広島MF川村拓夢 [写真]=J.LEAGUE
サンフレッチェ広島はバルトシュ・ガウル新体制となり、明治安田J1百年構想リーグでWESTで4位、最終順位は7位。新体制でロケットスタートとは行かなかったが、尻上がりに勝率を引き上げ、チーム完成度を高めることができた。
今夏はジャーメイン良、木下康介、中村草太というアタッカー陣が移籍し、浅野拓磨、セバスティアン・アレーといったビッグネームが加入した。浅野は7月末にケガで離脱を余儀なくされたが、アレーは着実に日本への適応を進めており、前向きな機運の中、2026/27シーズンに突入した。そのスタートとなった開幕節のジェフユナイテッド千葉戦。広島は中野就斗、鈴木章斗が立て続けにゴールし、2点をリードして迎えた88分、古巣に復帰したばかりの川村拓夢が3点目を叩き出し、エディオンピースウイング広島の大観衆を歓喜の渦に巻き込んだのだ。
「このゴールで2年間の苦しさがすごく晴れた気がしました。ケガを繰り返した中で、このクラブがもう一度プレーする機会を与えてくださったので、結果で応えたいなと思っています」と川村は育ててくれた広島での完全復活、恩返しを誓ったのである。
ご存じの通り、川村がザルツブルクへ完全移籍したのは2024年6月。同年1月のタイ代表戦で日本代表デビューを飾り、6月のミャンマー・シリアとの2連戦でも出場機会を得た時期で「欧州移籍で大きく飛躍し、日本代表定着も果たすだろう」という期待も大きかった。ところが、直後に左ひざ内側じん帯断裂の重傷を負い、いきなりの長期離脱を強いられた。翌2025年に復帰したが、今度は2月に右鎖骨を骨折。さらには6月のFIFAクラブワールドカップの期間中にひざの負傷が再発となり、結局2シーズンでリーグ戦4試合しか出場できないまま、欧州を離れる決断を下したのである。
「向こうへ行ってみて、全てのスピードが速かった。全てが2倍速で動いている感覚でした。判断もそうだし、シンプルなアスリート能力も違いました。その中で通じる場面も多かったので、正直もっともっとやりたかったし、自分がどうなるか見たかったのが本音ですけど、ケガも実力のうち。今は再び広島でプレーできることの喜びを噛みしめてやっています。素晴らしいスタジアム、観客の声援を聞きながら戦えるのは本当に素晴らしい仕事だと思います」
こう力を込める川村が、いい意味で割り切って前向きなマインドでJリーグでリスタートを切ったところだ。そうやってハキハキとした物言いができるようになったのは、2年前との大きな違いと言っていい。
「僕、人間的なところはすごく変わったと言われているんです。よく喋るようになりましたし(笑)。自分は若くないし、若い選手がたくさん出てきたので、そういう選手がピッチで100%を出せるようにサポートしたいなと。そこは海外ですごく学んだことですね。実際、ザルツブルクでは上から2番目くらいだったので」と本人も笑顔をのぞかせたが、自分から積極的に発信しようという姿勢はシャイだった以前とは明らかに異なる部分だ。ザルツブルクで北野颯太、チェイス・アンリといった日本人の後輩たちと共闘したことも、統率力を養ういいきっかけになったのかもしれない。
復帰した広島でも、中島洋太朗ら若い選手たちを伸び伸びとプレーさせたいという気持ちが強いようだ。第2節の浦和レッズ戦でも川村はベンチスタートで、62分から出場。ポジションも左シャドーで、本職のボランチではなかったが「前節、前田(直輝)選手がケガをして、浅野選手もいないですし、僕はどこでも試合に出られればいいので。中島選手のようないい選手もいます」とチームを第一に考えている。「サンフレッチェでタイトルを取ることを目標に頑張っていきます」とも強調しており、自分はチームの駒として貢献できればいいという謙虚さを強く押し出しているのだ。
「僕が海外に行くと決めたのは、ゆくゆくは広島でタイトルを取れる選手になりたいというのが一番だった。そこの目的はずっと変わらなかった。この2年間はプレーできなかったですけど、自分自身も成長したところはあると思いますし、チームの基準を上げていけるようにやっていきたいです」
川村は広島をより強い集団へと引き上げようと今、躍起になっている。同じように海外から戻ってきた浅野、塩谷司、川辺駿といった先輩もいるし、アレーのような百戦錬磨のFWもいる。そういった経験豊富な面々と力を合わせながら、川村らしさを取り戻していけば、広島の2015年以来のJ1制覇はもちろんのこと、日本代表復帰も十分にあり得るはずだ。
「代表? 考えていないですね。もしそういう機会があれば嬉しいですけど、今はクラブで頑張りたいです」と背番号8は地に足を着けて一歩一歩前進していこうとしている。常人に想像できないほどの苦労をした分、その真摯な思いが最高の形で結実することを心から祈りたいものである。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子

