2015.10.07

香川の本領は“攻撃のスイッチ”にあり…シリア戦のカギを握るアクションとは

香川真司
ゴールは10番の宿命。だが、シリア戦での役割りはまず攻撃のスイッチになることだ [写真]=Getty Images
サッカージャーナリスト。プレー分析を中心に、海外サッカーから日本代表までカバー。

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「今年、最も大事な試合」と位置づけるシリア戦が、日本時間10月8日22時よりオマーンのマスカットで行われる。この試合で最大のキーマンになると考えるのが、ドルトムントで活躍する香川真司だ。もともと攻撃の中心選手ではあるが、これまでアジア2次予選で対戦した3カ国より実力の接近した戦いが予想されるゲームにおいて、高い位置でチャンスを作り、ゴールに結び付けられるかは彼の活躍にかかっていると言っていい。

 現在トーマス・トゥヘル新監督が率いるドルトムントで攻撃の中心として活躍する香川は、ここ数試合の日本代表でチームが波に乗り切れない中でも確かな存在感を示し、勝利に貢献している。9月3日のカンボジア戦は1得点を決めながらゴール前の簡単なシュートを外して正直に反省の言葉を発したが、同8日にイランで行われたアフガニスタン戦では鮮やかな2ゴールを決めて6-0の大勝に貢献し、世間の雑音を封印した。

 2008年に初めてA代表に選出された香川について、当時の岡田武史監督は「攻撃のスイッチになれる選手」と評価していた。2010年の南アフリカワールドカップは惜しくも選外となり、トレーニングパートナーとして代表チームに帯同したが、ドイツのドルトムントに移籍して迎えた2011年1月には、中村俊輔の代表引退から空き番号となっていた10番を引き継いだ。

 そこから日本代表の中心的な存在として期待が高まっていったが、本人にとっても大きな目標であったブラジルW杯でも輝きを放つことができず、チームはグループリーグ敗退。そこから2014-15シーズンは当時所属していたマンチェスター・Uで不遇の時を過ごし、冬に古巣ドルトムントへ復帰してからも本来の姿を取り戻せずにいたが、今シーズンは開幕戦から安定したハイパフォーマンスを披露している。

 では、その理由はどこにあるのだろうか。

 現在の香川が最も優れている点は、持ち前のテクニックとセンスを周囲の動きにシンクロできていることだ。ボールタッチのフィーリングが良いこともあり、速い流れの中でもボールを正確に扱いながら敵と味方の状況を把握して効果的なプレーを選択できているように見える。事実、昨シーズンにはあまり見られなかった狭いエリアで受けるシーンも増えており、難しいシーンでのミスもほとんど見られない。

 良さが見られない時の香川は高い位置で相手ディフェンスに吸収されてしまうか、逆に下がりすぎてボランチのようにボールをさばく役割がメインになり、むしろ攻撃リズムを停滞させてしまいがちだ。トップ下の選手が広いスペースを探して移動しすぎると、周りのスペースが消えてしまう。しかし、現在はまず起点となるプレーを意識しながら、周囲に広めのスペースがあっても味方がそこを狙っていれば中央の狭いエリアに止まり、ボールを引き出してシンプルにつなぎ、味方にスペースを使わせる働きを心掛けている様子だ。

 今シーズンのドルトムントは香川、マルコ・ロイス、ヘンリク・ムヒタリアン、ピエール・エメリク・オーバメヤンのカルテットを擁している。彼らは地元メディアから“ファンタスティック4”とも称されるほどで、攻撃陣のタレント力が組織として連動し、相手の対応を困難なものにしている。そのリンクマンとして重要な役割を担うのが香川で、ゴール前で決定的なプレーに絡むシーンも増えているように、起点のところで周りの動きをうまく生かす流れから発生している、言わば周囲との相乗効果がドルトムント攻撃陣を支えている。

 また守備では高い位置から“ゲーゲンプレス”を行い、味方がボールを奪った瞬間に攻撃に切り替える部分をチームの一員としてハイレベルにこなせていることで、速攻でチャンスに絡むシーンの増加に直結している。監督がトゥヘルに代わったことで、ユルゲン・クロップ時代よりもカウンターとポゼッションの使い分けが明確になっているため、心肺に掛かる負担が減っているのは確かだが、良いコンディションを持続できていることが多くの時間で消えない状況につながっているのだろう。

