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山本悠樹のケガの事例からひも解く、ガンバ大阪が誇るメディカル体制

2023.11.23

この4年でたくましく成長を遂げ、ガンバ大阪のキーマンの一人として存在感を示すMF山本悠樹
しかし、その足跡は順風満帆ではなく、もがき苦しみ、ケガとの闘いもあった。
そのケガからの復活をバックアップしたのが、メディカルチームとPFC-FD™療法だ。
最先端の治療法を、ガンバ大阪はどう有効活用しているのか──。
山本とドクター3名の言葉から、サッカー界全体が抱える医療・治療の課題にも迫る。

取材・文=山本剛央 写真=フォトレイド

もがき苦しみ、ケガとも闘い
キーマンに成長を遂げた山本

 10月27日、ガンバ大阪はダニエル ポヤトス監督との契約更新を発表。来シーズンも引き続き、スペイン人監督に指揮権を託し、名門復権への歩みを進めていくことになった。

 2023シーズン、G大阪は“生みの苦しみ”にもがき続けている。攻撃的なポゼッションサッカーへとスタイルの転換を図ったチームは、開幕からの14試合でわずか1勝と低迷。主軸の一人として奮闘するMF山本悠樹は、この時期について次のように回想する。

「2023年はガラリと戦い方を変えて、変化を求めたシーズン。その変化に対して、選手たちは理解をしているけど、ピッチの上でそれを実行しきれない。かつ、変化を起こそうとし過ぎて、もともとあった良さがなくなり、チームのバランスが失われていた」

 それでも、第15節、敵地でのアルビレックス新潟戦に3-1で快勝すると、ここからの10試合で8勝とV字回復を遂げてみせた。その要因は「浮上していくために、まずは守備の安定を図りつつ、そこからショートカウンターを狙う。昨シーズン、一昨シーズンに多く見られた形から得点を奪うことができていたし、その上でポゼッションもする“二刀流”のような戦い方がうまくハマっていた」(山本)

 しかし、その勢いは持続せず、G大阪は再びトンネルに迷いこむ。8月19日の第24節、湘南ベルマーレ戦での白星を最後に、現在8試合未勝利(2分6敗)と不振に陥った。その原因について山本は「守備では簡単に失点してしまっていること。攻撃では(ゴールを)決め切ることが足りていない」と分析する。

 思うような結果を残せず、忸怩たる思いに駆られている山本だが、その一方で「今年はサッカーをしていて、すごく幸せだなと思える瞬間が多い。自分自身のレベルがすごく上がったという感触もある」と充実ぶりを語る。

 その理由はやはり、攻撃的なサッカーに取り組んでいるからだろう。関西学院大学出身の山本は、2020シーズンにG大阪に加入。「大学ナンバーワン司令塔」という触れ込みで名門クラブの一員になった。しかし、チームは2020シーズンこそ手堅いサッカーでリーグ2位の結果を残したが、2021シーズンは13位、2022シーズンは15位と、いずれも残留争いに巻き込まれるなか、堅守速攻のスタイルで戦っていた。

「自分の得意ではないスタイルのなかで、どう生き残っていくかをすごく考えさせられた。自分に足りていない部分を突きつけられ、もがきながらサッカーをしていた」(山本)

 足りていない部分とは、主に守備力や走力。そこを向上させるため、山本は毎日のトレーニングから一つひとつを積み重ね、「走れて、闘える司令塔」へと進化を遂げていった。「サッカー選手としての幅がすごく広がった」と自身も手応えを口にする。

自分自身に矢印を向け続け、成長を続けてきた山本。その表情からは充実感がうかがえた

 加入から丸4年。もがき、苦しみながら成長を遂げ、名門クラブのキーマンの一人と称されるまでに飛躍した山本だが、その陰ではケガにも悩まされていた。2022年の5月、右膝軟骨損傷を負い、約3カ月半の戦線離脱。今年の4月にも左膝を痛め、約1カ月半ほど試合から遠ざかった。

 ケガをした山本を復帰まで導いたのが、G大阪が誇るメディカルチームとPFC-FD™療法だった。PFC-FD™療法とは、自身の血液中の血小板に含まれる成長因子を活用し、関節や筋腱の疾患・損傷に対して注射する治療法のこと。再生医療の一種であり、痛みの改善が期待できるという。サッカー界にとどまらず、野球やバスケットボール、陸上など多くのアスリートが利用し、近年、急速に普及が進んでいる。

 2021年9月、G大阪が再生医療関連事業を手がけるセルソース株式会社とパートナー契約を結んだことで、同社が特許を持つPFC-FD™療法を選手たちが利用できるようになった。

 右膝に3回、左膝に1回、計4回PFC-FD™を打った山本は、その決断に至った理由を次のように語る。

「ドクターから説明を受けた際、デメリットを感じなかったので、PFC-FD™を打つことをすぐに決断できました。可能な限り早く復帰したい。それは選手の誰もが思うことで、回復が早まる可能性があるというのは、選手にとって希望でしかないので」

 そうして山本は順調に回復し、リハビリを経て無事に復帰を果たした。サッカー人生で初だという膝のケガを経験してからは、より意識的に肉体改造にも取り組んでいる。お尻やハムストリングスの筋肉を強化することによって、膝の負担軽減を図っている。

