本大会での活躍に期待がかかる日本代表MF本田圭佑 [写真]=Getty Images
ブラジル・ワールドカップ開幕を直前に控え、本田圭佑の一挙手一投足への注目度が増している。
日本代表の初戦である14日のコートジボワール代表戦まで、約1週間。6日に行われたザンビア代表戦で、本番前のテストマッチを全て消化したが、コンディションが上がり切っていないことが最大の要因となっている。5月24日の代表合流後、3試合のテストマッチをこなしたが、簡単にボールを失うシーンが目立つなどらしくないプレーが続いたこともあり、不振ぶりを伝える報道が日を追うごとに増えていった。
とはいえ、2日のコスタリカ代表戦では、遠藤保仁の同点ゴールをアシストし、ザンビア戦では2ゴールを挙げて勝利に貢献し、1試合ごとに調子が上がっていることは事実である。初戦までテストマッチこそ残していないが、1週間あればまだまだコンディションを上向きにできるだろう。
加えて、さらに時間は残されているとも考えることができる。
初戦までは1週間を切ったが、決勝トーナメント1回戦までは約3週間。前回のベスト16を越えて準々決勝まで駒を進めれば約4週間の猶予があり、本田が狙うワールドカップ優勝のかかる決勝は、1カ月以上先となっている。
何を悠長なことを言っているのかと突っ込まれそうだが、優勝を狙う国々がピーキングを大会後半に持ってくることはよく言われていることでもある。本田自身は合同取材の際、「チームとして初戦に100パーセントで迎えるのはなかなか難しいこと。もちろん理想はそれに近い形で臨みたい」と語っていたという以上、意図的にピーキングを遅らせているとは考えにくいが、チームメートと幾分かコンディションでギャップがあることは事実である。
全選手がトップフォームでない状態で勝ち抜けるほど、ワールドカップのグループリーグは甘くないはずだ。それでも、チーム全体で本田のコンディションが戻ってくるまで粘れれば、次は本田にチームを救う順番が回ってくるのではないか。
イメージを重ねるとすれば、20年前。今大会でも想定される酷暑の真っ只中で行われた、アメリカ大会のロベルト・バッジョになる。
当時のバッジョは大会前の負傷でトップフォームではなく、グループリーグでは無得点。グループ2試合目のノルウェー代表戦では、GKの退場処分による控え投入の際、途中交代を命じられるほどだった。エースの不振に合わせるかのように、イタリア代表も1勝1分け1敗のグループ3位となったが、出場国が24カ国当時の規定により、辛くもベスト16を決める低空飛行ぶりだった。
ところが、試合終了間際まで1点ビハインドを負っていた決勝トーナメント1回戦のナイジェリア代表戦で、土壇場での同点弾と延長戦での決勝ゴールを記録。準々決勝のスペイン代表戦でも再び終了間際のゴールで決勝点を挙げると、ブルガリア代表との準決勝でも、2ゴールを叩き出し、一気にイタリアをファイナリストまで押し上げた活躍を見せていた。
時代も異なる上に伝統国との比較はナンセンスと感じる向きもあるだろうが、ワールドカップ前に好調のストライカーが現れると、すぐさま1990年のイタリア・ワールドカップで控えの立場から一気に得点王まで上り詰めた、イタリアのサルヴァトーレ・スキラッチになぞられることを思えば、どんなイメージを重ね合わせることもアリではないか。
もちろん、そこまで順調にことが進むとも思いにくいのは事実だ。合同取材が行われる時に本田が姿を現すと、大勢の記者とカメラマンが本田に合わせて大移動をはじめる。チームに降りかかるプレッシャーを受け止めている大きな傘のような役割を担っている以上、相当なストレスの蓄積も容易に想像できる。
自身のコンディショニングだけに集中できる状態ではない。ただ、そんなときこその仲間なのだろう。
本田とともに、ワールドカップ優勝を狙っていることを公言している長友佑都は、「圭佑ですか? まったく心配していないですよ。みなさんもご存知のように、彼は“持っている”ので」と全幅の信頼を寄せる。ともに中盤を構成する香川真司も、本田のコンディションを問われると、「もっと上がってくると思いますし、得点は取れていないですけど、動きの感覚と攻撃の感覚はよくなっていると思っているので、全く問題ないと思いますけどね」と、意に介さない様子で答えている。
外からでも感じ取れるほどの信頼関係があれば、本田が苦境に陥れば仲間が助けるだろうし、仲間が窮地に追い詰められれば、本田が打開を図っていくはずだ。
そして、指揮官との絆も垣間見える。本田に関する質問が飛ぶ度にアルベルト・ザッケローニ監督は本田への信頼を語り、コスタリカ戦の前日会見では、「本田の特長や彼の能力はよくわかっている。本田も監督から何を期待されているのか、どんな仕事をしてほしいのかということはよくわかってくれていると思うので、本番にしっかりと合わせられると思っている」とまで口にしている。加えて、日本サッカー協会の公式HPで連載されている手記では、「(選手に対する)余分なプレッシャーは監督の私がほどくつもり」と記している。いざとなれば、大きな傘の役割も背負ってくれるはずだ。アメリカ大会でイタリアを率いたアリゴ・サッキとザックは、ともにプロ選手としての経験がない共通点はあるが、エースへの信頼感では少し異なるものを抱いているようだ。
本田はザンビア戦終了直後のミックスゾーンで、自身の現状を不安視する声について問われると、「それを言っている人は、僕に何を求めているかということがすごく高いんでしょうから、そういう人には大会が終わってまた感謝したいなと思う。逆にこれでよしとしている人には、本田圭佑はこれ以上もっといいパフォーマンス出せるよというところは見せていきたい。どちらに対しても、いい意味でサプライズを起こせるといいと思います」と口を開いたという。
救世主の活躍とともに、不死鳥のように蘇ったアメリカにおけるアズーリの旅路は、両手を腰に当て、俯くバッジョの後ろ姿とともに終着を迎えた。
1週間後、王国で日本の5度目の挑戦がいよいよ始まる。日本の行く末が世界を驚愕させることが願われる。バッジョをも届かなかった、黄金に輝くトロフィーを抱くところまでに通ずる旅路であることを。
文=小谷紘友
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