 思い起こせば2014年のブラジルW杯を前にしたキプロス戦で走行距離が8.79キロだったことに関して、香川が直前のフロリダ合宿で行われた囲み取材で「体のキレがまだまだだったし、もっと走っているイメージだった」と話していた。その時は直前に鹿児島合宿でかなり体力的な負荷をかけていたこともあるが、絶好調時の姿に戻ることなく本大会を終えたことは苦い経験だ。

 運動量に関してはドルトムントに復帰した昨シーズンの後半戦から上昇傾向にあり、1得点1アシストを決めた3月のハノーファー戦では12.24キロというチームトップの走行距離を記録している。今シーズンはさらにフィーリングやチームの機能性、役割の明確化など実力を発揮しやすい環境が整ったとも言える。個人としての状態は良好。あとは日本代表でどう機能していけるかだ。

「ここ3試合はチームとして勝ち切れてないですし、僕個人として結果にもプレー内容にも納得は行ってないので、改めて気を引き締めて、また代表でしっかりと勝ち切ってクラブに戻りたい。本当にまたしっかりここを乗り越えないといけない」

 ドルトムントと日本代表では細かな戦術や攻撃陣の組み合わせなどが異なるが、高い位置からボールを奪いに行き、速いグラウンダーのパスで縦を狙っていく基本的な志向は似ている。今回のシリア戦を控え、ハリルホジッチ監督は日本の目指すスタイルについてこう説明する。

「できるだけグラウンダーの背後へのパスで仕留めて行こうと話している。そして走り込んで3人目、4人目を使う。(その中で)いろんなバリエーションを作り、グラウンダーのスピードを伴ったプレーで作りたい」

 だが、現状はそうしたプレーがチームとしてしっかり実現できているとは言いがたい。攻撃陣の一翼を担う本田圭佑も「監督が全部、種明かしをしていない部分はあるかもしれないですけど、目先で選手に求めているものでさえも、我々がこなしきれていないぐらい要求が高い」と説明しているが、その方向性をレベルアップさせるキーマンの一人が香川であることは間違いない。

 ここまで対戦した3チームは日本がほとんど相手陣内で攻めていたが、シリアは堅守速攻をベースとしながらも、中盤からの正確なパスと攻撃陣の推進力が明らかに違うレベルにある。その分、中盤で攻守の切り替わりが発生しやすく、指揮官が志向するサッカーを実現しやすい相手とも言える。

 守備から攻撃に切り替わった時にトップ下の香川に求められるのは、ボール奪取直後にパスを引き出し、周りのアクションをうまく活用すること。そこでチャンスがあればアフガニスタン戦で決めた先制点のように積極的なミドルシュートを狙ってもいいが、基本的な役割は攻撃のスイッチとなることだ。これまでの相手よりも中盤は厳しさが増すが、そこを打開できればゴール前にフリースペースを生みやすくなる。そのカギを握るのが香川のアクションなのだ。

「(日本代表には)前線のサイドのアタッカー、スピードある選手、ドリブルできる選手が多いですから、そういう選手をうまく生かして、自分もリズムに乗っかっていければ。そこの役割、ポジショニングや味方同士の意思疎通がしっかりできれば、お互いが生かし合いながらやれれば、必ずいいイメージで相手を崩せると思っている」

 香川の評価には常にゴールという結果がついて回り、彼にとってもプレッシャーになってきた部分もある。それは10番の宿命とも言えるが、本質的な役割はまず攻撃のスイッチになることだ。当時から経験を積み、周りも見えるようになった香川が現在のチームの中でどう周囲を生かし、崩しのスイッチを入れられるのか。そうした流れからゴールやアシストのチャンスが生まれた時にしっかり決め切ることも評価につながるが、起点のところでどれだけ機能できるかを基準に見ていけば、攻撃の中心を担うべき香川の本質が見えてくる。彼が自らの本領を発揮できた時、日本代表は間違いなく勝利に近づいているはずだ。

文=河治良幸

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