FOLLOW US

「サッカー引退したら路頭に迷う」 復活を期す今野泰幸の描く未来

2021.12.06

優勝後、大井(右)と喜ぶ今野 [写真]=J.LEAGUE

 11月28日の明治安田生命J2リーグ第41節、ザスパクサツ群馬戦で、見事に2021年J2優勝を決めたジュビロ磐田。12月5日の最終節、ブラウブリッツ秋田戦は消化試合という位置づけとなったが、病気休養中だった鈴木政一監督が復帰。ホームのヤマハスタジアムで指揮官のラストマッチを飾ろうとチーム全体が一丸となっていた。

 その意気込み通り、開始早々の6分に右サイドの小川大貴が電光石火の一撃で先制。幸先のいいスタートを切った。だが、ロングボールを主体にしつつ球際のバトルを前面に押し出してくる秋田の攻めに苦しみ、前半37分に失点を許してしまう。しかも3バックの一角を占める伊藤槙人が脳震とうの疑いで、前半で退くことになり、後半が不安視された。


 そこで最終ラインを引き締めたのが、大井健太郎とハーフタイムに交代し、ピッチに立った今野泰幸だ。

 群馬戦で前々からの念願だった遠藤保仁とのボランチコンビを結成。攻守両面でチームに安定感を与えた38歳のベテランは今回、3バックの中央でプレー。相手の激しい当たりにひるむことなく、アグレッシブにぶつかっていった。後半45分間に何度か訪れたセットプレーの守備時も体を張って壁となり、失点を許さない。最終的に磐田は鹿沼直生の豪快なミドル弾で2-1と勝利。いざという時に存在感を示す“仕事人”もいい形でシーズンを締めくくることができた。

[写真]=森優斗

 今季のJ2で今野は23試合無得点。リーグ戦では途中からピッチに立つことが多く、クローザー的な役割を多く担った。41歳の大ベテラン・遠藤保仁の35試合出場3得点には及ばないものの、昨年10月の右ひざ内側側副じん帯損傷の重傷から復活を期したシーズンとしては、まずまずだったのではないか。

「(2019年と2020年に)大けがをして、サッカーのできない時間がすごく長かった。本当に地獄を見たので、今年は体もよく動いたし、練習も100%でずっとできていたので、自分にとって大きな1年だったと思います。試合に出られなかろうと、若手と激しい強度の練習をして、『まだまだ若手に負けないぞ』というのは見せられたと思います。今まではとにかく自分が試合に出たい気持ちが強くて、『チームメートですら敵』という気持ちだった。でも今は『まずはチームだ』と思えるようになった。僕も大人になりましたよ」と本人もしみじみと語っていた。

 奇しくも同日、同じJ2の舞台で同期の田中達也(アルビレックス新潟)と2010年南アフリカワールドカップの盟友の1人、玉田圭司(V・ファーレン長崎)が現役ラストマッチを戦った。前日の4日にも今季限りで退く大久保嘉人(セレッソ大阪)、阿部勇樹(浦和レッズ)といったユース代表時代からの仲間たちもリーグ最終戦に挑んでいた。

 10代の頃からともに戦い、しのぎを削ってきた面々が次々とユニフォームを脱ぐ決断をしたことを、今野は「寂しいですね」と偽らざる本音を口にした。しかし、自身は「僕はサッカーしかないので。引退したら本当に路頭に迷っちゃうので。たぶん炎とかも消えちゃって、すぐボケちゃったりすると思うし、体が動く限りは諦めずに最後まで戦いたい」と現役続行への強い意志を表明。39歳になる2022年に完全復活を果たすべく、再スタートを切るつもりだ。

 とはいえ、J1に復帰する磐田に残るのか、それとも新天地を見出すのか…。来季の去就は不透明な部分がある。磐田は前述の通り、鈴木監督の退任が正式決定。今季までヴァンフォーレ甲府を率いた伊藤彰監督の就任が確実視されている。甲府では今野より年長の山本英臣を重用した指揮官だけに、年齢を基準に選手起用を判断することはないだろうが、今季の陣容をベースと位置づけるなら、今野が劇的に出番を増やすのは難しそうだ。

[写真]=J.LEAGUE

「フォア・ザ・チーム精神」が強くなったと本人は言うものの、やはり彼は貪欲に己を高めたい男。コンスタントにピッチに立って、タフに粘り強く戦い続けたいという渇望は、人一倍強いはず。それを3つ上の遠藤が磐田での1年2カ月でやってのけたのだから、「自分も続いてやる」という意欲が湧かないはずがない。

「ヤットさんは本当に鉄人です。ケガもしないし、つねに尊敬している選手。すごいところはたくさんあるけど、一番ほしいのはメンタルです。マイナスなことは一切考えないし、サッカーに対して前向き。1-0でリードしている局面で入るとしたら、僕だったら『失点したらどうしよう』って思うけど、ヤットさんは『したらしたでしょうがない』という考え方。もう脳みそが違います(笑)」

 今野は、ガンバ大阪、磐田、日本代表で背中を追いかけた先輩を羨望のまなざしで見つめている。お手本とも言える存在に少しでも近づくために、彼はこの先、どんなキャリアを描いていくのか…。そこは非常に興味深い点と言っていい。

 かつて日の丸を背負い、日本サッカー界をけん引してきたアラフォー世代が1人、また1人と去っていく中、ひたむきにサッカーに向き合い、一歩一歩前進していく今野がピッチに立ち続けてくれることは朗報だ。本人が言うように、燃え尽きるまで戦い抜くことの素晴らしさを若い世代、そして多くのファン・サポーターに伝えるべく、彼には来年も再来年も雄姿を見せてほしいものである。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO