昨季見せた堅守に加え、今季は攻撃力の底上げに挑む [写真]=Getty Images
何やら、2010年の再来を見ているようである。ドラガン・ストイコビッチ監督の下で3年目を迎え、指揮官が初めて「優勝する」と宣言した11年前、チームは積み上げた戦力の上に最後のピースを加え、見事に悲願を達成した。プレーオフの末にJ1復帰を果たした2017年、最後までJ1残留を争った2018年と2019年を経て、現在のチームは指揮官交代も経験しつつも戦力だけは着実に積み上げてきた。そして、チームが一丸となって闘った昨シーズンをリーグ3位で終え、大型補強を敢行して迎える今シーズンは、“機は熟した”感が強い。
ベースは変わらない。34試合28失点という堅守を維持し、今シーズンはさらなるテーマとして攻撃力の底上げに挑む。そのためセンターフォワードに柿谷曜一朗を迎え、2列目にも斎藤学を獲得。長澤和輝や木本恭生、森下龍矢ら守備面の補強にも抜かりはなかったが、沖縄キャンプでこなした4つの練習試合で20得点を挙げながら「得点ができていないということが一番意識しなければいけないところ。選手には何も満足しないでほしい」とマッシモ・フィッカデンティ監督が発言するあたり、勝ち点3を得るための得点力を強く求めているのは明白だ。
注目すべきは、カウンターの速さになると思う。昨シーズンもマテウスや前田直輝、相馬勇紀らのスピードを生かした速攻を武器としていたが、今シーズンはその速さに精度やアイデアがプラスされている。ボールを奪う位置もできるだけ前をイメージしているところがあり、ショート、ロングの距離を問わずカウンターからの攻撃は増えるはずだ。前で奪った時のイメージの共有と素早いコンビネーションは、練習試合で証明済み。ロングカウンターについても、マテウスや齋藤が持ち上がったところに追いつくスピードを柿谷や前田、ガブリエル・シャビエル、阿部浩之、稲垣祥らが有しており、速攻に厚みを出せることも2021年の名古屋グランパスの特長になっていくだろう。もちろん、昨シーズン17試合のクリーンシートを実現した鉄壁のリトリートも健在で、だからこそロングカウンターの威力が増しそうな攻撃陣には期待も膨らむ。
冒頭の話題に付け加えるならば、“前回”は指揮官の宣言だったが、今回は選手たちの口からタイトルを欲する声が増えている。丸山祐市が「今はチームのタイトルに飢えています」と言えば、2年連続フルタイム出場の中谷進之介も「チームとしてタイトルを獲る。そのなかで、個人としても何かあれば」と同調した。名古屋の目線は、タイトル獲得で一致している。この一体感こそが、今シーズン最大の武器なのかもしれない。
【KEY PLAYER】19 齋藤学
その“発信力”は、キャンプでも際立っていた。
自らは「それが僕の特長なので」とドリブルを起点としたプレーを繰り返しつつ、その最中に味方の動き出しを見ればコンビネーションプレーも厭わない。厳しい走り込みにも耐えて培った基礎体力があるので守備面での貢献度も高く、またそうした攻守両面の動きをチームに順応させる声掛けが多い。気になることがあれば練習中やその前後を問わず仲間に話しかけ、試合になれば戦術的な指示だけでなく「次!」という切り替えのタイミングを素早く発信し、戦いにメリハリをつけていく。
確固たるベースを築いたチームに経験のある選手たちが加わった今シーズンは、選手たちの意欲的な話し合いがピッチ上で繰り広げられている。そのなかで、最も多く意見交換をしているのが齋藤だ。新体制発表会の場で語った「ひとつのプレーというよりは、この状況で何が重要かということを考えてプレーできるようになったと思っています。そういったところを出していければ」という言葉の意味は、そのプレースタイルのみならず、試合に勝つための勝負の機微をチームに共有していくという意味でもあったのだろう。
名古屋の齋藤はドリブルやカットイン、シュートだけではない。チームを動かす重要人物としての役割も、担っていくつもりである。
文=今井雄一朗
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