2019.05.10

【サッカーに生きる人たち】またいつか満員のスタジアムを見ることを夢見て|矢野隼平(横浜マリノス株式会社 Jリーグ運営担当)

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インタビュー・文=後藤 愛(フロムワン・スポーツ・アカデミー1期生)
写真=兼子愼一郎、横浜F・マリノス

「マリサポの皆さんは、とても礼儀正しくて、熱い思いを内に秘めている方が多いんです」

 横浜F・マリノスのサポーターの印象についてそう語る矢野隼平(やの・しゅんぺい)さんは、クラブの運営担当を務めている。競技運営の面では、ホームゲームの日程調整を行い、試合当日にはスターティングメンバー表や試合球を用意したり、アウェーゲームに帯同したりする。イベントの企画や運営においては、シーズンごと、試合ごとのテーマやターゲット層に合わせたイベントを企画し、業者の選定や人員の配置といったオペレーションのすべてを担う。

 インタビュー中、一つひとつの問いに対して丁寧に、そして分かりやすい表現を選びながら答えてくれた矢野さんの声や表情からも、“マリサポ”と同じように内に秘めた熱い思いを感じる瞬間が何度もあった。

入社から丸2年、客観性を持つことを大切にしてきた

 F・マリノスファミリーの一員として活躍する矢野さんも、かつてはプレーヤーとしてサッカーにのめり込んだ。小学3年生から大学卒業までプレーしていて、当時はサッカー業界で働くことを夢見ていたが、大学卒業後は違う道に進んだ。しかし、あるタイミングでF・マリノスに出会ったという。

「新卒で入った会社では営業として働いていました。そこで成果を出していくうちにステップアップを目指すようになって、転職活動を進めていたところ、偶然、F・マリノスの求人を目にしたんです。諦めかけていた学生時代の思いを具現化させたいという気持ちで、すぐに応募しました」

 今年の3月で、入社してから丸2年が経った。この仕事をするうえで一番大切にしてきたことは、「客観性を持つこと」だという。

「この業界で仕事をしていると、どうしてもコアなサポーターに思いが寄っていきそうになるんですが、『このイベントは本当に初めて来る人に喜んでもらえるのか』とか、『このイベントをしたら、これまでサッカーに興味がなかった彼氏や彼女、奥さんや旦那さんを連れて来てもらえるのか』ということを日々考えています」

「スタジアムに足を運ぶ全員がターゲット」だと話す矢野さん。来場者を増やすためには、情報収集を行うことも重要な仕事の一つだ。SNSの活用に加えて、F・マリノスでは昨年から「沸騰ミーティング」と呼ばれるファンミーティングを実施している。ファンの生の声を取り入れるために、抽選で選ばれた参加者がテーマに沿ってグループワークでアイデアを出し合うという企画だ。その他にも、毎試合、来場者にランダムに送るアンケートの解答をもとに満足度を「見える化」し、目標設定に役立てている。しかし、この「見える化」には、同時に難しさもあるという。

「例えば、ナイターゲームの時にスタジアムを暗転し、光で演出する『トリコロールギャラクシー』というイベントを行っているのですが、これは、お金をいただくものでも、参加人数を問えるものでもないんです。満足度だけでなく、こういったイベントでの収入や参加人数といったところをどう『見える化』するか。様々なイベントを企画するうえで、そこはいつも頭を悩ませているところですね」

すべては、再び満員のスタジアムを見るために

(写真=横浜F・マリノス)

 運営担当として多くの役割を担っている矢野さんに、やりがいを感じる瞬間について尋ねると、これまでの様々な光景を思い浮かべるように少し考えを巡らせてから話し始めた。

「お客様が私の企画したイベントで笑顔になっているのを見たり、試合後にイベントの写真をSNSに投稿してくれていたりするのを見ると、非常にやりがいを感じますね。勝利した時はファンの皆さんと同じくらいうれしくなりますし、私は常に選手を間近で見ているので、スタジアムの歓声やファン・サポーターの存在の大きさを目の当たりにできるというのは醍醐味かなと思います」

「見える化」されたデータによると、来場者がスタジアムに2回、3回と足を運ぶきっかけになっているのは、ゴールが入った時の高揚感や周りの人とともに応援をすることで仲間意識を味わえるからだという。しかし、それだけではなかなかつなぎ止められないため、イベントの充実がカギとなる。

 昨年好評だったイベントは継続予定。さらに今シーズンは、来場者の約4分の1を占めるファミリー層と新規の若年層を意識したイベントを増やしていくという。

「昨年、夏の試合日にビアガーデンを行ったときは、ホーム・アウェー問わず1000人近いお客さんが来てくださいました。『トリコロールギャラクシー』も好評で、SNSでも反響があったので、今後もさらにパワーアップさせていきたいと思っています」

 リーグを2位で終え、天皇杯優勝を果たした2013シーズンには、日産スタジアムに最大で6万2632人が駆けつけたこともあった。だが、2018シーズンの最多入場者数は4万1686人。

「F・マリノスの魅力であるアタッキング・フットボールと我々が繰り出すイベントで、いつかまた満員のスタジアムを見たいと思っています。今はとにかくその目標に向けてやっていくのみですね」

 そう語る声と表情から再び熱い思いが伝わってきた。

安心・安全なスタジム作りを

 夢を実現させるために日々奮闘し続けるなか、矢野さんには最も優先すべきことがあるという。

「まずは、安心・安全なスタジアム作りをする。お客様にしっかり楽しんでもらい、何事もなく帰っていただく。それは、選手やスタッフも同じです。日産スタジアムでのホームゲームでは、ボランティアも含めて約1000人のスタッフが働いています。スタジアムに足を運ぶすべての人の『安心・安全』のために、起こり得る様々なシチュエーションを想定し、対策を練って連携を図っています」

 入社以来、F・マリノスファミリーとしてこれまでブレずに常に意識してやってきたと語るその表情からは、自信のようなものが感じられた。魅力あるアタッキング・フットボールと矢野さんが生み出す魅力的なイベントの相乗効果で、日産スタジアムが満員になるのはそう遠い未来ではないのかもしれない。

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