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【コラム】ベテラン勢が抱く“変革”への思い…オマーン戦はチームを修正する最大のチャンス

2016.11.11

本田(写真)はオマーン戦がチームの方向性を修正するチャンスだと位置づける [写真]=JFA

 茨城県立カシマサッカースタジアムでは実に12年9カ月ぶりとなる日本代表戦が、11月11日に開催されることが発表されたのは6月30日。相手がオマーン代表だったことと、4日後の同15日には同じ中東勢であるサウジアラビア代表との2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選第5戦が埼玉スタジアム2002で控えているスケジュールとを見れば、キリンチャレンジカップ2016の最大の目的はおのずと察することができた。

 サウジアラビアから確実に白星を奪うためのテストマッチ――。今現在もその位置づけは変わらないが、日本代表が置かれた状況は当時と大きく変わっている。アジア最終予選の折り返しとなる5試合目を前に、日本は2勝1分け1敗の勝ち点7で3位に甘んじ、一方のサウジアラビアは3勝1分けと無敗の同10でグループBの首位を走っている。

 ロシア行きの切符を自動的に得られるのは上位2カ国。サウジアラビアだけでなく、2勝2分けの勝ち点8で2位につけるオーストラリア代表の後塵を拝している状況は、日本サッカー協会、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督、そして選手たちにとっても想定外となるはずだ。

 サウジアラビアに勝てばオーストラリアを含めた大混戦のまま後半戦へと突入し、もし負ければ勝ち点1差で日本を追走するUAE(アラブ首長国連邦)代表にも抜かれて4位に転落しかねない。ロシアへと通じる道が視界良好となるか、あるいは深い霧が立ち込めるか。アジア最終予選の行方を占う大一番へとつながるオマーン戦を前日に控え、カシマスタジアム内で記者会見に臨んだハリルホジッチ監督は「私の頭の中にはいろいろな確認事項がある」と、サウジアラビア戦を踏まえながらこう続けた。

「優先されるのは、サウジアラビア戦でより良いパフォーマンスを出せるようにすることだ。誰がサウジアラビア戦で使えるのか。何人かは所属クラブで長い時間プレーしているので、そういう選手は少しフレッシュな状態にさせる。これまで代表チームでプレーしていなかった選手にチャンスを与えてクオリティを見たいし、ヨーロッパで出場機会の少ない選手も見たい。もちろん明日も勝つための準備をする。しっかりとハードワークして、それぞれの立場でプレーしてもらって、全員がサウジアラビア戦へ良い状態で臨む。その目的を間違えてはいけない」

 ならば、選手たち、特に長く日の丸を背負ってきたベテラン勢はオマーン戦をどのように位置づけているのか。カップ戦を含めて直近の4試合すべてで先発フル出場を果たし、本職のボランチではなくリベロとしてドイツ国内で高い評価を獲得。充実感を漂わせながら帰国したキャプテンの長谷部誠(フランクフルト)は、ハリルホジッチ監督の言う「フレッシュな状態にさせる」グループに入るだろう。

 指揮官の配慮もあって、10日の練習を別メニューで調整した32歳は「コンディションは逆にいいですよ」と心配無用を強調する。その上で試合ごとに戦い方を変えるなど、今までの日本代表にないスタイルをもち込もうとしているハリルホジッチ監督の意図を、選手たちが先んじて感じることが必要だと説いた。

「この間の(アウェーの)オーストラリア戦とホームの試合のように、ハリルホジッチ監督は戦い方を明らかに変える。選手たちはそこをしっかりと理解して、臨機応変に、柔軟にやっていく必要がある。選手の選考からも、監督がやりたいサッカーというものを感じ取ることができるので」

 例えば11月シリーズのボランチには、長谷部の他には山口蛍(セレッソ大阪)、永木亮太(鹿島アントラーズ)、初招集の井手口陽介(ガンバ大阪)とボール奪取力に長けた選手が顔をそろえた。柏木陽介(浦和レッズ)に代表されるプレーメーカーが外れた点に込められた狙いを、指揮官が好んで使う、フランス語で一対一の決闘を意味する「デュエル」にあると長谷部は感じている。

「サウジアラビアの中盤にはけっこう速くてドリブルが好き、という選手がいるので、そういう相手に対してボールを奪う能力が求められているのかなと。(山口)ホタルや井手口、永木もそうですけど、どんどん前へ、時にはゴール前にも入っていく。ボールをポゼッションしてリズムを作る、という選手が今回のボランチに選ばれているわけではないけど、それでも自分たちの特徴を生かしつつ、ゲームをコントロールすることも自分を含めた4人はやらなきゃいけない」

 故障や不慮のアクシデントなどが重なり、アジア最終予選でまだピッチに立っていないDF長友佑都(インテル)は外から見る時間が増えた分だけ、代表チームに対して少なからず違和感を覚えるようになったという。

「W杯に行かなければいけない、というプレッシャーを一人ひとりが感じているというか。やっぱり躍動感というか、みんながサッカーを楽しんでいるのかというか…。そういう勢い的なものが落ちているのかな、というのが正直ある。それ(勢い)がないと相手に対する怖さも出ないし、いい時の自分たちの躍動感というか、怖いモノなしというようなメンタルをもう一度みんなが持って、チームを作っていかないとちょっと厳しいのかなと」

