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8年ぶりアジアの頂点…「家族のような」フットサル日本代表、24年W杯への第一歩

2022.10.13

優勝したフットサル日本代表 [写真]=AFC

 木暮賢一郎監督就任後初のタイトルがかかる国際大会「AFCフットサルアジアカップクウェート2022」が8日に幕を閉じ、フットサル日本代表が8年ぶり4度目の優勝を収めた。

 今大会に向けた取り組みは、9月5日の国内合宿からスタート。6日間の合宿を経て、国内で2年半ぶりの開催となるブラジルとの国際親善試合2連戦を行い、ともに1-5というスコアで黒星を喫した。木暮監督は「少しでもエラーをしてしまうと大きな傷になってしまうと、若いチームは感じることができた。10年以上、ひとつの世代が長い時間をかけて経験を積み、集大成を迎えたのが昨年のW杯だった。ぽっかりと空いている世代があることは間違いなく、そういったことが今後起きないために育成年代も率いている。世界との差を埋めるために、我々はその差を2年、3年で埋める努力をしている最中だ」と2戦を糧にし、バーレーンでの国際親善試合(vsバーレーン、○5-3)を経て、クウェート入りした。

 日本は優勝候補と目される中、グループステージ初戦のサウジアラビア戦で1-2の逆転負け。サウジアラビアを率いるアンドレウ・アルバレス監督が「大きな勝利だ」と何度も話すほど、日本にとって落としてはいけない試合だった。初戦で出場機会を得られなかった選手もいたため、選手の起用や招集メンバーを疑問視する声も上がった。敗戦後の様子を、内村俊太は「チームの雰囲気はとても悪かった」「僕と(吉川)智貴は8年前の優勝メンバーで、あの時もグループステージで一敗しているが、(今回は)悪い負け方だった」と振り返っている。危機感を覚えた吉川と内村が中心となり選手だけのミーティングを行い、短期決戦での心の持ちようや、ピッチ上の選手に対するポジティブな声掛けをすることの共通認識を持った。

 第2戦、韓国との試合では、第1戦では出場機会のなかった長坂拓海が2アシストの活躍を見せるなど6得点を奪い完封勝利。実力差のある相手だけに、何も行動を起こさずとも勝利し、自然と自信やまとまりが生まれていた可能性もある。それでも内村は「”たられば”かもしれないが、やはりみんなで話せたことは大きかった」と話す。

(左から)2アシストの活躍を見せた長坂と上村、石田 [写真]=AFC

 ベトナムとの第3戦は、2点差以上の勝利でGSを1位で突破できる日本と、4点差以上で敗戦しない限りはGS突破が決まっているベトナムの両者がスコアの動きを見ながら戦う難しい試合となる。6分に清水和也のゴールで先制するが、スコアが動かず、ジリジリとプレータイムが削られていく中、試合時間残り10分を切って、ベトナムがタイムアウトを獲得。木暮監督がボードを持ち、選手の配置を説明しようと口を開いたとき、清水和也が突然「行こう、行こう!」と声を上げる。勝利に向かう強い決意が前のめりに出てしまったが、周囲は冷静で木暮監督も何事もなかったかのように指示を続けた。そして、その清水が待望の2点目を挙げ、日本は2-0で勝利。清水は、「アジア独特の雰囲気もあり、飲み込まれないようにと思っていた。テクニカルな指示を遮断してしまったが、気持ちを出したというところを評価してもらえれば…」と笑ったが、初戦黒星からの逆転での首位通過となった。

 ベスト8が出そろい、一発勝負のトーナメント初戦は、高橋健介コーチが昨年まで総監督を務めていたインドネシア。“個サル”を楽しむレベルだったインドネシアに競技フットサルを落とし込み、2020年のAFCフットサルアジアカップ兼ワールドカップ予選でベスト4入り、W杯に初出場という夢を選手たちと追っていた。しかし、同大会は新型コロナウイルス感染症の影響で中止。昨年には総監督を退任した。試合前日には「夢に向かって努力している姿を一緒に見てきたので、今回打ち破らなければならないのは言葉にしづらい感情」「でも、僕は勝たないといけない」と、複雑な心境を語った高橋コーチ。この試合の前にはインドネシアでのサッカー場での暴動で多くの死者が出たこともあり、「インドネシアのフットボール界全体でサポートしてもらっていたので、非常に悲しい。哀悼の意を表しながら少しでも勇気を与えられる試合をしたい」と語っていた。

インドネシア代表の総監督を務めた高橋コーチ(前列左から3番目) [写真]=AFC

 準々決勝は最後の最後までどちらに転ぶか分からない接戦となった。最終スコアは3-2でと勝利を収めたが、高橋コーチがインドネシアにもたらした功績が現れた試合となった。試合残り6分、インドネシアが1点を追いかける場面でのカウンターの絶好機に、負傷して倒れ込む日本の選手を見てボールを切る選択をするスポーツマンシップを見せた。試合後には両国の選手を誹謗中傷するような言葉がSNSなどであったというが、両チームの監督、選手、スタッフが互いの戦いをたたえ合い、翌朝には集合写真を撮る絆の深さも見せた。

