柏でキャプテンを務める大谷 [写真]=JL/Getty Images for Getty Images
ヴァンフォーレ甲府、北海道コンサドーレ札幌、大宮アルディージャとの3試合、柏レイソルは2敗1分という不甲斐ない成績に終わり、優勝戦線から脱落した。この明治安田生命J1リーグの急失速により、天皇杯準々決勝でも好調を維持する川崎フロンターレの前に屈してしまうのではないか、と嫌な空気が漂っていた。
だが柏は、天皇杯でそれまでの3試合とは全く違った姿を見せている。
前節の大宮戦からわずか中3日という短い期間で、修正を施した下平隆宏監督の手綱さばきは見事だった。加えて、チーム最年長のMF栗澤僚一は、ピッチ上の現象のみならず、別の角度から若い選手が発奮した要因を述べている。
「タニ(MF大谷秀和)が試合に出る選手のために雑用をしてくれていた。その姿を見た若い奴らは『俺たちがやらなきゃいけない』と思ったとはず」。今回の天皇杯準々決勝、負傷欠場中の大谷が“19人目の選手”としてメンバー入りし、遠征に帯同していた。
「結果的には試合を見にいくだけで間に合ったと思うけど、前泊して帯同していますからね。帯同した理由は雰囲気作りですよ(笑)」。大谷は今回の自分の立場について、笑いながら振り返っていたが、彼が思う以上にチームへの影響力は強かった。
ロッカールームの円陣の際、掛け声をかけたのは大谷だった。また、栗澤が言っていたように、大谷は雑用を進んで買って出たという。ピッチ上でチームをまとめるキャプテンが、この日は裏方として試合に出場する選手を支えていた。その振る舞いを目の当たりにした選手たちには、当然感じ取るものがあったことだろう。
「普段なら若手がやることをタニくんが率先してやってくれたり、ロッカールームの円陣でタニくんが声をかけてくれただけで、チームの雰囲気や試合に臨む意気込みも変わりました。タニくんを含めて、つねに支えてくれる人たちのために、自分たちが結果で返せたのは本当によかったです」(DF小池龍太)
「今日はチームに帯同していたタニさんの存在が大きかった。ピッチでは、みんながタニさんの不在を補おうとリーダーシップを持ってプレーできていましたし、(ゲームキャプテンを務めた)自分はその中心を掴めばいいだけだった」(MFキム・ボギョン)
前節の大宮戦では1点のリードを奪った後に、勝ちたい気持ちが先行して自陣に引き気味になり、リスクを冒すこと避け、消極的な試合運びに終始した挙句、試合終了間際にFKから痛恨の同点弾を浴びた。下平監督は、大宮戦で見られた消極的な姿勢を打ち消すため、天皇杯の川崎戦直前には「今日は意地でもつなげ」と、いかなる状況になっても自陣からビルドアップをしていく柏本来の姿を思い起こさせ、真っ向勝負を促した。そこに“19人目の選手”として帯同した大谷の振る舞いが、若い選手たちのメンタリティーや責任感に着火する役目を果たし、選手たちは強気の姿勢を90分間に渡って貫いた。ここ数試合は鳴りを潜めていた本来のスタイルが蘇り、柏は川崎を1-0で退け2年ぶりに天皇杯ベスト4へ駒を進めたのである。
ピッチに立たずとも絶大なる存在感を発揮した大谷。天皇杯で勝利した翌日、彼は全体練習に復帰した。今度はピッチ上でチームを牽引すべく、29日の川崎戦に向けて準備を進めている。
文=鈴木潤
By 鈴木潤