 躍動感を生み出すのは自信。それが少しずつ萎んできたのか。長友によれば、さかのぼればグループリーグで1勝もできずに敗退したブラジルW杯に行き着くという。そして、昨年1月のアジアカップ2015でも準々決勝で敗退し、アジア王者の肩書を失ったことで負のスパイラルに拍車がかかった。

 A代表に名前を連ねて9年目。無名の存在から不動の左サイドバックとして一時代を築いた長友も、9月には30歳になった。だからこそ、その胸中にはさまざまな思いが行き来する。

「長く代表でプレーさせてもらっている選手たちの経験から来る落ち着きも大事だけど、若い選手たちには遠慮なんてせずにガツガツと、チームの中心になって引っ張ってやるんだ、というくらいのギラギラしたメンタルを持ってほしいですよね。そういうメンタルは必ず彼らを成長させる。僕自身もそうだし、(本田)圭佑もオカ(岡崎慎司)も、同世代の選手たちは自分たちが上り詰めるんだという思いを常に抱いていたから。もちろん、今も僕たちにもありますよ。僕らもギラギラしたものをもう一度、心の底から出す気持ちも大事だし、そういうベテランを見ることで若い選手もついてくるんじゃないかと」

 体調不良で前日練習に姿を見せなかった長友は、オマーン戦を欠場する可能性が高い。それでも9日の練習後の取材エリアで解き放ったパッションと日の丸へ寄せる深い愛情は“言霊”となって、チーム全体へと伝播していくはずだ。

 そして、FW本田圭佑(ミラン)は、指揮官の言う「ヨーロッパで出場機会の少ない選手」の代表格となる。リーグ戦はわずか3試合、81分間とトータルの出場時間が1試合に達していない。10月25日のジェノア戦で初先発を果たしたものの、見せ場を作ることなく62分にベンチへと退いている。

「1試合チャンスがあったんですけどモノにできず、その後はそのまま(リザーブ)という感じですね。結果がついてこなかった点に関してはもちろん改善しなきゃいけないけど、まったく悲観はしていない。何を言ってもこの世界は結果で判断されるので、いい結果を出せるように、最大限の準備をしていきたい」

 代表チームに招集されるたびに、今シーズンのミランにおける厳しい立ち位置を問われる。それでも強気な表情を崩すことなく代表戦のピッチに立ち続け、肉体的だけでなくメンタル的にもタフなことを証明してきた男は、11月シリーズを「テストマッチを挟めることで、時間的に余裕があると感じる。それをしっかり生かさないといけない」と明言。チームが目指す方向性に修正を施せるチャンスが、オマーン戦になると力を込めた。

「試したいことがいくつかある。全部は無理だと思いますけど、オマーン戦で試したいことの優先順位づけをこの数日間でやりたいな、と」

 ヒントは後半アディショナルタイムに決まった山口のスーパーゴールで、イラク代表を2-1で振り切った10月6日のアジア最終予選第3戦にある。ホームでの開催ながら、まさかの苦杯をなめた9月1日のUAE戦に続いて主導権を握り切れない内容に、本田はこんな言葉を残している。

「本当は向こう(イラク)が『うざい』と思うくらいに、(ボールを)回さないといけないというのは感じている」

 もちろん勝利は嬉しいが、ワールドカップ本大会で結果を残すことを考えた時、劇的な勝利に酔いしれてばかりいるわけにもいかない。慎重に言葉を選びながらも、縦に速く攻める攻撃に傾倒しすぎているハリルホジッチ監督のスタイルに「プラスアルファ」が必要だと説いている。

「基本はやりたいようにやる、ということだと思う。サッカーはやらされて、いいプレーができるものではないので。窮屈に感じて、自分の特徴を出せないと意味がない。とはいってもベースを作るのは監督であり、そのベースに乗りながら選手がそれぞれ得意としているプレーをその場、その場で加えていくことを意識しないと。監督が嫌う部分かもしれないし、そのへんの調整が必要かもしれない。それでも伝えていくことが大事だと思う」

 指揮官と意見や抱く思いを擦り合わせる、最大にして最後のチャンスになるのがオマーン戦となる。守備的に戦ったオーストラリア戦で務めた1トップから、定位置でもある右ウイングでピッチに立つことを想定しながら、本田はおぼろげながらもこんな青写真を描いて茨城県内でのキャンプを消化してきた。

「コンビネーションのやり方、そのときの選手の動き方、ボールのもっていきどころ、というのにちょっとだけ変化をつけたいと思っていて。そのへんで自分とポジションが近い選手との意思疎通を、テストマッチということを意識して、変えるという意味でトライしてみようかなと」

 国際Aマッチデーでありながら、あえてテストマッチを組まなかったサウジアラビアはすでに8日に来日。時差調整を含めて大一番へ余念のない難敵から、おそらくテレビ中継を介して鋭い視線を送られる中で、ベテラン勢が抱く“変革”への思いも込められたオマーン戦は19時20分にキックオフを迎える。

文=藤江直人

By 藤江直人

スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

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