2016.12.19

【コラム】奥大介のために――。宮古島に集まった豪華メンバーと事故現場に咲いた小さな赤い花

宮古島で行われた追悼試合には名波、中山、小野、久保ら豪華メンバーが集結 [写真]=青山知雄
学生時代から全国のスタジアムへ通い続けてきた経験と人脈を生かして、Jリーグを取り巻くピッチ内外のネタを探り続ける。

 12月の宮古島に日本サッカーの歴史を彩ってきた豪華メンバーが集結した。彼らの思いはただ一つ。大介のために――。

 2014年10月17日に宮古島で事故死した元日本代表MF奥大介さんをしのぶ追悼試合「宮古島ドリームマッチ」が18日、沖縄県宮古島市の伊良部カントリーパークで開催された。生前、宮古島でいつも「サッカー教室をやりたい」と話していた奥さんの思いに応える形で、昨年は「大介は本当に弟のような存在だった」というジュビロ磐田の名波浩監督を中心としたサッカースクールが開催。そして今年はスケールアップして入場無料でのドリームマッチが加えられた。

 この日は奥さんと日本代表やJリーグでともに戦い、そしてしのぎを削った選手たちが数多く顔をそろえた。中山雅史、西紀寛、福西崇史、鈴木秀人、清水範久、中西永輔、久保竜彦、小野伸二、都築龍太、山田暢久、鈴木隆行、斉藤紀由、山口素弘、上里一将、そして名波監督といったOB、現役が入り混じった顔触れだ。

 最高気温25度。12月ながら夏日となった南国に集まったレジェンドたちを見ようと、会場には約2000人もの観衆が駆けつけた。メインスタンドには奥さんがプレーした磐田、横浜F・マリノス、横浜FCのユニフォームが掲げられ、ロッカールームや選手入場のドアには、参加した子供たちから奥さんへのメッセージ色紙が貼り出されていた。

参加した子供たちから奥さんへのメッセージが寄せられた  [写真]=青山知雄

参加した子供たちから奥さんへのメッセージが寄せられた [写真]=青山知雄

 当日は汗ばむような陽気と好天の下、奥さんの遺志を受け継ぎ、かつてピッチでともに戦った同志が宮古島市の子供たち400人に大掛かりなサッカースクールを行った。一緒にボールを蹴りながら、ドリブルやトラップ、フェイントなどの細かな技術も実演指導。午後には地元の宮古高、宮古工業高を相手に追悼試合が行われ、OB、現役選手が入り混じったドリームチームが6―2で勝利。天国の奥さんに笑顔と勝利を捧げた。

 今回の一大イベントは、奥さんの三回忌に際して実現したものだった。神戸弘陵高や奥さんの地元の後輩たちが名波監督に「三回忌だから何か大きなことをしたい」と相談。それを受けた名波監督が、かつて奥さんとともにプレーした選手、そして宮古島に縁のある選手に声を掛けた。「みんなも出てくれるんじゃないかという安易な考えから声を掛けた」という名波監督だったが、OB、現役を問わず、誰一人として断る選手はいなかったそうだ。

「まずは宮古島へ行ってみたいというところから入るかもしれないし、そこもまた大介らしくてね(笑)。『とりあえず宮古島に来いや!』っていう声が天国から聞こえてくるような声掛けだったんですけど、みんなが『行きたいです!』、『行きます!』って言ってくれた。やっぱり大介のサッカーへの思いに応えたいと思っていたし、亡くなってしまったのは残念だけど、こうやってまた昔の仲間が一緒にサッカーをできる場所を与えてくれたという意味では感謝しかない。大介も天国から『良かったでしょ、ナナさん』って言ってくれていると思う。自分はもちろんですけど、みんなも非常に気持ち良くプレーできたんじゃないかな」

追悼試合は地元の高校とドリームチームが対戦した  [写真]=青山知雄

追悼試合は地元の高校とドリームチームが対戦した [写真]=青山知雄

 中山のジャンピングボレーやダイビングヘッド、久保の豪快な左足、相変わらずの強じんなフィジカルと高い技術を見せる福西の力強さ、感嘆の声しか出ない小野のテクニック、圧倒的なドリブル突破を武器にハットトリックを達成した鈴木隆……。その他にも今回のドリームマッチには、奥さんが見ても喜びそうな素晴らしいプレーの数々が散りばめられていた。そして地元高校生も一矢ならぬ“二矢”を報いる反撃弾を見せた。これには名波監督も「宮古島市でサッカーができたことで、何よりも天国にいい報告ができる。大介が空から見守ってくれたおかげ」と喜び、かつてのチームメートに思いを馳せた。

