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ベテランの背中に漂う自信と誇り…ナビスコ杯MVPの小笠原満男、36歳の真骨頂

2015.11.02

ナビスコ杯で36歳6カ月でのMVP受賞となった小笠原満男 [写真]=Getty Images

 2012年のJリーグヤマザキナビスコカップを最後に、過去2年間タイトルから遠ざかっていた鹿島アントラーズ。過去16冠を獲得している強豪クラブには今季こそタイトルが求められていた。しかし2015年J1第1ステージは8位で終了。第2ステージも停滞感が色濃かった。そして7月19日の松本山雅戦で黒星を喫した直後、トニーニョ・セレーゾ監督が解任される事態に直面してしまう。

 その後、J初期のDFとして鹿島を支えた石井正忠監督がチームを引き継ぐと、常勝軍団は見事に蘇る。天皇杯は早々と敗退したものの、ナビスコ杯決勝進出、リーグ戦もチャンピオンシップ出場に手が届きそうなところまで上昇曲線を描いてきた。

「石井さんを男にしよう。男泣きさせよう」

 キャプテンマークをつける背番号40・小笠原満男は10月31日のナビスコ杯決勝・ガンバ大阪戦前のロッカールームでこう言って仲間たちの士気を高め、ピッチへと歩み寄った。

 立ち上がりから試合は一方的な鹿島ペース。最前線の金崎夢生と赤崎秀平のハイプレスを皮切りに彼らのボールを追いかける迫力は凄まじく、ガンバは全くと言っていいほどポゼッションができない。中盤の要・小笠原も頭脳的な指示で周囲を的確に動かし、自らも巧みなインターセプトと効果的な配球を見せる。前半からシュート数10対2と相手を圧倒しながら0-0で折り返すことになり、嫌な空気も流れたが、後半15分に彼の左CKからファン・ソッコが先制弾をゲット。残り6分というところで再び左CKから金崎の2点目をお膳立てした。その2分後にはカウンターの起点となるタテパスを柴崎岳に出し、最終的に途中出場のカイオがダメ押しとなる3点目を奪って完勝。「これほどまでに相手にいいようにやられられたのは今季初めて」と今野泰幸に言わしめたほど、鹿島、そして小笠原のパフォーマンスは光っていた。

 ナビスコ2度目、36歳6カ月でのMVP受賞はまさに当然のなりゆきだった。

「36歳っていう年齢はサッカーにおいて若い部類じゃないけど、若い頃になかったものが今はあるんで。36歳には36歳なりの良さがありますし。こういう舞台で勝ってきたことばかりがフォーカスされますけど、決勝で負けたことも何回もありますし、どうしたら勝てるのかを考えてきた。それが自分の力になっている。若い頃にあったものはなくなってるかもしれないけど、この年齢になって見えてくるものもある。歳を重ねるのは決して悪いことばっかりではないかなと思います」とベテランMFは堂々を胸を張った。

 この日は同じ79年組の遠藤保仁とのキャプテン対決としても注目された。99年ワールドユース(ナイジェリア)準優勝を経験した「黄金世代」の中で、小笠原と遠藤はつねにトップを走っていた小野伸二稲本潤一(ともに札幌)、高原直泰(相模原)の陰に隠れることの多い存在だった。

 98年10月にタイ・チェンマイで行われたアジアユース最終予選の時などは、控えだけで練習をさせられた小笠原と遠藤、中田浩二(現鹿島CRO)らが不満のあまり、禁止されていたコーラをがぶ飲みしていたこともあったほどだ。その後の2000年シドニー五輪は2人揃って落選(遠藤は補欠)。2002年日韓ワールドカップも遠藤は選から漏れ、メンバー入りした小笠原はサブと、どこか出遅れ感が否めなかった。

 その2人が2006年ドイツワールドカップ以降、一気に巻き返しを図るとは一体、誰が想像しただろうか。小笠原は2009年にJリーグMVPを獲得。遠藤も2010年南アフリカ、2014年ブラジルと2度の世界舞台に立ち、2014年JリーグMVPに輝いた。

 遅咲きの2人のこの日の競演は小笠原自身にとっても感無量なところがあったという。

「ヤットとは10代の頃からずっと一緒にやってきたけど、非常に素晴らしい選手。選手としてもキャリアとしても自分の中では1つも勝ってるところはないけど、やっぱりチームとしては負けたくないと思ったんで。僕らって決していい思いばかりしてきた選手じゃない。悔しい思いも、いい思いも沢山してきたけど、やっぱり勝つ時はチーム一丸となる必要があることをともに理解してる。本山(雅志)や伸二、イナとかもいるけど、みんなでまだまだJリーグを引っ張っていければいいかと思うし、刺激し合っていけるような関係でいたいなと思いますね」と常勝軍団のリーダーはしみじみと語っていた。

 Jリーグは彼ら黄金世代を筆頭に、1つ上の中村俊輔(横浜)、1つ下の中村憲剛(川崎)らベテランの力が依然として際立っている。彼ら30代を若手が超えるのは至難の業だ。小笠原も年長者の自信と誇りを持って、若手の挑戦を迎え撃つつもりだ。

「『やれるもんならやってみろ』ってのはありますけどね」

 こう笑顔を見せた彼を、柴崎らはいつ超えるのか。小笠原が大舞台で示したものをしっかりと受け止め、日本サッカーの未来を担う若い世代にはさらなる奮起を求めたい。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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