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【サッカーに生きる人たち】首都クラブで日本サッカー界をリードしていく|佐藤由紀彦(FC東京U-15むさし コーチ)

 かつて“和製ベッカム”と称された男は今、少年たちの夢に真剣に向き合っている。

 佐藤由紀彦(さとう・ゆきひこ)さんは1976年5月11日、サッカー王国静岡に生まれた。清水商業高校時代に選手権、総体、高円宮杯、国体と高校年代すべての主要大会で優勝を経験し、この世代のスター候補として注目を浴びた。

 正確無比な右足のキックを武器に、95年に地元の清水エスパルスに加入する。だが将来を嘱望されたアタッカーは壁に突き当たった。清水に在籍した3シーズンでリーグ戦に出場したのは2試合のみ。98年には当時JFLのモンテディオ山形に期限付き移籍を果たす。

 そこでアタッカーとしての才能をあらためて開花させると、以降、FC東京、横浜F・マリノス、清水、柏レイソル、ベガルタ仙台、V・ファーレン長崎といくつものクラブを渡り歩いた。FC東京に在籍していた01には、縦への推新力とクロスの精度を買われ、日本代表候補にも選出された。

 2014年に長崎で現役を引退し、15年からは古巣FC東京の普及部コーチとして指導者のキャリアをスタートさせた。16年途中からU-15むさしのコーチとして指導を行っている。指導者に転向して3年目。十代前半の少年たちの未来を背負い、育成という重要な任務を担う今、「僕はどうしても結果にこだわってしまいますね」と負けん気の強さをのぞかせる。

 そこには、20年に及んだプロ生活で挫折と成功の両方を経験してきたからこその信念がある。まだ現役選手としてプレーできるのではないか――そう思わせるほどの情熱を持つ青年コーチが、サッカーに取り組む現状やそれまでの経緯について語ってくれた。

中学生年代に必要なのは躍動感

 僕が指導者として中学生年代で重要だと思っているのは、躍動感なんです。サッカーに100パーセントの力を注げているのか、サッカーを100パーセント楽しめているのかはプレーを見ればわかります。

 もちろん中学生ですから学校の勉強もある。生活のすべてをサッカーに打ち込む必要はありませんが、トレーニングや試合では全力を出してほしいし、自分をアピールしてほしいですね。練習でも「どんどんアクションしてほしい」ということは伝えています。

 全国の選抜に選ばれる選手、あるいは上に上がっていけるような選手からはやっぱりそういった躍動感が伝わってきます。同じポジションで同じくらいの技術を持つ選手が2人いたとしたら、多くの指導者はサッカーに対する情熱、エネルギーにあふれているプレーヤーを使ってみたいと思うはずです。

 ですから僕は、まだ中学生なのに安全なプレーを選んだり、チャレンジしなかったりした場合は厳しく伝えます。技術的なミスや積極的なミスに対しては怒りません。でも、ミスを恐れて消極的になってしまうところは怒りますし、相手のプレッシャーがないのにバックパスしてしまう時などは「同じミスでも前に仕掛けてミスしよう」と伝えています。

 もちろん、ミスが負けにつながった場合も指摘します。ただ、一対一でボールを取られたら奪い返せるはずだし、攻撃の部分で、失点につながるミスを帳消しにできるプレーができるかもしれない。ミスをミスのままで終わらせたら成長は遅くなってしまうし、ミスを怖がらず、失敗してもすぐに挽回してやろうと思える負けん気の強さやポディティブな気の持ちようが僕が考える躍動感にもつながります。中学生のうちからこぢんまりとしたプレーで満足してほしくはないですね。

 僕が現役時代に一緒にプレーをした一流選手の共通点も、エネルギーであり躍動感だと思います。ぱっと思い浮かぶのは、やっぱり松田直樹ですね。サッカーに取り組むのも全力、私生活を楽しむのも全力、そこには自信があるから人の意見に間単に左右されないエネルギーがあるんです。そういう人間が日本代表になって世界に対峙していくのだと思いますし、僕自身もFC東京から一人でも多く世界で戦える選手を育てていけたら、と考えています。

