ベンチには手倉森コーチではなく霜田技術委員長の姿があった [写真]=兼子愼一郎
文=戸塚啓
5年後、10年後に、武漢(中国)を舞台とした東アジアカップを思い起こすとしたら。
不慣れなトップ下で起用されながら、武藤は2戦2発の結果を残した。ボールを引き出す動きと仕掛ける姿勢で、香川真司とは違うトップ像を印象付けた。
右サイドバックを2試合、ボランチを1試合任された遠藤は、ポリバレントな能力をアピールした。所属する湘南ベルマーレでは3バックの右サイドを定位置としているだけに、クラブとは違うポジションで起用されるのは想定内だったはずである。それでも、ほとんどの経験のない右サイドバックをそつなくこなしたのは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督にも発見だったに違いない。
改めてポテンシャルを示した選手もいる。山口蛍だ。
ボールホルダーへの素早いアプローチと球際の強さは、すでに証明済みだ。それに加えて今回は、最前線への飛び出しで攻撃面でも貢献した。パスの受け手としてフィニッシャーになり、韓国戦では価値ある同点弾も決めている。
数年後の自分が記憶の引き出しから取り出す好材料は、残念ながらこれだけである。史上初の最下位に終わり、史上初の勝利なしに終わった3試合に、明るい材料を見つけるのは難しい。
これまで見たことのないシーンとして記憶されるのは、日本代表のベンチ入りだ。6月のワールドカップ予選に続いて、今回の東アジアカップでも霜田正浩技術委員長は試合のベンチに入った。
日本サッカー協会の技術委員会は、代表監督を選び、その仕事を評価する立場にある。技術委員会のトップに立つ委員長が、あたかもコーチングスタッフのようにベンチに入っている。違和感を覚えるのは当然だ。評価する立場の人間と評価される立場の人間が、一緒に仕事をしているのだから。
その代わりに、手倉森誠コーチがベンチ入りしなくなっている。これもまた違和感の原因だ。日本代表のスタッフに日本人のコーチを加えるのは、外国人監督がいつか日本を去るからだ。ハリルホジッチ監督のチーム作りを間近で感じ、日本サッカー界の財産とするために、手倉森コーチがいる。
試合中の監督にできることは少ないとしても、ベンチに居れば感じ取れることはあるはずだ。ましてや手倉森コーチは、U-22日本代表の監督でもある。来年1月開催のリオ五輪アジア最終予選へ向けて、ハリルホジッチ監督から受ける刺激は少なくはいはずで、公式戦の緊張感をともに味わえないのはいかにも残念である。
技術委員長がベンチにいることに対して、選手にも戸惑いがあるのではないだろうか。実際にそのような声も、うっすらと聞こえてくる。代表監督の任命責任があるとしても、適切な距離は保ったほうがいい。
それにしても、今大会の収穫は何だったのだろう。
新戦力のテストはままならず、結果もついてこなかった。ところが、ハリルホジッチ監督はテクニカルエリアで足掻くばかりだった。準備期間が短いのは誰もが承知だが、だからといって時間の無さですべてを片付けていいはずはない。同じような状況下で、結果を残した監督もいるのだ。少なくとも1勝はあげているのだ。
2015年の東アジアカップを、5年後、10年後に思い出すことができるだろうか。特定の選手のプレーではなく、このチームがどのようなサッカーをしたのかを。
僕には自信がない。ハリルホジッチ監督は何を求めたのかが、最後まで見えてこなかった。
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