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【コラム】「基本遠回りするタイプ」…東口順昭、紆余曲折の人生をロシアで結実へ

2017.10.02

10月の代表戦で出場濃厚の東口順昭 [写真]=Getty Images

「この合宿ではあまり出ていなかった選手に機会を与えたい。例えば、東口(順昭/ガンバ大阪)をゴールマウスに立たせることもあるかもしれない。新しい選手をピッチに立たせることで、プレッシャー下でどのようにプレーできるか、メンタル的な状況もよく分かる」

 9月28日に行われた10月の日本代表2連戦(6日・ニュージーランド代表戦/豊田、10日・ハイチ代表戦/横浜)のメンバー発表会見で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がわざわざ名指しで発言した通り、今回のシリーズでの東口抜擢はほぼ確実と見ていいだろう。


 アルベルト・ザッケローニ監督体制の2011年3月の東日本大震災チャリティマッチでA代表に初招集されてから6年半。31歳の守護神の国際Aマッチ出場数がわずか2というのは信じがたい事実だろう。ガンバ大阪で絶対的な存在に君臨し、今季もスーパーセーブを連発しているのに、どうしても代表のゴールマウスに手が届かない。川島永嗣(メス)や西川周作(浦和レッズ)といった年長者が存在感を発揮していたにせよ、本人は自身のパフォーマンスに自信を持っているはず。だからこそ、悩み苦しんだ6年半だったに違いない。

移籍初年度は3冠達成の立役者に [写真]=JL/Getty Images for DAZN

「(初めて代表に呼ばれてから)長いですよね、やっぱり……。長いと思います。代表に選ばれてる数の割には試合には出てへんと思うし。でもまあ基本的に遠回りするタイプなんで、少ない中でも濃い試合にできればいいと思います」と東口はしみじみと話していた。

 その言葉通り、彼の人生は紆余曲折の連続だった。本田圭佑(パチューカ)、家長昭博(川崎フロンターレ)とともにG大阪ジュニアユース時代を過ごしながら、本田同様、小柄な体躯などが災いしてユース昇格が叶わなかった。京都の洛南高校で再起を図り、福井工業大学へ進んだが、サッカー部解散というショッキングな出来事に見舞われ、新潟経営大学に転入。そこでの活躍が認められて、2009年にアルビレックス新潟でプロキャリアをスタートさせることができた。

 新潟時代も2年目の2010年から試合に出始めたが、左眼窩底骨折および鼻骨骨折の重傷でいきなり離脱。代表に呼ばれ始めた2011年も右ひざ前十字じん帯損傷で全治8カ月と診断されるなど、苦労の連続だった。2013年に復帰し、2014年には古巣・G大阪へ移籍。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)で国際経験を積み、2015年8月の東アジアカップ・中国戦(武漢)で初キャップを飾るなど、着実にGKとして進化を遂げてきた。

 それでも、年代別代表からステップアップしてきた川島、西川、林彰洋(FC東京)、権田修一(サガン鳥栖)の牙城は崩せず、代表に呼ばれて帰るだけの日々を余儀なくされる。普通の選手なら精神的に崩れてしまいそうだが、「回り道してきた人間」と自称する男はとにかく忍耐強い。「結果的にはそこが自分の強みです」と苦笑いするくらいの強靭なメンタリティを身に着けたのだ。

 凄まじいプレッシャーのかかるワールドカップという舞台で最後尾に位置しようと思うなら、タフで逞しい精神面は必要不可欠だ。川島も大会直前に大先輩・楢崎正剛(名古屋グランパス)から正守護神の座を奪い取った2010 FIFAワールドカップ 南アフリカで大活躍し、海外へとステップアップする権利を得た。そういう川島のことを「永嗣さんはメンタルのところが抜群に強い」と東口も神妙な面持ちで評したが、彼自身にもそれだけの蓄積はあるはずだ。

「永嗣さんが(久しぶりに復帰した今年3月の)UAE代表戦(アルアイン)で素晴らしいパフォーマンスを見せたのはすごかったけど、自分にもやれる。全てをぶつければ必ずいい結果が出ると思う」と語気を強めたのも、秘めた自信の表れに違いない。その能力を見せるべき時は今しかない。遠回りの人生を結実させるためにも、このチャンスを逃してはならないのだ。

代表3キャップ目を目指す [写真]=Getty Images

「ここから(ロシア)ワールドカップまではホンマにサバイバルなんで、1試合1試合を大事にして、自分の特徴を出してやっていきたいですね。自分の強みはシューストップやクロスボールの対応。その後のフィード。そこは永嗣さんや航輔(中村/柏レイソル)にも負けていないと思うんで、アピールしていきたいですね」と話すように、Jリーグで見せているような鋭い反応を随所に見せていけば、一気に正GKを手にすることも夢ではない。

 1998年フランスW杯は川口能活(SC相模原)、2002年日韓W杯は楢崎、2006年ドイツW杯は再び川口、2010年南アW杯、2014年ブラジルW杯は川島と日本のワールドカップ守護神は毎回のように変わっている。川島にしても、ご存知の通り、ブラジルW杯の後は代表落ちを経験し、盤石とは言いがたい状況だった。それだけ揺れ動いてきたポジションだけに、9カ月後の大舞台に立っているのが誰なのかはまだ不透明な部分が少なくない。東口がその地位を得るためにも今回の代表戦での一挙手一投足が重要になる。自分の長所を出すのはもちろんのこと、チーム全体を統率し、落ち着かせられるような影響力を示すこと。それを彼には強く求めたい。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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