「指導者としてやっていこう」と決意したきっかけ

 実を言うと、僕は現役の頃はセカンドキャリアのことはあんまり考えていなかったんです。選手を続けていきたいという気持ちが強かったし、実際38歳までプレーしましたからね。

 14年にJ2の長崎で現役を引退して15年にFC東京に戻ったんですが、正直に言うと、トップの試合を見たり携わったりするなかで「試合に出たいな」という気持ちが完全には捨て切れなかったんです。まだ現役時代の生活習慣を続けていて、裏方に回ったことにも慣れていませんでした。

 そんななかで、普及部の部長である川村元雄さん(編集部注:16年までFC東京に在籍)と一緒に小学校を始めいろんなところを回って仕事をさせてもらった時に「指導者としてやっていこう」という決意が固まったんです。川村さんの指導法に衝撃を受けたというか、川村さんは初めて会った子でもサッカーにあまり興味のない子でもサッカーというチームスポーツの楽しさを伝える考え方でした。現役への思いを断ち切れなかったあの時に、子どもたちの心を引きつけてサッカーを好きにさせる川村さんと出会えたことは自分のなかでラッキーだったと感じています。

 僕が今、中学生年代を指導するなかで成功体験を重視しているのも川村さんの影響だと思っています。「試合に勝てた」「一対一の勝負に勝てた」という成功体験こそがサッカーをもっと好きになるというベースになると思うし、サッカーが楽しくて好きであればしっかりと成長していくものだと考えています。僕自身の子どもの頃を振り返ってみても、つらいことや腑に落ちないこともありましたが、サッカーが大好きだし「やめよう」と思ったことは一度もありませんでした。コーチとしての1年目で川村さんと出会い、「サッカーが好きな選手を育てる」という部分がしっかりできたのは幸運だったと思っています。

真剣勝負を重ねることで自分自身の現在地がわかる

 中学生年代の育成では、個の育成とチームの成績のどちらかを取るのではなく、両方をバランスよく追い求めることができると思っています。

 個を伸ばすことがチームの勝利に結びつく部分もあるはずですし、この世代では実戦経験が重要だととらえています。たとえば内容が良くて準決勝で負けるのと、内容はそれほど良くなくても準決勝に勝つのとでは、勝利という成功体験を多く積むに越したことはないと考えています。試合の数が多ければ多いほど「できた」という成功体験も多く手にできるし、「自分はここが足りないな」という反省も多くできます。

 そういう意味でも僕自身は「個が伸びてるからOK」と満足せず、チームの結果にとことんこだわってしまう部分があります。同年代の選手たちと真剣勝負を重ねることで自分自身の現在地がわかりますし、そうすると目標が高まったり、日々の練習に取り組む姿勢も変わっていくからです。

 僕は高校サッカー出身です。だからこそJクラブの下部組織の難しさを感じることもあります。今年の2月に「ネクストジェネレーションマッチ」という試合が行われ、U-18Jリーグ選抜と日本高校サッカー選抜が戦いました。FC東京からも何人かがJリーグ選抜に選ばれましたが、試合は高校サッカー選抜に0-4で大敗してしまいました。試合が終わった後、「なんでこんなに差がついたと思う?」と聞いたら、一人の選手が「高校チームには“あうんの呼吸”がありました」と言ってきたのですが、それはまさに僕の指摘したかったことと同じでした。

 その時は高校サッカー選抜でしたが、高校生は僕らと違って朝練から始まって、学校生活も放課後の練習も、週末の試合も、それこそ3年間ずっと一緒にいる。濃密な時間のなかでプレーの特徴や性格、私生活の充実度まで把握していくわけです。もっと詳しく言えば、「こういうパスが好き」とか「こういう守りをする」という細かい部分を共有するわけで、それが“あうんの呼吸”につながっていくのだと思います。

