日本代表MF鈴木唯人
2026年北中米ワールドカップにおけるアジア最終予選経験者は鎌田大地と町田浩樹の2人だけ。5日のオーストラリア代表戦は未知数のメンバーで挑み、惜しくも0−1の苦杯を喫した。この試合の中で前向きな印象を残した数少ない人材の一人が、右シャドーで先発した鈴木唯人だった。
2024年6月のミャンマー代表戦(ヤンゴン)で初キャップを飾ってから丸1年。デンマーク1部のブレンビーで昨季32試合12ゴールという目覚ましい成果を残し、ドイツ1部・フライブルクへのステップアップを決めた。1年前の代表戦では後半頭から登場し、鎌田とシャドーのコンビを組んだが、奇しくも今回も鎌田と横並びで先発出場。その感覚がうっすらと残った状態で、彼はピッチに立ったのではないか。
オーストラリアが『5−4−1』システムで徹底的にブロックを作る中、鎌田は序盤から左中盤に降りてボールを触るシーンが多かった。だが、鈴木はあえて引かずに前でチャンスを伺った。「自分も『右の方でああやって(鎌田のように)落ちて組み立てろ』とは求められていましたけど、そうじゃなくても大丈夫かなと。その勝手な判断で(前半28分のハーフウェーラインから持ち上がった)シュートシーンが作れたと思う。結果的には当たらなかったですけど、やっぱりチームで求められている形だけでは崩しきれない。そのは分かっていたので、あえてそうしましたね」と背番号8を着けたアタッカーは自分の感性と判断を強く押し出していったという。
そういう強気のマインドこそが、デンマークで合計2年間プレーし、結果を出してきた自信と成長ではないか。「自分は成り上がってやるんだ」と目をギラギラさせてぶつかり合う外国人選手たちと切磋琢磨することで、鈴木は「自分はこういうプレーがしたい」「それがチームの勝利につながる」と主張することを覚えていったのだろう。自身のストロングを出しつつも、チーム内のタスクも確実にこなすことが、ハイレベルな領域で生き残ることにつながる。代表で同ポジションの先輩である南野拓実や鎌田、久保建英らもそうすることで世界トップリーグで結果を出し続けてきたのだろう。
「今シーズンはオン・ザ・ボールだけでなく、オフ・ザ・ボールのところから自分の特徴を生かしてやっていこうと考えて、取り組んできました。そこは少しずつよくなっているのかなと。あとはボールを受けた後の質だったり、チームメートとコミュニケーションを取って引き出すところとかをやっていかないといけないですね」と本人も語っていたが、オーストラリア戦では変化の一端が見て取れた。
爪痕を残したからこそ、次は代表初ゴールを貪欲に目指すしかない。1年前の代表デビュー時には「結果は後からついてくると思うし、先に『結果、結果』となりすぎてもよくないと思う」と淡々とコメントしていたが、やはりアタッカーに求められるのは目に見える数字。今の日本は最終予選初黒星を喫した直後だけに、苦境からチームを救ってくれる選手の出現を森保一監督も待ち望んでいるに違いない。
そうしなければ、大激戦のシャドーでは生き残れない。鈴木が定着を目指しているこのポジションは逸材がズラリと並んでいる。スコットランドで傑出した実績を残す旗手怜央でさえも、代表ではほとんど出番を与えられていない。厳しい環境から一歩抜け出すためにも。次のインドネシア戦でピッチに立つチャンスが訪れるなら、必ず得点を奪うべき。日頃から冷静な男には、ガツガツ感を前面に押し出してゴールに襲い掛かってほしいのだ。
「自分には他の選手と違った特徴があると思っているので、そういうところを、次のインドネシア戦もそうですし、今後、代表活動をしていく中で『自分はこう』というプレーを見せていくしかないと思っています」と本人も「鈴木唯人らしさ」にこだわりつつ、インパクトを残す覚悟だ。
そのうえで、代表活動後には来シーズンを最高のシーズンにすべく、全力を注いでいくしかない。ご存じの通り、フライブルクは堂安律が実績を残したクラブ。日本人選手を受け入れる環境は用意されている。そこにすんなり適応し、来シーズンのブンデスリーガ、あるいはUEFAヨーロッパリーグで大暴れできれば、本当に序列も変わってくるはずだ。ELでは、21-22シーズンにフランクフルト時代の鎌田がタイトルを獲得している。当時の鎌田も代表当落線上にいたが、輝かしい実績によって2022年カタールW杯メンバー入りを射止め、主力として活躍。現在も不可欠な存在になっている。その軌跡を鈴木も踏襲したいところだ。
「チームでのプレーが評価されて代表に選ばれるのは間違いないと思うので、僕は新しいチームに行きますけど、そこでしっかりと活躍した姿を見せられれば、チャンスがより広がっていくのかなと思います」と本人も野心をのぞかせたが、彼のポテンシャルを考えれば、大躍進は十分可能ではないか。まずは次戦での代表初ゴールから地位確立の布石を打つこと。それを期待しつつ、背番号8の一挙手一投足を見守りたい。
取材・文=元川悦子
By 元川悦子