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東アジアカップに見る3つの「YES」と1つの「NO」…選手に求められる世界標準とは

2015.08.11

東アジアカップを戦った日本代表 [写真]=ChinaFotoPress via Getty Images

文=青山知雄

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が大会前に掲げた目標は達成できたのか。

 その答えは「YES」であり、「NO」でもある。だが、どちらか一択を求められるのであれば、大会を通じて選手や関係者の声を拾ってきた立場から、間違いなく「YES」を選択する。

 7月23日にEAFF東アジアカップ2015に臨む日本代表メンバーを発表した際、指揮官は今大会の目標を明らかにしていた。一つは大会制覇、そしてもう一つが9月から再開するワールドカップ アジア2次予選に向けての新戦力発掘だった。

 同会見で「メンタルが見たい」とも説明していたハリルホジッチ監督は、年内にイラン、オマーン、イラン、シンガポール、カンボジアと海外での試合が続くことを念頭に、最終予選を含めた厳しい条件下で戦える選手を発掘し、代表チームの底上げを図る腹づもりだったのだろう。テストとタイトルの両立を問われて「もちろんタイトルを持って帰りたい」と語っていたが、同じ席で「できればタイトルも」と口にしていた事実もある。国内組限定で臨んだとはいえ公式戦だけに勝利にこだわってほしかった部分もあるが、チームは7月29日のJ1リーグを終えて30日に訪中し、8月2日から大会が開幕するという過密日程に悩まされた。戦術練習や紅白戦といった準備をできない状況で即席チームに無理やりタイトル獲得を優先させるより、テストやコンセプト共有、そして選手の見極めを進めたかったのは理解できる。指揮官が記者会見で何度もコメントしてファンや報道陣に理解を求めたのはこの部分だった。

 まず目標に関する「NO」は、このタイトル獲得という結果についてだ。

 2分け1敗で大会最下位という成績は、いろいろな困難があったことを差し引いても物足りない。選手同士はJリーグで対戦したことがあるとはいえ、同じチームでプレーし、さらに監督が求めるサッカーを形するには時間がなさすぎた。ただ、監督の戦術や選手の対応力の低さを指摘する声もあるが、朝鮮民主主義人民共和国代表との初戦で逆転負けを喫して以降、韓国代表戦では選手の判断も手伝って守備を立て直し、中国代表との最終戦では攻守に臨機応変さを表現するなど、選手たちはできる限りのプレーを見せたと言っていい。槙野智章浦和レッズ)と森重真人FC東京)を中心にコミュニケーションを取り、3試合目でしっかりチームとして機能していたことを考えれば、もう数日間の準備で成績は大きく変わっていたはず。監督も中国戦後に「あと3日あれば優勝できた」と話していたおり、選手たちが見せた対応力は評価したいと思う。

 この背景にはJリーグと大会のカレンダーに難しさがあるだけに今後の検討課題とすべきだろう。なお、これに関して霜田正浩技術委員長に聞いたところ、「そこは僕たちの仕事。これからJリーグともしっかりコミュニケーションを取っていく」と明らかにしている。中には「どうして今までやってこなかったのか」という意見もあるだろうが、監督が声高に過密日程への異議を唱えることが問題提起になってJリーグとの連係が進めば、今後に向けてのプラス材料になる。今さら感はありながら、「NO」とした部分の中にもポジティブな要素はあったと考えている。

 重要なのは「YES」の部分だ。実は今回、大会で結果を出せなかった一方で、プラス材料は非常に多かったと見ている。

 最初のポイントは新戦力発掘の部分だ。監督はアウェイの地で戦えるかどうか、そして海外組を含めた日本代表チームに入ってこられるかの見極めを目指し、一定の収穫を得たのは間違いない。中国戦後の記者会見でも「真の日本代表に入れる人材は何人か見つかった。何人かはまだ努力が必要だ」と話していた。

 その中で今回、指揮官のお眼鏡にかなったと見られる選手が数人いる。その一番手が、U-22日本代表キャプテンの遠藤航湘南ベルマーレ)だろう。

 初戦、2戦目は「経験がない」と話していた右サイドバックで起用され、朝鮮民主主義人民共和国代表との初戦ではオーバーラップからの右クロスで武藤雄樹浦和レッズ)の先制点をアシスト。所属の湘南では3バックの右ストッパーとして守備に安定感をもたらし、果敢な攻撃参加でチームにアクセントを加えているが、その持ち味を存分に発揮した形だ。また、最終戦はU-22日本代表と同じボランチに入り、バランスを取りながら的確な寄せとボールさばきを見せている。球際の強さや粘り強い守備、素早い攻守の切り替えは、まさにハリルホジッチ監督が求めていたもの。そして彼がJリーグで体現していたプレーでもある。複数ポジションで3試合にフル出場して指揮官の期待に応えた点で、今大会最大の発見と言っていい。現在、日本代表の右サイドバックでは内田篤人(シャルケ/ドイツ)が負傷離脱しており、酒井高徳(ハンブルガーSV/ドイツ)と酒井宏樹(ハノーファー/ドイツ)と比較しても安定感に長ける部分があっただけに、一気にレギュラー争いに加わってきてもおかしくはない。

 その他にもトップ下を中心に攻撃面で万能性を披露して2ゴールで大会得点王になった武藤、複数の攻撃的ポジションで巧みなテクニックを見せた倉田秋ガンバ大阪)、ボランチで的確な潰しと正確なキックを見せた藤田直之サガン鳥栖)は自分の持ち味を出せていた。彼らのポジションは日本代表でも最激戦区であり、スペシャルな部分を身につける必要はあるが、選手層の底上げと競争という部分を考えれば今後の招集も十分にあり得るだろう。