育成年代を含めたすべての競技者に
質の高い医療・治療を

 ここからは、G大阪のメディカルチームと、メディカルから見たPFC-FD™療法について掘り下げていこう。

 G大阪にはJ1クラブでも数少ない常駐のドクターがいる。2015年からチームドクターとなった榎本雄介だ。試合に帯同するのはもちろん、トレーニングの日もクラブハウスに勤務し、グラウンドに顔を出す。日頃から選手とコミュニケーションを取り、関係性を構築することで、いざケガが起こってしまった時に、「言いづらいことを言えるし、ケガの受傷度合いなど選手にとって受け入れづらいことも、受け入れてもらえる」(榎本)という。

 選手たちの視点に立っても、榎本の存在はとても大きい。山本が選手たちの総意を代弁する。「足に違和感を感じた時に軽い感じで相談することができます。それで榎本先生から『大丈夫』と言われれば、不安が解消される。先生の判断と自分の感覚。その2つを掛け合わせて、自分の指標が持てるので、常に傍にいてくれるメリットはすごく大きいと思います」

 現場の最前線で奔走する榎本だが、その後ろには数多くのドクターがバックアップ体制を敷いている。諸岡孝俊(西宮回生病院、兵庫医科大学)は、東京オリンピック日本代表のチームドクターの一人として奮闘した人物。約10年間携わっているG大阪ではチーフとして業務を統括する。大西慎太郎(西宮回生病院)は主に膝のオペ(手術)を担当。選手がケガをした際、診断を下すのも、治療方針を決めるのも、ドクターチームでミーティングを重ねた末、慎重に決定を下す。

 プロサッカー選手にとってケガはキャリアを左右する大きな問題であり、1日でも早く復帰したい思いが強い。監督やサポーターも、その思いは同じ。だからこそドクターは難しい判断を迫られる。

「医療者としては確実に治る安全な方法を優先したい。だけど、選手やチームは『1日でも早く復帰を』と考えている。その間をどう取っていくか。そこが1番難しい作業ですね」(諸岡)

 その「難しい作業」の一助となるのが、PFC-FD™療法である。PFC-FD™の作成工程における凍結乾燥加工により、一般的なPRP(多血小板血漿)療法ではなしえなかった長期保存が可能となった。榎本はそれを「強力な“武器”をいつでも使える状態」と表現する。

 手術を担当することが多い大西も、PFC-FD™療法をこう評価する。「非常に助かっています。どんな手術も合併症のリスクがつきまとう。より悪くなってしまう可能性もある中で、PFC-FD™は悪化することがない。経過観察か手術か。その間の選択肢としてとても有効です」

 その言葉どおり、G大阪がセルソースと契約を結んでからの約2年間で山本以外の使用実績は十数件にのぼる。昨シーズンには、アキレス腱断裂の大ケガを負った宇佐美貴史もPFC-FD™を打ち、「MRI検査の画像上の回復スピードは、本当に素晴らしかった」(大西)という。

 ただ、その効果には個人差があり、ケガの種類や受傷場所によって千差万別であることは書き記しておきたい。ちなみに大西自身も社会人サッカーに興じるプレーヤーであり、慢性的な膝の痛みに悩まされていたが、PFC-FD™を打って「痛くなくなった」と、その恩恵にあずかっている。

G大阪のドクターチーム。左からチーフの諸岡ドクター、チームに帯同する榎本ドクター、検査やオペを担当する大西ドクター

 ここまで見てきたように、近年、スポーツ界における医療・治療の進化は著しい。選手たちがそのメリットを享受しているのは、疑いようのない事実だろう。ただし、決して目を背けてはいけない課題もある。それは育成年代を含めたすべての競技者に質の高い医療・治療を提供していくことだ。

 山本が問題点を指摘する。

「関西学院大学時代、チームにはもちろんドクターがいませんでした。どこかに痛みを抱えている場合、その痛みがマックスになるまでプレーするか、早めにプレーをやめるかの2択しかなかった。基本的にみんな無理をしてしまうので、大ケガを負う選手も少なくなかったし、それがキャリアに影響したり、選手生命が終わってしまったり……。それは本当にもったいのないこと」

 そもそも先述したとおり、J1リーグでさえドクターが常駐しているクラブが少ない。諸岡は言う。「ヨーロッパのクラブでは常にドクターがいるのがスタンダードになっていますが、日本ではまだまだ少ない。育成年代を含めて、もっともっと医療・治療の重要性を広めていくためにも、今のガンバのメディカル体制が、より評価されていかなければいけない」

 その思いは榎本も大西も同じ。チームドクターとして長年、経験を積んできた榎本は、「自分の経験を地域や社会に還元していきたい」と今後の目標を語る。

 ケガに苦しむ人を少なくしていく。それが日本サッカーの発展につながると信じて、G大阪のドクターチームのチャレンジはこれからも続いていく。

膝治療の新たな選択肢 PFC-FD™

血液を活用するPRPサイトカイン療法

血液に含まれる血小板や成長因子が持つ傷の修復に働く自然治癒力を応用し、膝の関節痛に有効な成分を活用する治療です。関節内に注射することで、組織の再生能力に働きかけ、痛みの改善を後押しします。

出典:関節治療オンライン「PFC-FD™療法(血液由来の成長因子を用いたバイオセラピー)とは」PFC-FD™療法で改善が期待できる疾患(全国1,109院[2022年1月末現在]の医療機関で実施し、その情報を公開しているホームページ)
※PFC-FDはセルソース株式会社の保有する商標です。

PFC-FD™療法とは

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