 では、平日の3日間、1日3時間ぐらいしか一緒にいないJクラブの下部組織はどうすればいいのか。それはもうコミュニケーションの濃さで埋めていくしかありません。なぜそういうパスを出したのか、なぜそこに走らなかったのか、なぜディフェンスが遅れたのか、日々の練習のなかで自分たちで詰め合っていく意識を徹底することが重要です。お互いの特徴や考えがわかってくれば、プレーにおける信頼関係も強まりますし、それが“あうんの呼吸”を生み出すはずです。

 それから、「個を伸ばす」という部分にもつながりますが、「一対一の勝負には必ず勝つ」という意識を中学生年代からしっかり植えつけたいなと考えています。

 もちろん「チャレンジ&カバー」という考え方も大切ですが、一対一で負けなければ、他の選手はカバーではなくもっと別の選択肢を選ぶことができます。攻撃の局面だったら仕掛けてボールを取られても、すぐに奪い返してまた仕掛ける。守備の局面だったらドリブルで抜かれても、すぐにボールに食らいついていく。そういった個人の責任感というか味方に依存しない強さのようなものを中学生くらいから身につけておくことが、これからの日本サッカーには大切だと思います。練習でも攻撃の選手と守備の選手がお互いに「一対一の勝負には必ず勝つ」という強い意識を持っていれば、攻守両方のプレーの質が上がるという相乗効果があるはずです。

 メンタル的な部分で言うと、僕も現役時代は出場メンバーに絡まない時期があったので、どうしても試合に出られない子たちに目がいってしまうことが多いです。試合に勝ってレギュラーたちは盛り上がっていても、試合に出ていない子たちは、心の底から喜べていないんじゃないかと思うんです。そういう時は個別に呼んでケアしてあげることもありますし、伸び悩んでいる選手を底上げすることでチーム力も向上していくと思っています。

実体験をはめ込んでも佐藤由紀彦にしかならない

 子どもたちと向き合ううえでは、指導者になってまだまだ手さぐりのなかでクラブの立石敬之GMに言われたことをいつも肝に命じています。「自分の実体験とか経験値を選手にはめ込んだりするのは大いに結構だけど、言い方を変えればその選手は佐藤由紀彦にしかならないよ」という言葉です。つまり、指導者の物差しだけを押しつけて選手の可能性をせばめるのは禁物だということだと思います。

 世界に通じる選手、FC東京を20年も背負っていくような選手を育てるのが僕たちの仕事ですし、だからこそ指導者としてもっともっと勉強して引き出しを増やし、子どもたちの可能性を広げなければならないんです。あの時、立石GMからもらった言葉を思い出すたびに身が引き締まる思いになりますね。

 FC東京というクラブに関して言うと、やっぱり「首都クラブが日本サッカー界をリードしていくべき」という個人的な思いはあります。

「自分たちはFC東京だ、だから絶対に勝たなければいけない」というような誇りと勝者のメンタリティーは中学生年代から植えつけていきたいですね。疲れている時、あるいは苦しい時に最後の一歩が出るかどうかはそういう気持ちを持っているかにかかっていると思うんです。FC東京は「強く、愛されるチーム」を目標に掲げていますので、十代のうちからクラブのアイデンティティを強め、いずれトップチームで活躍してファンの皆さんから愛される選手を一人でも多く送り出したいと思ってます。

 指導者としての夢は、やっぱりFC東京のトップチームの監督を務めることです。やるからにはそこをめざしたいです。高校の同級生の安永聡太郎はSC相模原の監督、同じ年の宮本恒靖はガンバ大阪Uー23の監督を務めています。同世代の頑張りは刺激になりますし、今教えている子どもと一緒にトップチームでサッカーを楽しみ、ファンの皆さんから愛されれば、これほど幸せなことはないですよね。

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インタビュー・文=吉田有輝(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー
写真=森 優斗

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