 また、中国代表との3戦目に突然、左サイドバックで起用されながら、フィジカルとメンタルの強さ、攻撃センスを披露した米倉恒貴ガンバ大阪)は極めてポジティブな発見だった。右サイドバックが本職だが、左右での起用にメドが立ったように思われる。自身も「攻撃で違いを見せたかった」と話し、武藤のゴールをアシストしたことで攻撃性が強調されがちだが、ディフェンスでの球際の厳しさと粘り強さを見せていた。本人も「一対一の強さは自分のウリでもあるので」と守備面の手応えを話しており、当初から活躍が期待された遠藤に対して、今大会一番のサプライズだったと言えるかもしれない。

 そしてボランチとして3試合にフル出場し、ダイナモのごとく別格の動きを見せた山口蛍セレッソ大阪)は改めてレギュラー争いに名乗りを上げた。J2所属ということもあり大会開幕がリーグ戦から一週間空いたことが後押ししたかもしれないが、初戦でチームメートがスタミナ切れを起こしてペースダウンする中で終盤まで運動量を落とすことなくプレー。初戦後には「僕個人としては最後でも前から行ける体力はありましたけど、周りとの兼ね合いもあるし、一人だけで行ってもというところもあるから」と周りに合わせたことを示唆するほどで、3試合すべてで攻守に高いパフォーマンスを披露。守備面だけでなく攻撃のリズムを変えるダイレクトパスや縦パスを狙い、韓国戦では強烈なミドルシュートを突き刺すなど指揮官の要求にしっかりと応えていた。これまでの招集メンバーからも収穫があったのは、指揮官としてもうれしいところだろう。

 大会後に「何人かは努力が必要」としたハリルホジッチ監督だが、本音では選手個々とJリーグ全体のレベルアップを求めていると見ている。大会前に「メンタルを見たい」と語った指揮官は、今大会を通じて選手たちに「世界と戦えるフィジカルを」と要求していた。そこに彼の本心が見え隠れする。この思いを国内組の選手たちに強調できたことが、2つ目のポジティブな要素だ。

 厳しい状況下でしっかりとメンタルを出し切るには、相応のフィジカルが必要となる。当然ながらスタミナが切れれば集中力は続かず、スピードがなければ相手のカウンターには対応できない。パワーとテクニックが不足していれば、球際で強さと巧さを発揮することはできない。その上で戦えるかどうか、アウェイで自分のプレーを最大限発揮できるかどうかを見ていかなければならない。山口は初戦の逆転負けに関して、「監督も『フィジカルで足りていない選手がいる』と言っていたし、そこは単にフィジカルが足りていないだけなのかもしれない。個人的にはそこまで(ペースを)飛ばした印象は持っていない」と求めるハードルを下げてしまったことを明かしていた。

 だが、それでは日本代表は強くはならない。ハリルホジッチ監督が今回の合宿で何度も何度も世界を意識した話を選手たちにしている。あくまで目指すべきは世界。指揮官が選手に求めるものは、海外組でも国内組でも変わらない。それが彼の求める「メンタルの強さ」につながる。

 藤田は「A代表として戦っていくなら、体格やフィジカル、運動量といった一つひとつのところで、すべてをレベルアップさせなければいけないと言われた。Jリーグで戦うぶんには今のままで問題ないが、その上を目指すなら絶対に必要になってくる」と明かしている。藤田は圧倒的なスタミナで激しいプレスを仕掛ける鳥栖のサッカーを経験しているが、「自分もそこの強さが武器で、負けないように意識していましたけど、韓国戦でも球際で勝てないところがあった」と話し、「もっと勝つ可能性を上げていくためにもフィジカル面をもっと強化しなければいけないし、スプリントする回数を増やしていかないと。すべての面で成長が必要だと思った。あとは僕たちの受け取り方次第なので、そこは真摯に受け止めて、少しでも向上しようと思えますし、すごくいい刺激になっています」と意識の変化を語っている。その他にも遠藤や武藤を始め、多くの選手がフィジカル強化が必要であることに触れていた。

「世界と戦うために必要なものを伝え、選手たちの心に火をつける」

 こう考えたハリルホジッチ監督は、今回も選手個別の強化プランを伝えたという。所属クラブに戻ってからも彼らが意識高くトレーニングに臨むことで、そのチームへの波及効果も期待できる。それが日本サッカー全体、そしてJリーグの底上げにつながるはず。これが3つ目のポジティブな要素だ。

 浦和は槙野や西川周作が代表チームで手にしたものを仲間にフィードバックしていった。すなわち個人戦術を含めた個々のレベルアップにチーム全体で取り組めたわけだ。浦和でキャプテンを務める阿部勇樹も両者からの話で刺激を受けていることを明かしている。それが浦和の1stステージ無敗優勝を勢いづけた一因でもあったわけだ。

 今大会は参加4カ国とも国内組中心のメンバー(韓国代表はJリーグ組含む)で臨み、日本代表は最下位に終わっている。準備期間の短さは理解しつつも、Jリーグ、Kリーグ、中国スーパーリーグの戦いに敗れたという見方もできる。日本代表の進化にはJリーグの発展が間違いなく必要。そのためには選手個々のレベルアップが不可欠だ。日々の練習から世界を意識したトレーニングに励むことで自分自身も、そしてチームも上を見据えることができる。そうしなければ何も始まらない。東アジアカップは悔しい結果に終わってしまったが、その一方で新戦力発掘と選手たち意識向上において、今後に期待の持てる大会になったと見ている。この悔しさをバネに選手が奮起し、日本サッカー全体が前へ進むことを期待している。

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