広島DFキム・ジュソン [写真]=J.LEAGUE
紫のユニフォームを掲げて、示した背番号37。キム・ジュソンが叫んだ。
サンフレッチェ広島は4日、明治安田J1リーグ第33節でFC町田ゼルビアをホームのエディオンピースウイング広島に迎えた。勝ち点55で並ぶ6位の広島と5位の町田による上位対決。優勝争いの生き残りがかかった大一番を迎えた。
「絶対に勝ち点3を取らないといけない試合」と気合いが入っていたキム・ジュソンは、「町田は空中戦が強く、とても速い選手が多いイメージだったので、それを止められるようにしっかり準備をして試合に入りました」と立ち上がりからハードに戦った。
3バックの左に入ったレフティーは、開始直後に相手のパスを渾身のスライディングでカット。いきなり熱いプレーを見せたかと思えば、24分には相手のロングボールを冷静に技ありの胸トラップで収め、35分には日本代表DF望月ヘンリー海輝との激しいバトルでボールを奪い切り、ホームサポーターを沸かせた。
広島はスコアレスで前半を折り返したが、後半の立ち上がりに痛恨の失点。その後は1点を追いかけて攻め続けたが、無情にも時間だけが過ぎていった。それでも、終了間際の88分、右CKでMF菅大輝が左足でクロスを入れると、ボール前でMFトルガイ・アルスランのサポートを受けたキムが打点の高いヘディングシュートを叩き込んだ。
「菅選手のクロスも良かったですし、トルガイ選手もしっかりブロックしてくれてフリーの状況を作ってくれました」と振り返り、「ボールが良かったので、もう合わせるだけで、それが運良くゴールに入ったのですごくうれしいです」と加入後初ゴールを喜んだ。
得点後は激情に駆られてユニフォームを脱ぎ、紫に染まる南スタンドの前に走って、名乗りを上げるように背番号37を掲げて叫んだ。
2カ月前の8月1日、FCソウルから完全移籍した韓国代表DFは記者会見で「初めての海外挑戦なので、チームの助けになれるよう頑張ります」と意気込み、Jリーグ屈指の3バックとの競争に向けて、「素晴らしい選手たちと一緒にプレーできることは光栄ですし、自分自身がさらに一段階アップグレードできるチャンスだと考えています。3人のレジェンドから学んで、広島の未来を作っていきたいです」と期待を込めていた。
加入当初こそ控えだったが、189センチのセンターバックは対人の強さや足下の技術を活かし、持ち前の闘志あふれるプレーを発揮。すでに3バックの一角に割って入る活躍を見せている。ただ、デビュー戦だった8月20日のヴィッセル神戸戦はオウンゴールに絡み、4試合目出場だった8月31日のセレッソ大阪戦ではPKを献上。日本で思うようなスタートを切れず、もどかしい思いを抱いていた中で、大一番での貴重な同点ゴールを決めた。
「デビューしてから、PKやオンゴールで不運が重なって、チームの助けになりたかったのにそれができていなかったという気持ちがあったので、その感情が爆発しました。服を脱いで37番を見せて『こういう選手がいるんだ』というのを見せつけたくてやりました」
ただ、ユニフォームを脱いだことで不要なイエローカードを受けたため、「試合が終わって監督からは笑いながら『もうカードはもらうな』と言われたので、これからは落ち着いてセレブレーションをしようと思います」と苦笑い。
サポーターやチームメイトと喜んだあとには両手でハートマークを作り、「今日はお父さんの誕生日だったので、どこにいるのかわかんなかったけど、大体ここら辺にいるだろうという感じでハートを作りました」と観戦に来ていた父親へ愛情を送っていた。
同点弾でチームの勢いとサポーターの応援に火がついた広島は、後半アディショナルタイムにCKでキャプテンのDF佐々木翔が相手選手に倒されてPKを獲得。これをアルスランが冷静に決めて逆転に成功し、広島がそのまま2-1の劇的勝利で優勝への望みをつないだ。
フル出場したキムは、「自分だけではなく、攻撃の選手やミッドフィルダーの選手、一緒にラインを組んでいる守備の選手がしっかり走ってくれたおかげで、このような勝利がつかめたと思います」とチームメイトと喜びを分かち合った。
広島で公式戦9試合目の町田戦は5試合連続のスタメン入り。出場したホームゲームでは初勝利となった。チームに不可欠な存在となった24歳DFは、「スキッベ監督がずっと使ってくださっていたので、その期待に応えたかったです」と話し、さらなる活躍を誓う。
「自分は守備の選手なので正直得点よりは、無失点で終えてチームを勝たせることが役割だと思っていて、今日は失点をしてしまったので、またそれを次に生かして無失点で終われるようにやっていきたい。そうやって監督やチームメイトからの信頼を積み重ねていきたいです」
広島に来て2カ月。新天地でキム・ジュソンの名前が高らかに響いた。サポーターからの熱いコールは「すごくいい気持ちでした」。クラブのSNSやスタジアムには母国からの応援もある。
「韓国から応援してくださってる人もいますし、今日試合が終わって(ピッチを)回ってる時に韓国から来てくれた人もいたので本当にうれしく思います。広島ではしっかりサッカーを学んでいますし、熱狂的に応援してくださるおかげで、キム・ジュソンという選手がいるということを感じます。本当に最善を尽くして頑張っていきたいです」
熱い応援に熱いプレーで応え続ける背番号37。広島に、闘志あふれるキム・ジュソンあり。
取材・文=湊昂大
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By 湊昂大



