作ろうとしているものは、他のフットボールクラブが目指しているものとは全く違う。その一部になれてうれしかったよ」

ニューヨーク・シティは市内に専用スタジアムの建設計画を進めているが、それまで仮の本拠地としてヤンキースタジアムで戦っている[写真]=Getty Images


 実を言えば、ニューヨーク・ヤンキースはニューヨーク・シティの資本の20パーセントを保有している。ヤンキースの拠点で試合をしたことは、ニューヨークの人々をフットボールの世界に引き込むうえで大きなインパクトがあった。その後もダビド・ビジャ、フランク・ランパード、アンドレア・ピルロといった有名選手を獲得して、平均観客動員数は3万人に達した。この補強も見事なものだ。ビジャはスペイン人、ピルロはイタリア人、ランパードはイングランド人。多様な人種が集まるニューヨークで観客を増やすための戦略だった。

 ニューヨーク・シティのライバルはニューヨーク・レッドブルズで、両者の状況はアメリカ版のシティ対ユナイテッドと言える。今のところ、アメリカではレッドブルズに軍配が上がっているが、いずれマンチェスターと同じ状況になる日が来るかもしれない。そうなったら、ニューヨークからイングランドへ、選手や指導者を“逆輸入”するプランも現実味を帯びてくる。

「我々はいつも人材計画について話し合っている。それはアカデミーの担当者、ドクター、選手のパフォーマンスを見るアナリストについても同じことだ」。マーウッドはCFGのビジョンをそう話していた。

「グループで優れた指導者を育てたい。今はグアルディオラという世界最高の監督がいるが、将来のことは常に考えておかなければならない。マンチェスター・シティ、ニューヨーク・シティ、メルボルン・シティ、そして横浜F・マリノスの間で、監督が入れ替わるような日が来るかもしれないよ」

ビジャは13-14シーズン限りでアトレティコ・マドリードを退団後、2015年に発足したニューヨーク・シティに移籍。シーズンが始まるまでの半年間、同じグループのメルボルン・シティに加わった[写真]=Getty Images


 グアルディオラ体制がスタートしたばかりの2016年9月、4000人の観客がアカデミーのスタジアムに詰めかけていた。“もう一つのシティ”が戴冠を果たす瞬間を見届けるためだ。

 マンチェスター・シティ・ウィメンズは前年度王者のチェルシーを下し、大会最多の観客の前でFA女子スーパーリーグを初制覇した。2017年には女子FAカップでも優勝を飾り、17-18、18-19シーズンはリーグ2位。一気に強豪の仲間入りを果たし、今年5月には女子FAカップで2度目の優勝トロフィーを掲げた。

 シティ・ウィメンズが結成されたのは1988年のことだが、最近になるまでこれといった実績はなかった。そのため2014年にFA(フットボール協会)が女子スーパーリーグのチーム数を増やしたとき、シティが1部リーグに入ったことに批判の声も上がっていた。しかし、クラブは“ビッグプラン”を用意してFAを説得する。

 すなわち、当時のマンチェスター・ユナイテッドには女子チームが存在しなかったこと(今シーズンから再開されている)。そのためシティはマンチェスター地方の女子フットボールの発展に責任を負っていること。そして地元の女性プレーヤーの育成に投資すること。シティはこれらを明言すると、迷いなく実行に移した。

 手始めに、シティ・ウィメンズは現イングランド女子代表のキャプテン務めるステフ・ホートンを筆頭に、有力選手をそろえる。

「リスクはあったけどね」。2度のリーグ制覇を果たしたアーセナルからシティへ移籍したホートンは、そう振り返った。「でも契約書にサインしたとき、何年かかってもトロフィーを獲得する、というクラブの熱意を強く感じた。優勝した15-16シーズンは素晴らしかった。アーセナルでも優勝したことはあるんだけど、シティではクラブを変えるために全員で汗を流したから。プロの選手として成長することができたし、指導者にも恵まれた」

18-19シーズンの女子FAカップで優勝を飾り、トロフィーを手に笑顔を見せるホートン[写真]=Getty Images


 今は女子フットボール界の発展に貢献しているという実感がある、と彼女は言う。「今でも夢みたい……と自分の頬をつねる時があるけど(笑)、シティではクラブが私たちに10個約束したら、9個は現実になる。女子フットボール界ではかなり珍しいことでしょうね」

 自分たちの活躍で女子イングランド代表のレベルが高まれば、女子のユース世代にいい影響をもたらすはず、と彼女は信じている。「男子と女子でリーグを完全制覇できれば最高なんだけど」。そう言ってホートンは笑う。

 マンチェスターと同じことがメルボルンでも起きている。メルボルン・シティ・ウィメンズはオーストラリアの強豪になり、両者は親善試合で対戦したこともある。

18-19シーズン、プレミアリーグ2連覇を達成したマンチェスター・C。祝賀会ではファン・サポーターと一緒に喜びを分かちあった[写真]=Getty Images


 役職や年代、男女といったカテゴリーを問わず、シティのスタッフと話すとき、常に感じることがある。あえて表現するなら「成功への渇望」だろうか。このクラブに関わる誰もが、シティが世界最高のクラブになると信じていた。「もちろん、そうなる」。マーウッドは自分に言い聞かせるように──実に4回も──そう言っていた。

「我々の夢は必ず実現する。クラブのすべての階層の、すべての人間を信じているからだ。オーナーも会長も、長期的なビジョンと長期戦略を立てている。そして目標を実現するための安定した基盤がある。選手たちはピッチの中でも、ピッチを離れても安定している」

 成功したいと言うのが恥ずかしいことだろうか、とマーウッドは問いかけてきた。「恥ずかしいなんて思う必要はない。なぜなら我々は成功していない。まだ途上なんだよ。全員にハードワークが必要だ。私は毎朝『今日もできるだけ素晴らしい人間として過ごしたい』と思う。そういう熱意が大切だと思っている。そう思えないとしたら、君は間違った集団の中にいるんだよ」

 指揮官グアルディオラの素晴らしさは誰もが知っているし、今さら強調するまでもないだろう。おそらくもっと重要なのは、「彼だけではない」ということなのだ。このクラブにいる誰もが──アカデミーのコーチであれ、SNSの担当者であれ、女子選手であれ──数年後を視野に入れ、フットボールクラブの可能性そのものを広げるようなプロジェクトに挑んでいる。マンチェスター・シティの、もっと言えばCFGの野望の大きさは、おそらくファンの想像をはるかに超えている。

 フットボールの世界で誰も目にしたことのない、“クラブ以上の存在”。もしかしたら我々は、その誕生を目撃しようとしているのではないか──。シティの各セクションを取材した今、そんな気持ちがわき上がる。と同時に、彼らが失敗する理由を見つけるのは難しい、とも。

※この記事はサッカーキング No.004(2019年7月号)に掲載された記事を再編集したものです。

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