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【コラム】川崎を戴冠に導いた“影のMVP”阿部浩之、初選出された日本代表へ新たな風を吹き込む

2017.12.04

キャリアハイの10ゴールで川崎の優勝に大きく貢献した阿部浩之。初招集された日本代表でシーズンを締めくくる

 開始からわずか46秒で生まれた阿部浩之のゴールが全ての始まりだった。

 川崎フロンターレのキックオフ。正面衝突のような大宮アルディージャのプレスを、エウシーニョがドリブルでかいくぐった。小林悠が相手を釣って中央から右へ。空いた左に潜り、パスを呼び込んだのが阿部だった。


 外に突っかけ、すぐさま左足を振り抜いたのは「自分の得意な形、自信があった」から。シュートは対角線の軌道でゴール右隅を射抜いた。

 2日の明治安田生命J1リーグ。またしても2位の苦汁をなめそうな最終節だった。勝利を前提に、首位・鹿島アントラーズがジュビロ磐田と引き分け以下に終わる他力本願が戴冠の条件。「鹿島が勝ったら、しゃあない」と頭の中で割りきってはいても「やっぱり多少は硬かった。優勝がちらつくんで」と阿部。パスをつないでも得点につながらなければ、ありがちな空転の悪循環に陥っていたはず。だから早々の先制点は自身と同僚の心と体を軽くした。「チームを勢いづけられたかな」。2、3点目の起点にもなった。

 たとえ当事者が情報を遮断したとしても、空気は伝わる。等々力で積み上げられる大量点が、アウェーでもがく鹿島に有形無形の重圧をかけたのは想像に難くない。何度目の正直か。ついに川崎がシルバーコレクターとの枕詞を返上、頂点に立った。

 表のMVPが中村憲剛や小林なら、陰のMVPは阿部だったと思う。

 ガンバ大阪時代は攻守をつなぐ渋い脇役。今季、周りを生かすだけではなく、生かされたくて、組み立てに細を凝らす川崎へと移った。春先に任されたのは1トップ。エースの大久保嘉人が去ったチームは新しい攻め手を模索していた。走り回ってスペースを生み、自らも飛び込んでいく阿部の動きが合致した。そうやって2017年型の攻撃は流動性を増した。

 堅守速攻の古巣でタイトル4個を獲得した経験値も、新天地から欲されたもの。良くも悪くも攻めっ気たっぷりで真っ正直なチームに、メリハリをつけた試合運びの大切さを説いた。足と口で守る。「どんな状況でも試合中に声をかけることはできる。それが正解なのかどうかはわからないけれど、みんなが同じ方を向ければいいなと思って。少しでも勝利に貢献できていたら、良かったですね」

 成長の跡は大宮戦でも刻まれた。先制後に待っていた劣勢。展開をぶつ切りにしながらやり過ごした。「みんなが落ち着いて、守る時間帯と攻める時間帯を使い分けられた結果」

 気がつけば、中村が「昨季までなら負けたり引き分けたりしていた試合を勝ちに持っていけるようになった」と実感する粘りがもたらされていた。

「プレーの引き出しが増え、幅も広がった」という移籍元年。自身最多の10得点を挙げ、初タイトルに貢献したシーズンの締めくくりは日本代表だ。初選出されてEAFF E-1サッカー選手権に臨む。

 生かし、生かされ、潮目を読めて。流れをつくれる28歳が、川崎とは違った意味で真っ正直にすぎる代表へ新たな風を吹かせるかもしれない。

文=中川文如

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