 準決勝ではウズベキスタン代表と対戦。木暮監督が「日本はイランと並ぶポジションを維持している。日本フットサルのプライドとして、イランに競り勝つのが代表の使命であり、今日のような試合をリアルに体感できるのは、おそらくイランやウズベキスタンといった片手に収まるくらいの国」と、ブラジル戦後に名前を挙げていた国のひとつだ。

 日本はこの試合でも先行を許す苦しい展開となるが、選手たちは落ち着いていた。1点ビハインドで迎えた第2ピリオド序盤、キックインの流れからアルトゥールが同点弾。さらにCKから、金澤空が逆転ゴールを決める。31分にはGS第2戦からゴールを守ってきたイゴールが負傷交代を余儀なくされたが、大会初戦以来のピッチとなった黒本ギレルメが、「Player of The Match」に選出される活躍を見せて、2-1の勝利に大きく貢献した。

 決勝の相手はアジアで日本と覇権を争ってきたイラン。大会でもここまで圧巻のプレーを見せてきた。日本は前日練習でイランのピヴォの利き足やシュートのパターン、対峙した際の半身の置き方などを細かくレクチャーしていたが、その指示の通り、しっかりと集中してパスやシュートのコースを切ってプレスをかけていくと、イランが配球の不安定さを見せるように。日本はキーマンとして、ここまで出場機会に恵まれなかった内村が、屈強な相手のピヴォを抑えた。内村は決勝の日が結婚記念日だった。

決勝で出場時間を伸ばした内村 [写真]=AFC

 この日も選手たちは落ち着いていた。先制されても焦れることはなく、やるべきことだけに集中。ここまで心身ともにチームを支えてきた吉川が失点直後に負傷交代するアクシデントもあったが、吉川の姿を見て結束力を増すと、GK黒本からのロングボールから清水和也が同点ゴールを獲得。シュート。先制された直後に追いつけたことは大きかった。

 第2ピリオドではイランが攻勢を強めるが、日本はゴールマウスを割らせない。27分には右サイドでFKを得ると、アルトゥールの鮮やかで強力なミドルシュートがゴールネットを揺らした。勝ち越した日本は猛攻に耐え続け、パワープレーも跳ね返し続け、残り30秒には相手ミスから日本に決定的な3点目が生まれた。残り1秒で失点はしたが、リスタートした瞬間に終了のブザーが鳴り響き、3-2で日本が逆転勝利。見事、8年ぶり4度目となるアジアチャンピオンの座に輝いた。ベストGK賞には準決勝、決勝で素晴らしいセーブを見せた黒本ギレルメが選ばれた。

ベストGK賞を受賞した黒本(中央) [写真]=AFC

 キャプテンのアルトゥールは「いつ、優勝を確信したか」との質問に、「準決勝を終えたとき」と回答。イランと戦う前から、優勝を確信していたというのだ。その言葉のとおり、アルトゥール以外の選手たちも決勝では終始落ち着いたプレーを見せていた。

 黒星スタート、2点差以上が必要だったベトナム戦、中心選手の負傷…。優勝までは決して平坦な道のりではなかった。しかし、監督、選手、コーチ陣やメディカルスタッフ、ダイレクターやバックアップメンバーといったフットサル日本代表に関わる全員が文字どおり「家族のような」信頼感と結束力を見せ、アジアチャンピオンの座を勝ち取った。

 日本のフットサル史上最年少でフル代表への招集を受け、少ない出場時間ながら常にチームを盛り上げ、準々決勝のインドネシア戦で流れを変える役割を担い、金澤空の同点弾をアシストした原田快は、こう振り返っている。

フットサル界の未来を担う20歳の金澤(左)と18歳の原田 [写真]=AFC

「U18(JFA 第9回全日本U-18フットサル選手権大会)の優勝の次の経験が、国内のリーグ戦やカップ戦の優勝ではなく、一気にアジアチャンピオンというのはすごい経験だと思います。でも、自分の夢は世界一になることです。今大会はまだ、中心選手ではなかったので、ストーリーが第10章まであるとしたらまだ第1章の半分の0.5章くらい。僕は日本でもまだまだの選手だし、世界ではもっと小さい存在だけど、こういう経験をして2年後のワールドカップではエースと呼ばれるような中心選手になりたいです」

 新生フットサル日本代表のストーリーも、始まったばかりだ。苦しみながら試合を追うごとに成長する姿を見せた選手たちを中心に、日本フットサル界を盛り上げ、2024年のワールドカップでは史上初のベスト8以上の成績を残してくれることを期待したい。

取材・文=しょうこ

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