 2ゴールを決めた中山は「宮古島には初めて来ましたけど、本当に穏やかですよね。橋(伊良部大橋)を渡って来ましたけど、いいところだなと思いました。大介への思いはみんな持っていますし、それを名波が形にしてくれるので、本当に感謝しています。みんなの思いが集まって、宮古島の皆さんが喜んでくれればいいなと。これをきっかけにもっとサッカーが好きになってもらえたらと思いますし、こういった流れが続いていくことを願っています」と奥さんへの思い、奥さんが果たし切れなかった宮古島でのサッカー普及への気持ちを口にする。また、コンサドーレ札幌でプレーする小野は「奥さんには本当にサッカーをいろいろと教えてもらって感謝しています。こういう形で素晴らしい選手たちが集まって追悼試合ができて良かった」と当時の記憶を蘇らせていた。

 昨年のサッカースクール、そして今回のイベントは「奥大介 Presents」と銘打たれて行われた。宮古島に未来を見た奥さんの思いがあったからこそ実現できた企画という位置づけだ。今年で三回忌という一区切りを迎えたが、名波監督は「いろいろな人に協力していただかないとできるものではない」としながら「できる限りのことをしていきたい」と可能な限りの継続したサポートを見据える。

「元日本代表が島へ来て、新しい人生を歩もう、サッカーを普及させようとしていた中での事故だった。ここは奥大介がお世話になった土地だし、そういう意味でも宮古島市でサッカーができたことが何よりも天国にいい報告になる。こういう形でイベントが実施できたのは、大介が空から見守ってくれたおかげだと思う。今回は宮古島市長を含めた行政の方々、宮古サッカー協会、宮古テレビ、ボランティアの実行委員の方々、サポートしてくれた島の皆さん、そして子供たちを送り迎えしてくれる親御さん……。いろいろな人の協力がなければ実現しなかったし、そういう意味でもすごく良かった。やっぱり子供たちは宮古島の、沖縄の、そして日本サッカー界の宝。みんなの応援がなければ子供たちが成長しないし、これからも今まで以上に子供たちの後押しをしてあげてもらいたい。そして奥大介が頑張ろうとしたこの宮古島から、日本を代表する選手が育つことを願っています」

ジュビロ磐田の名波監督は「できる限りのことをしていきたい」と継続したサポートを見据える  [写真]=青山知雄

ジュビロ磐田の名波監督は「できる限りのことをしていきたい」と継続したサポートを見据える [写真]=青山知雄

 試合前日、そして試合後には参加メンバーとスタッフ一同で奥さんが亡くなった事故現場へ足を運んで手を合わせた。日本代表や所属クラブで公私ともにかわいがってもらった久保は「本当にお世話になったし、代表でもチームでもみんなの輪に入れずに一人でいることが多かった自分を巻き込んで、うまくチームに打ち解けさせてくれた。ダイさんがいなかったら今の自分はないと思う。本当に気が合ったし、面倒を見てもらった。まだ自分の中では消化しきれていないし、実感がない。事故現場に行っても……何とも言いようがない。言葉にするのが難しいです……」と目を赤くした。名波監督も「やっぱり事故現場へ行って、その場所を少しでも感じると、やはり感慨深くなるし、グッと気持ちが入った」と言葉を選びながら話した。

 事故現場には今も奥さんの運転する乗用車が押し倒したであろう枯れ木が残る。だが、電柱脇では石で長方形に区切られたスペースに植えられた木が、小さな赤い花を咲かせていた。事故から2年あまり。思いがけず時間の経過を感じさせるとともに、今回宮古島に集まった仲間たちの協力で奥さんの願いが少し花開いたようにも感じた。

 ドリームマッチ終了後、シャツに参加メンバーにサインを寄せ書きしてもらい、最後に名波監督に奥さんへのメッセージをお願いした。そこに書かれた言葉が、メンバーの思いすべてを物語っていた。

「お前はいつまでも俺達の仲間だ!」

 かつてのチームメートが新しい人生を歩もうとしていた宮古島。試合前夜には参加メンバーが深い時間まで思い出話に花を咲かせたという。残念ながら志半ばとなってしまった奥さんの思いは、いつまでも変わらぬ素晴らしい仲間たちが、これからもしっかりと受け継いでいく。素晴らしきテクニシャンが愛した日本サッカー界の発展のために。

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文・写真=青山知雄

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