遠藤(右)は試合後、「いい経験」で終わらせずに「本番で結果を示さないといけない」と語った [写真]=Getty Images
リオデジャネイロ・オリンピック日本代表とブラジル五輪代表との国際親善試合は0-2で終了。ピッチ上にはよく2失点で済んだと思えるほどの差があった。
もっとも、「耐えて勝つ」、「粘り強く守ってスキを突く」をテーマに掲げる手倉森誠監督にとって、多くの時間帯で守勢に回った試合展開は想定内だったに違いない。
興梠慎三(浦和レッズ)を生かした攻撃バリエーションや守備ブロック、前線からのプレッシングの使い分けなど、確認したいことは試せてもらえなかったが、日本にとって今はコンディションを高めている時期。ここにピークを持ってくる必要は全くない。
それより、ブラジルが本気とは言えないまでもそれなりに力を発揮してくれたことをポジティブに捉える向きが大きい。キャプテンの遠藤航(浦和レッズ)が「今日、ブラジルとやれて、一人ひとりの判断が磨かれたと思う」と振り返ったように、ホスト国の雰囲気や世界のレベルを肌で感じられたことが一番の収穫だ。「このレベルのチームは五輪にもそうはいないと思う」と室屋成(FC東京)が言えば、井手口陽介(ガンバ大阪)は「五輪前に優勝候補のレベルを知れたので、初戦で緊張することはないと思う」と前を向く。先発からベストメンバーを起用してきてくれたブラジルに感謝するしかない。
「個人個人の成長というのはこの短い期間では望めない」と手倉森監督が語ったように、技術面やフィジカル面が本大会開幕までに劇的に向上することはないが、意識の部分は改善できる。ウォーターブレイクの直後にゴールを奪ったブラジルのしたたかさは学ぶべきものだし、寄せの甘さやボール奪取後の動き出しの遅さ、パススピードの弱さなどは、このブラジル戦を糧にまだまだ改善していけるだろう。
もう一つ、この試合の大きな収穫を挙げるとすれば、ブラジルが日本の「本番モード」のスイッチを明確に押してくれたことだ。
22日のブラジル入りからの8日間は、コンディション調整やオーバーエイジとの融合が大きな目的だった。リラックスしたムードの中で戦術確認が行われ、オーバーエイジ組を歓迎する親睦会も開催された。本番モードに入りにくい状況だったし、そこへ持っていく必要もなかった。
ブラジル戦前日も、どちらかと言えばリラックスした雰囲気で「楽しみです」と対戦を心待ちにする選手ばかりだった。
ところがブラジル戦を終えた今、リラックスした雰囲気は一気に吹き飛び、前日までの笑顔は、すっかり消え失せていた。ブラジルが、日本を“本番モード“に導いてくれたのだ。
振り返ってみれば、今年1月のアジア最終予選を勝ち抜いた要因には「危機感」や「リバウンドメンタリティ」があった。
昨年8月以降、毎月一度のペースで重ねてきたJクラブとの練習試合では、ロースコアの引き分けや敗戦を繰り返した。さらに12月のカタール・UAE遠征で1点も奪えなかったことでリオ五輪出場を不安視する声が高まった。急速に高まる危機感や「やってやる」というリバウンドメンタリティがチームの一体感を高め、勝負強いチームへと変貌させていったわけだ。
もしブラジルがメンバーを落とし、後半のようなテンションで試合に臨んできたら、果たしてどうなっていただろうか。
試合後のミックスゾーンで「互角に戦えた」とか「やれる自信がついた」と言った言葉が日本の選手から聞かれていたら、初戦までのマネジメントは案外、難しかったかもしれない。手倉森監督が改めて言う。
「まずは今日の悔しさから、どうするかというところにトライして、グループ、組織の精度を高め合おうと。そういう意識が高まらなければいけないなと思います。日本の良さは組織としてできるところ。それを信じてやり続けるしかない」
チームはブラジル戦後にナイジェリアとの決戦の地、マナウスへ飛んだ。翌日はブラジル入りしてから初のオフとなり、2日後からトレーニングが再開される。シュート練習、戦術トレーニング、紅白戦、どれを取っても、選手たちは目の色を変えて「本番モード」で取り組んでいるはずだ。
文=飯尾篤史