セレッソ大阪戦にフル出場した山本悠樹 [写真]=Getty Images
2024-25シーズンのAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)の激闘を経て、新たなスタートを切った川崎フロンターレ。帰国初戦だった5月11日の鹿島アントラーズ戦は惜しくも1-2の苦杯を喫したが、14日の横浜FC戦を2-1で勝利。勢いを取り戻した状況で18日のセレッソ大阪戦を迎えた。
C大阪も5月に入ってから京都サンガF.C.、ヴィッセル神戸、横浜F・マリノスに3連勝。上昇気流に乗っていた。しかも相手は1週間試合間隔が空いて、コンディション的に分がある。その相手を制圧し、連勝街道を力強く進みたかった。
川崎Fは序盤からボールを支配し、主導権を握ったが、なかなか決定機には至らない。それでも帰国後3試合連続(公式戦では9試合連続)スタメンのボランチ・山本悠樹は巧みにゲームをコントロール。時には相手ボランチ・香川真司に激しく寄せてボールを奪うなど、守備のハードワークも忘れず、献身性を前面に押し出した。
「早いタイミングでチャンスもあったんで取れればよかったですけど、そんな簡単じゃないと思いますし、相手もしっかり守ってきていた。そういう相手をどうこじ開けて取り上げていくのかはやり方がいろいろある。模索しながら感じですかね」と今季から背番号6をつける27歳のMFは冷静に戦況を伺い続けた。
彼はなぜブレることなく冷静にプレーし続けられたのか。それはサウジアラビアでのACLEの経験値が大きかったという。
「サウジの圧の中でプレーして、もっと落ち着いてやらないといけないという自分の中の課題と反省があった。それをすごく意識してやっています。落ち着いてやることで、自分のいいところが一番出るなと最近、感じているので。本当に焦れずにやり続けることが相手にとっても一番嫌だと思う。『ずっと攻撃されている』というプレッシャーを与え続けることが大事だと考えていました」とじっくり駆け引きすることに努めたという。
その読み通り、前半終了間際には山本の右CKから山田新がドンピシャヘッドで合わせるという決定機が生まれる。これは相手守護神・福井光輝のスーパーセーブに阻まれたが、着実に得点に迫っている印象はあった。
後半も開始早々に脇坂泰斗の決定機が生まれたが、これも入らない。そこに畳みかけるように、山本は後半9分、絶妙のスルーパスを山田に供給。山田のシュートは福井に阻まれ、こぼれ球に反応したマルシーニョのシュートもブロックされたが、背番号6の高度なテクニックは見る者の目を引いた。
「新はいつもいい動きしてくれていますし、最近ゴールを取れてはないですけど、僕が来る前からも沢山点を取っていたし、いつか入ると思います。本人には厳しいこと言いますけど、『いつか入るだろう』って僕は思っているので、そういうチャンスをより作ってあげればいい。1つ入ると乗ってくる選手なので、それも焦れずに、また見てあげたらいいかな」と山本は仲間を温かい目で見守りながら、サポートしているという。
そういった余裕は移籍1年目だった昨年には見られなかったもの。ガンバ大阪から赴いた昨季は思うように出場機会を得られず、本人の苦悩の日々を強いられた。
昨年9月27日のアルビレックス新潟戦で約2カ月ぶりのスタメン出場を果たし、本来の輝きを取り戻した際には、「話せば長くなるし、受け入れがたいことも沢山ありましたし、キツイなって思うことが多かったんで…。そういう時に支えてくれた人に感謝したいと思います」と涙ぐんでいたほどだ。
その姿が嘘のように、今季の山本は光り輝いている。攻撃面でリズムを作ってスルーパスを出し、決定機を演出するのはもちろんのこと、守備強度でも大きく向上。この日は同じピッチに立った香川真司をはるかに上回る存在感を示していた。
「長谷部(茂利)監督やスタッフの方からの提示もあって、自分の中で守備に対する感覚がすごく整理されている。自分1人でボールを奪うところはまだ物足りないところがありますけど、攻守においての感覚がよくなっていると思います」
彼自身も手ごたえを口にしていたが、急激に進化を遂げる27歳のボランチが安定感を与え続けたからこそ、川崎Fはそこからギアを上げ、白星をもぎ取ることができた。終盤にエリソンが2ゴールをゲットし、2-0で勝利。2試合消化が少ない中で順位も6位に浮上。J1優勝争いへの布石を打ったのだ。
「本当に今日は絶対勝たないといけないゲームだったし、勝たないといけないような内容だった」と山本自身も語気を強めたが、この先は浦和レッズ、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島という難敵が続く。そこでフル稼働し、勝利の原動力になれれば、7月のE-1選手権での日本代表入りも現実味を帯びてきそうだ。
もともと山本は三笘薫や旗手怜央、上田綺世らとともに2019年ユニバーシアードに参戦した選手。才能は当時から高く評価されていた。川崎Fでは予期せぬ足踏みを強いられたが、逆境を乗り越え、サウジで修羅場をくぐったことで、成長が加速している印象もある。山本にとっては今がまさに旬。今後のパフォーマンスは要注目だ。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子



