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圧巻の好セーブ連発…S広島RのGK木稲瑠那が初めて感じた「ゾーンに入る」

2022.12.10

サンフレッチェ広島レジーナのGK木稲瑠那 [写真]=湊昂大

 サンフレッチェ広島レジーナの背番号1を背負うGK木稲瑠那は、敵地・味の素フィールド西が丘のピッチで初めての感覚を抱いていた。「どこからシュートを打たれても怖くない」。支えてくれる仲間の後押しを受け、絶対にセーブできるという感覚があった。それが初めて“ゾーンに入る”という経験だった。

 圧巻の好セーブ連発だった。木稲は4日に行われたYogibo WEリーグ第5節の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦に先発出場し、ことごとく相手のシュートをストップ。過去3試合で毎回複数得点を許していた相手に今季初のクリーンシートを達成し、1-0での勝利の立役者となった。

 8日の練習後、「自分もいいプレーができたと思っているけど、勝てたのはみんながしっかりゴール前で守ってくれたおかげでもあるし、シノさん(中嶋淑乃)が決め切ってくれたおかげだったと思います」と振り返った。

 ベレーザ戦で覚醒した背番号1だが、そこに至る話は昨シーズンまで遡る。WEリーグ1年目の昨シーズンは開幕からフル出場を続けていたが、チームが連敗していた3月の第14節・ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦を最後にGK福元美穂にスタメンの座を譲っていた。そこからベンチで試合を見守る時期が続いていた。

「スタメンから外されてすぐのときは正直へこんだけど、そこで終わったら意味がないと思っていた。福さん(福元)、藤田(七海)選手、巻(胡花)選手のプレーも見ながら盗めるところはしっかり盗んで自分のレベルアップにつなげようと思いながらやっていました」

 試合に出られない時期でも前向きに取り組んできた。中村伸監督も当然その姿を見ている。「トレーニングの中で取り組む姿勢もプレーも確実に変わってきていた。特に福元選手がゲームに出ている時のパフォーマンスであったり、フィールドプレイヤーとの関わり方だったり、声の掛け方だったりをしっかり見て学んでくれていた」

 今シーズンになって待望のスタメン復帰を果たしたが、ピッチでは悔しい失点が続いていた。久々の出場となった第3節の三菱重工浦和レッズレディース戦は、同点に追いついた直後に失点して1-2で敗戦。翌節のINAC神戸レオネッサ戦は先制したものの、試合終了間際に同点ゴールを許して惜しくも勝ち星を逃した。昨季トップ3のチームに対してほぼ互角の戦いを見せていただけに、1つの失点がもったいなかった。

 だからこそ、木稲は燃えていた。「浦和戦と神戸戦で得点した後の失点が多かったので、ゴールを決めさせないということをしっかり意識していました」。その強い気持ちを表現するように、ベレーザ戦では前半から相手エースFW植木理子のチャンスを防いで好プレーを見せる。

 特に相手が1点を追って猛攻を仕掛けてきた試合終盤はスーパーセーブの連続だった。FW藤野あおばの決定機、DF宇津木瑠美のヘディングシュート、MF三浦成美のミドルシュートをことごとく阻止。木稲の集中力は極限まで高まり、まさに”ゾーン”に入った状態だった。 

「ゾーンに入ったという感覚は自分でも感じていました。どこから打たれても怖くないなっていう気持ちで、初めての感覚でした」

 強豪ベレーザとの試合で、いかにゾーンに入れたのか。木稲は「なんかわからないけど、どこから打たれても決めさせないっていう気持ちがあった」と率直に話す。本人は「わからない」と言うが、目の前で粘り強い守備を見せたチームメイトと熱い声援を送っていたサポーターたち、そんな仲間の存在が後押ししたのは間違いない。

 チームは前から積極的なプレスを仕掛け、相手の強烈な個の力に対してもカバーし合いながら一丸となって戦った。チームメイトの懸命な守備がGKに自信を与えていた。「みんながシュートコースを限定してくれたので、自分もコースを絞りやすかった」と好セーブ連発の要因を語る。

 指揮官もチームメイトとの連携向上を称えている。「彼女のスーパーセーブは当然素晴らしいこと。フィールドプレイヤーとのつながりがあって、あのセーブが生まれたのは本当にいい関係を作り始めているということ。チーム全体でいい守備ができて、最後にしっかり止めてくれました」

 仲間からの声も木稲の気持ちを高ぶらせた。「シュートを止めた時に『ナイス!ナイス!』ってハイタッチしてくれる人もいたので、それはもう嬉しかったです」とチームメイトからの鼓舞を明かす。 さらに、この日は声出し応援があり、集まったレジーナのサポーターたちがチーム発足以降初めてオリジナルのチャントを披露した特別な日でもあった。

 自身が守るゴールのすぐ後ろから声援を受けた木稲は、「間近でサポーターの方々の応援を聞けて、レジーナのオリジナルの応援歌も初めて聞けて嬉しかったし、後押ししてくれました」と笑顔で振り返る。「自分のコーチングがチームメイトに聞こえないんじゃないかぐらいの大きな声援だった(笑)。西が丘はサポーターの方との距離が近いので、試合後にみんなが喜ぶ顔を間近で見られたので嬉しかったです」

 スタメン落ちの経験を経て、ピッチに戻ってきた背番号1がチームを大きな勝利へと導いた。木稲は「クリーンシートで抑えられたのはすごい自信になりました」と手応えを口にしつつ、さらに向上心を強める。

「今スタメンで出続けられているのは率直に嬉しいですけど、現状に満足したらいけないし、これからもっとGK陣で競争しながら自分も成長しないといけない。前節いいプレーができたので、それを自分のベースにしてもっとレベルアップしたい」。そう誓う守護神の活躍がレジーナ2年目の飛躍の鍵になりそうだ。

取材・文=湊昂大

By 湊昂大

Kota Minato イギリス大学留学後、『サッカーキング』での勤務を経てドイツに移住して取材活動を行う。2021年に帰国し、地元の広島でスポーツの取材を中心に活動中。

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