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【J3開幕特集】「試合に出たい」…ベテラン守護神たちの“逆襲”を見逃すな!

[写真]=Getty Images

 ゴールキーパーというポジションがいろいろな意味で“特殊”であることなど、今さら言うまでもないだろう。たとえば11人の中で唯一ユニフォームの色が違う。常に試合に出られるのはたった一人だけ。何よりもピッチにいる選手の中で、ただ一人手を使うことができる。「後ろの声は神の声」という言葉もあるぐらい、少しボールと離れた位置から全体を眺め、味方に的確な指示を出していく。まだスタンドからの声援が完全に戻っていないJリーグのスタジアムには、常にゴールキーパーの声が響いている。

 そしてリスペクトの対象となる存在が、ベテランのゴールキーパーだ。とりわけ“第2ゴールキーパー”や“第3ゴールキーパー”という立ち位置の彼らは、トレーニングから雰囲気を盛り上げ、レギュラーの選手が自分より年下だった場合でも、気付いたことはアドバイスしつつ、試合になればウォーミングアップからサポートに回る。

 出場機会を得られない若手選手を食事に連れ出し(今はそうもいかないだろうけど)、悩みを聞きながら、ポジティブにモチベーションを高めていく。選手名鑑を見ると、ベテランゴールキーパーの一言メモには『サッカー選手の鑑』や『若手のお手本』、『精神的支柱』という言葉が並びがちであり、あるいは自分のことを考えるよりも、チームを支えていくことをより求められているかのような印象すら受ける気がする。

 だが、果たしてそうだろうか。

 誰だって試合に出たいに決まっている。好き好んで“第2ゴールキーパー”や“第3ゴールキーパー”に甘んじている訳ではない。たった一つしかないレギュラーポジションを奪い取るために、本来は若手なんか蹴落とすぐらいの気持ちで、日々のトレーニングに挑んでいるはずだ。ベンチメンバーを命じられれば悔しいし、メンバー外を言い渡されればもっと悔しい。そんな想いを押し殺して、必死に冷静を装いつつ、試合のピッチへ向かう仲間を鼓舞し続ける。

 かつて、とあるJリーグのクラブに、長年“第2ゴールキーパー”の役割を担い、周囲から人格者として尊敬を一身に集めているベテランがいた。自分より年下の絶対的なレギュラーがいるため、その選手に何か不測の事態が起きない限り、序列が変わることもなければ、公式戦に出場する機会も訪れない。それでも黙々とトレーニングをこなし、チームの一員としての仕事を全うする。

 練習が終わると、そのベテランは必ず家に帰るまでの道のりにあるファミレスへと立ち寄り、少し時間を潰してから帰宅していたという。そのルーティンを行わないと、抑えられなかったのだ。叫び出したくなるような悔しさを。ぶつけようのない怒りを。胸をかきむしりたくなるような焦りを。そんな姿を家族に見せる訳にはいかない。その“ファミレス通い”は数年に渡って続いていたと聞いた。

 2021年のJ3リーグには、少なくないベテランゴールキーパーが新天地を求めてやってきた。その大半が昨シーズンのリーグ戦出場記録を見ても、ほとんど“空欄”か“サブ”の選手たち。つまり彼らは試合に出るために、このカテゴリーへ挑戦する決断を下したのだ。

 カターレ富山の西部洋平。40歳。昨シーズンのリーグ戦出場は1試合。J3全体で見ても、アスルクラロ沼津の伊東輝悦、FC今治の橋本英郎に続くリーグ3番目の年長者。ゴールキーパーでは最年長となる。

 福島ユナイテッドFCの山本海人。35歳。昨シーズンのリーグ戦出場は0試合。2005年FIFAワールドユース時のU-20日本代表メンバーであり、北京オリンピックに臨んだU-23日本代表メンバーにして、フル代表の招集経験も有している。

 ロアッソ熊本の佐藤優也。35歳。昨シーズンのリーグ戦出場は0試合。340を超えるJリーグ出場試合数を誇る男は、プロキャリアをスタートさせたヴァンフォーレ甲府で指導を仰いだ大木武監督の元へ、15年ぶりに帰ってきた。

 FC岐阜の桐畑和繁。33歳。昨シーズンのリーグ戦出場は0試合。アカデミー時代を含めれば18年間在籍した柏レイソルから契約満了を言い渡されたものの、結果的に再契約。期限付き移籍で、プロキャリア初となる“レイソル以外”のチームで勝負する。

 AC長野パルセイロの田中謙吾。31歳。昨シーズンのリーグ戦出場は0試合。JFL時代のチームに大卒ルーキーとして加入し、7年間在籍。松本山雅FCへの“禁断の移籍”を経て、3年ぶりの古巣復帰に携えた想いは熱い。

 カマタマーレ讃岐の高橋拓也。31歳。昨シーズンのリーグ戦出場は2試合。一昨シーズンはギラヴァンツ北九州のJ2昇格に正守護神として貢献したが、2020年は我慢の年。心機一転。チームと共に再びJ2を戦うため、すべてを捧げる覚悟は整っている。

「試合に出たい」。プロサッカー選手にとっては、シンプルでありながら、最大の欲求。彼らは何よりもそれを前面に押し出していい。その熱量が、その愚直さが、きっとチームのマグマを動かしていく。今年のJ3はベテランゴールキーパーの“逆襲”から、目が離せない。

文=土屋雅史

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