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「Jリーグ平均入場者数1位」に返り咲き。浦和レッズが見据える集客のカタチ

2023.01.27

2022年のJリーグで平均入場者数1位に輝いた浦和レッズ [写真]=浦和レッズ

 新型コロナウイルス感染症の蔓延以降、Jリーグの各クラブはさまざまな制限を強いられ、一時は試合の開催さえ危ぶまれる時期を過ごしてきた。それでもコロナ禍3年目となった昨季はスタジアムの入場制限などが徐々に緩和され、過去2シーズンと比べると客足も着実に戻ってきた。

 コロナ禍1年目の2020年に177万3,481人(平均5,796人)まで落ち込んだJ1の総入場者数は、2022年に438万4,401人(平均1万4,328人)まで回復。コロナ禍以前の状況にはまだまだ及ばないものの(2019年の総入場者数は634万9,681人だった)、約2年ぶりに声出し応援が復活するなど、段階的ながらスタジアムに“日常”が戻りつつある。


 そんな中、昨季の平均入場者数で3年ぶりにJ1のトップに返り咲いたのが浦和レッズだ。2022年に行われたJ1のホームゲーム17試合の平均入場者数は2万3,617人、総入場者数は40万1,489人を数えた。昨季の浦和はAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の日程との兼ね合いで、本来なら週末に組み込まれるリーグ戦数試合を平日開催に変更せざるを得なかった。また、多くの集客が見込めるゴールデンウィークや夏休みの時期にほとんどホームゲームを実施できず、「集客」の視点では苦しい状況にあった。それでも、ホームゲームの入場者数が1万5,000人を下回ることはなく、平日開催の試合でも高いアベレージをキープ。これがトップ返り咲きの大きな要因だったと言える。

 以前から、浦和の集客力はJリーグでもダントツだった。初めてJ1を制した2006年からコロナ禍突入前の2019年まで、実に14シーズン連続で平均入場者数1位を堅持。「国内最大の人気クラブ」というイメージは、数字からも証明されていた。しかし、コロナ禍に突入した2020年に長年守り続けたトップの座を明け渡すと、そこから2年連続でリーグ3位に甘んじることになった。もちろん、コロナ禍やそれに伴うスタジアムの収容制限、そしてその制限が地域によって異なったことも大きな要因ではあったが、クラブが危機感を感じるには十分な事象だ。

 2020年以降、Jリーグの各クラブは特に入場料収入の面で大打撃を受けた。コロナ禍によって遠のいてしまった客足を戻すのはどのクラブにとっても注力すべき課題。徹底した感染対策で「安心・安全」を確保しながら、従来のファン・サポーターはもちろん、新規層にも刺さるようなピッチ内外のイベント、仕掛けを企画し、地道に集客に努めてきた。2020年、2021年に名古屋グランパスがJ1平均入場者数で1位に輝いたのもその賜物と言えるだろう。

 一方でこれまでの浦和は、そうしたピッチ外のイベントや仕掛けを「あえてしてこなかった」印象がある。クラブには「ピッチ上で行われるサッカーこそが、最大のエンターテイメント」という考え方があり、競技が行われるピッチには直接関係のない要素は極力いれないという文化がクラブ理念にも書かれている。他のスタジアムなら当たり前のように見られるクラブマスコットも、浦和では「(クラブマスコットの)レディアはピッチに登場しない」と明記しているほどだ。

 しかし、そんな浦和にも数年前から変化の兆しはあった。14シーズン連続で集客1位を誇っていたとはいえ、平均で4万7,609人もの入場者を記録した2008年をピークにその数字はじわじわと減少傾向。2010年代に入ってからはスタジアムが5万人超で埋まる回数は目に見えて減っていた。集客へのテコ入れは2010年代に入った頃から、浦和にとって大きなテーマとなっていたのだ。

