今冬、清水エスパルスに移籍した日本代表GK権田修一 [写真]=Getty Images
昨シーズンまでセレッソ大阪を率いていたミゲル・アンヘル・ロティーナ監督を迎え、新たなスタートを切った清水エスパルス。2020年のJ1でリーグワーストの総失点70を記録しただけに、守備の立て直しは急務の課題と言っていい。
それに向けて、東京五輪世代の原輝綺やマルチタスクをこなす新指揮官の申し子・片山瑛一など新たな守備のピースが何人か加わったが、最も注目すべきなのは、日本代表正守護神・権田修一だろう。
「(FC東京時代の監督だった)大熊(清=GM)さんが非常に熱心に誘ってくれた。普通なら僕の現状をしっかりリサーチしてから打診しなければいけないのに、クラブにOKをもらって正式オファーまでのスピード感が考えられないくらい速かった。人間的に信頼できる方ですし、大熊さんだからこそ受けたと言ってもいいくらい。エスパルスと一緒に前に進むというのが僕にとって一番いい選択でした」
12月28日の会見で彼は移籍の経緯をこう語ったが、実は11月の日本代表2連戦の時から「(当時所属の)ポルティモネンセで試合に出られていないので、そろそろ移籍も考えないといけない」と2年ぶりの国内復帰に傾きつつあった。
とはいえ、今の森保一監督率いる代表は海外組重視の傾向が強い。新型コロナウイルスの影響で10・11月の4試合も国内組招集が叶わず、欧州所属選手のみで戦っている。日本サッカー協会もドイツ・デュッセルドルフに拠点を置いて、現地情報収集体制の強化に乗り出しており、国内組になった権田に逆風が吹く可能性も否定できない。
本人はそのリスクを跳ね除ける構えだ。
「僕自身は昨年まで1シリーズに2試合しかない代表でしか、森保さんやコーチングスタッフに自分のプレーを見せる場がなかった。でもエスパルスに入ることでアピールする機会が増えると捉えれば、非常にポジティブなこと。もし日本に帰ってきて代表に呼ばれなくなったら、それは素直に自分の実力不足だと思います。エスパルスには沢山の若い選手がいますし、『代表はどうせ海外組が入るんでしょ』というんじゃなくて、『Jにもこんなにいい選手がいる』と強い気持ちを持って挑んでいくべき。そう仕向けていきたいです」
百戦錬磨の守護神はJリーグ組の地位向上とレベルアップにも尽力するつもりだ。
そのためにも、清水でロティーナ監督の信頼をガッチリとつかみ、コンスタントに試合に出て、安定感ある守備に貢献することが何よりも重要だ。新指揮官が過去2シーズン働いたC大阪にもキム・ジンヒョンという名手がいて、失点数減少の原動力になっていた。権田も彼を上回るくらいの傑出したパフォーマンスが求められる。
「2020年のエスパルスを見ると、ボールを大事につなぐところがうまくいかなかったのかなと。失点が多かったから守備が弱くなったというわけではなく、平岡(宏晃監督)さんになってからの2試合はできていた。それが終盤まで続かなかったということ。ヴァウドもシュートブロックは多かったけど、プレスの回数は少なかった。シュートを打たれないようにコースを限定するとか、体を張るとか、フィニッシュの前の守備をしっかり構築することからやっていけば、失点数は自ずと減っていくと思います」
鋭い戦術眼で新天地の問題点をいち早く分析した権田。彼が持ち前のコーチング力と統率力を発揮して守備陣、中盤、前線へと働きかけていけば、ポジショナルプレーを志向するロティーナ監督の戦術浸透度も高まるだろう。
思い返せば、新指揮官はC大阪時代1年目の序盤戦で勝てずに苦しみ、2~3カ月後くらいから少しずつ結果を得られるようになった。その「生みの苦しみ」をどれだけ短くするかが、今季の清水の成否を左右する。2021年シーズンは4チームが降格という厳しいレギュレーション。開幕ダッシュ失敗は命取りになる。それも踏まえながら、権田は圧倒的な存在感とコミュニケーション力でチームの連携連動を高めていくしかない。
2月27日の開幕・鹿島アントラーズ戦から強烈なインパクトを残し、名門復活の原動力になれれば、世代交代の波に飲み込まれることなく代表レギュラーの座を死守できるはずだ。今のJリーグはご存じの通り、東京五輪世代の波多野豪、大迫敬介、沖悠哉を筆頭に20歳前後の守護神が次々と頭角を現している。A代表の常連は37歳の川島永嗣、28歳のシュミット・ダニエルと31歳の権田だが、協会としても若い世代の台頭に大きな期待を寄せていて、年長者は少しでもパフォーマンスを落とせば、立場を追われかねない状況だ。それを権田自身も強く自覚しながら、32歳になる今季を力強く乗り切っていくつもりだ。
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By 元川悦子


