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【サッカーに生きる人たち】現実ではありえない大胆采配も…『FIFA』シリーズで世界と戦う現役大学生|ナスリ選手(eスポーツプレーヤー)

2019.11.09

写真=兼子愼一郎

 ピッチの上で戦うだけがサッカーじゃない。日本でも徐々に浸透しつつある「eスポーツ」の舞台で、世界屈指のプレーヤーたちと“本気のサッカー勝負”を繰り広げる人がいる。「ナスリ」のニックネームで活動する現役大学生、eスポーツプレーヤーだ。


 たかがゲーム、されどゲーム、である。ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える「eスポーツ」は、今やオリンピックでの実施が検討されるほど、世界中で大きな盛り上がりを見せている。海外では1万人を超える観客が会場を埋め尽くすほどの大きな大会も開催され、観客の熱気はさながら実際のスポーツ大会のようだ。日本では、Jリーグが昨春からeスポーツに本格参戦。『PlayStation4』向けのサッカーゲーム『FIFA』を用いた「明治安田生命eJ.LEAGUE」を大々的に開催し、決勝ラウンドの模様は『DAZN』でライブ配信された。2年目となる今年は『FIFA』に加え、スマートフォン向けサッカーゲーム『ウイニングイレブン』を使った『eJリーグ ウイニングイレブン 2019シーズン』も開催するなど、新規ビジネスの開拓が熱心に行われている。

リアルサッカーを経験したからこその視点

 ナスリ選手がプレーするのは『FIFA』シリーズだ。対象大会の成績ごとにポイントが与えられ、上位者にはFIFA(国際サッカー連盟)が主催する公式eスポーツ大会『FIFA eWorld Cup』への参加資格が付与される。昨年の同大会で、ナスリ選手は日本人選手として唯一の出場を果たした。

 幼少期から高校1年生までは、実際にサッカーをプレーしていた。その経験がなければ、『FIFA』においても「うまくなれなかった」と語る。自身のプレー経験や現実世界で展開されているプロサッカーの戦術や技術を、ゲーム内に落とし込んでいく。

 不思議なことに、eスポーツの世界でも、プレーヤーの特色は大陸ごとに分かれているように感じるのだという。

「国外の選手と対戦すると、国ごとというよりも、大陸ごとに違いを感じることがあります。大陸ごとに同じサーバーを使用していて対戦頻度も多い分、スタイルが似てくるんだと思います。例えば、南米の選手はガツガツしていて、ずる賢いプレーをしてくることが多くて、相手としてすごくやりにくい。アジアはパスサッカーを好むプレーヤーが多い印象があって、特に日本人はちまちましたプレーをしてくるので、それはそれで厄介で(苦笑)。そんな感じで、現実のサッカーと似通う部分があるんです」

 一方で、eスポーツならではの特徴もある。試合で劣勢に立たされた時、生身の人間がプレーするサッカーでは、選手交代やシステム変更など、ある程度のオプションを実行することはできるが、変化を加えるには限度がある。試合中にサッカーのスタイルを180度変えようものなら、ピッチ上でチームがバラバラになってしまうだろう。しかし、eスポーツでは、現実ではありえないような大胆な采配も可能だ。

「対戦していて『相性が悪いな』と感じたら、フォーメーションをまるごと変えてみたり、後ろでパスを回すような相手だったら、前からガンガン、プレスを掛けにいくような戦い方に変えてみたり。その時、その時の思いつきでガラッと変えられるのはeスポーツならではの醍醐味かなと思います」

 日々の練習も緻密な戦術を練ることも大事だが、何より一瞬一瞬の判断力が問われる。その理由として、eスポーツでは試合の映像を振り返る機会がほぼないことが挙げられる。

「自分がプレーした試合の配信映像が残っていたら見ることはありますけど、残っていないことがほとんどですし、見たとしても、なかなか客観的に振り返るのが難しいんです。だったら、必要なことは頭の中で考えたり、ゲームの場数を踏んだりしていきながら、その都度、対応していくほうが自分の力になるのかなと思います」

サッカー界との新しい関わり方

 今年4月25日、横浜F・マリノスから「ナスリ選手加入のお知らせ」というリリースが発表され、昨シーズンはF・マリノスのユニフォームを着用して各大会を戦った。Jクラブの名を背負うことも、日本を代表して世界の舞台に立つことも、ごく限られた人にしか得られない貴重な経験だ。

 しかし、ゲームを離れれば、普通の大学生だ。土日に大会に出場するため海外へ飛んでも、帰国すればすぐに授業に出席する。『FIFA』の練習時間は平日で1、2時間、土日は2日間で10~12時間程度。19歳の青年は、二足のわらじを履きながら充実の日々を送っている。

 eスポーツは、競技としてまだ発展途上にある。「ゲーム大国」と呼ばれる日本においても、認知度や競技レベルなど、様々な課題が残る。eスポーツの発展のためには、まずは国内にeスポーツ文化を定着させなければならない。

「まだまだ日本には真剣勝負をできる場が少なくて。(認知度を高めるために)イベントに出たりするのも大事だけれど、プレーヤーとして大会で結果を残して、注目を集めることが近道なんじゃないかな」

 海外では、eスポーツにおける「コーチ」や「プレーヤー兼コーチ」の存在が当たり前のようになっているが、日本にはまだそこまでの土壌はない。

「日本人はまだ、『ゲーム=遊び』という考え方がほとんど。だけど、海外でプレーヤーがコーチングしている姿を見て、自分もやってみたいと思いました。もし、自分がコーチになったら、サッカーのスタイルにプレーヤーをはめるのではなく、プレーヤーの特徴を生かした戦術を考えたりして……。このeスポーツの世界で、できるところまで挑戦してみたい。今はそれだけを考えています」

 ゲームを仕事にして生きていく。日々、目まぐるしく進化するサッカー界との新しい関わり方。eスポーツプレーヤー・ナスリ選手が、日本代表のように日本中の声援を浴びながら世界と戦う日も、そう遠くはないだろう。

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