 そうした流れの中で近年実施された施策の中には、世間がこれまで抱いていた“浦和レッズのイメージ”とは少し違うものもあった。2019年5月、ゴールデンウィーク中に実施した「Go Go REDS!デー」などは最たる例だろう。クラブは小中高生を対象に、指定席の全席種で特別価格のチケットを販売。埼玉スタジアム周辺の広場に10種類以上のアトラクションを用意し、会場は子どもたちとその家族で大いに賑わった。この日の来場者は5万3,361人を記録。同じく5万人超を記録していた前節(ヴィッセル神戸戦)と合わせ、浦和は2014年以来5年ぶりに2試合連続5万人超えの集客を達成した。

 そうした成功体験も重ねながら、さまざまな企画を考案し、実施に向けて準備を進めていた。しかし、その矢先のコロナ禍で、集客に関する新たな試みは中断を強いられてしまった。それでも、コロナ以前から続けていた試行錯誤は決して無駄ではなかった。入場制限が大きく緩和された昨季は、満を持してさまざまな企画を実施。3月19日、20日に「埼スタ春のお花見フェスタ」と題してお花見にちなんだイベントや飲食を来場者に提供すると、7月30日の川崎フロンターレ戦では縁日ならぬ「炎(えん)日」を開催し、埼玉スタジアム横の調節池にやぐらを立てて夏祭りの雰囲気を演出した。また、10月には試合日を含む3日間にわたって「埼スタAutumn Festival」を開催。これらは老若男女の誰もがグルメやスポーツを連日楽しめるイベントだった。昨季の「入場者数1位」への返り咲きは、先を見据えて早くから新たな集客のあり方を模索し、取り組んできた成果の一端だったと言える。

昨年7月には「炎日」と題した夏祭りイベントを開催した[写真]=野口岳彦

 もちろん、ピッチ外で行う施策に傾倒することなく、「ピッチ上で行われるサッカー」も従来どおり大切にしている。昨年5月、サンフレッチェ広島、横浜F・マリノス、鹿島アントラーズとのホーム3連戦では、“オリジナル10同士の戦い”という試合そのものの価値や魅力に焦点を当てて観戦を呼びかけ、21日の鹿島戦で昨季最多となる3万7,144人の入場者数を記録。Jリーグ最速、他クラブに圧倒的な差をつけてホームゲーム通算入場者数1,500万人を突破したのもこの時期だった。

 メインコンテンツはあくまでもピッチ上にあり、それを大事にするというクラブの方針は変わらない。硬派で熱狂的な応援スタイルもこれまでどおりだ。ただ、クラブの伝統や文化を大切にしながらも、現在はピッチの外にも目を向け、あらゆる層が楽しめる「レジャーとしてのJリーグ」の体現を目指している。昨季はその姿勢が一つひとつの企画を通して目に見える形で表れた。クラブ30周年という節目の年に、浦和は新たなフェーズに入ったのかもしれない。

 もちろん、集客の前提にあるのはサッカー面での成功だ。昨季はACLこそ決勝進出を果たしたが、「優勝」を目標に掲げたリーグ戦ではふるわず9位でシーズンを終えた。当然ながら、クラブもファン・サポーターもこの結果には満足していない。

 昨季の入場者数1位への返り咲きは、浦和にとって通過点にすぎない。クラブが目指す真のゴールは“安全・快適で熱気ある満員のスタジアム”だ。クラブの黄金期と呼ばれる2000年代中盤から後半にかけて、浦和は5万人超のスタジアムを何度も実現していた。その再現のためには、スタジアム周辺での取り組みだけでは足りない。ピッチ上での結果という両輪を回していく必要があるだろう。

 来たる2023シーズン、浦和のシーズンチケットの売れ行きが好調だという。販売数は1月上旬時点でコロナ禍前の2019年と同水準となる1万8000席超。目標の実現へ、まずは集客面で好スタートを切ったと言える。こうしたファン・サポーターの期待に応えるためにも、まずは4月29日と5月6日に行われるACL決勝で3度目のアジアチャンピオンに輝くこと。そして、長く優勝から遠ざかっているJ1でもタイトル争いを演じること。“満員の埼スタ”を取り戻すための挑戦は新シーズンも続く。

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