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【コラム】清水のJ1昇格に男泣きの鄭大世…エースが語る涙の理由と有言実行の9連勝

J1昇格に涙する清水FW鄭大世 ©J.LEAGUE PHOTOS

 こんなにも人目をはばかることなく号泣したのは、いつ以来だろうか。

 記憶の糸をたどっていくと、2009年6月17日に行き着く。2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ出場を懸けた大一番。残り一枚の切符を争ってサウジアラビア代表と敵地リヤドで執念のスコアレスドローに持ち込み、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)代表を44年ぶりに世界の檜舞台へ導いた夜と同じように、鄭大世は男泣きした。

「ワールドカップ出場を決めた時と、感覚的に今日は似ていました。今日のこの流れというものは」

 清水エスパルスの一員としてが徳島ヴォルティスの本拠地ポカリスエットスタジアムに乗り込んで迎えた20日の明治安田生命J2リーグ最終節。もっとも、この日は7年前と同じく引き分けていたらJ1へ自動昇格できる2位の座を、松本山雅FCに逆転で奪われていた。

 勝たなければいけない状況は、いつしか大きなプレッシャーとなって百戦錬磨の32歳のストライカーの心を蝕んでいた。

 ホーム最終戦となった前節で、J2記録に並ぶ自身の7試合連続ゴールなどでファジアーノ岡山に勝利し、2位に浮上したのが12日。以来、彼は毎晩のように徳島と戦う夢を見てきたという。

「しかも、昨晩は0―3で負けました。夢の中でがく然としていましたね。きつかったです。この一年間は本当に……特に今週はきつかったです。自分がエースという立場だし、7試合連続で決めていたので、なおさら自分にボールが集まってくる。決めなきゃ絶対に勝てないと思っていたので」

 取材エリアで胸に溜めていた思いを吐き出すと、再び目を潤ませた。J2新記録となる8試合連続ゴールを奪えなかったどころか、決定機すらも訪れない。それでも清水は勝った。粘る徳島を振り切り、一年でのJ1復帰を決めた。決勝点は73分。鄭大世が右タッチライン際から上げたクロスに、途中出場した21歳のFW金子翔太がニアサイドに飛び込み、豪快な左足ボレーでネットを揺らしたものだ。

 後輩の中でも特に可愛がる金子を手荒く祝福しながら、鄭大世の脳裏には清水に来てからの一年半の日々が走馬灯のように駆け巡っていた。韓国・Kリーグの水原三星ブルーウィングスから移籍加入し、今現在に至る右肩上がりの軌跡は、チームが描いてきた成長曲線と完璧なまでに一致していた。

 川崎フロンターレ所属だった2010シーズン以来、5年ぶりとなる日本でのプレー。しかし、開幕から低迷が続き、時間の経過とともにクラブ史上初のJ2降格が現実味を帯びていた清水は、まさに崩壊寸前の状態だった。

「勝てないから犯人探しが始まるし、自信も失っている。J2でも勝てるか心配で、実際に落ちて戦ってみてもやっぱり勝てない。J2とはいえそんなに甘くはないし、特に最初は『ここまでベタ引きされるのか』とやりにくさも感じた。特に前半戦は一年でJ1に上がるのは正直、ちょっときついかなと」

 鄭大世自身も開幕直前に左足小指の先端部分を骨折して大きく出遅れた。33歳のDF角田誠、30歳のMF枝村匠馬と各ポジションでキーマンになるベテランをも故障で欠いた序盤戦は、ホームのIAIスタジアム日本平で開幕から4試合連続無得点が続く不振に陥っていた。

「僕を含めた3人は、やっぱりチームの中でも頼りにされる部分がある。だからこそ、僕たちがいなかったことで、チームとしての形ができなかったという部分はありました」

 ベテラン勢がようやく復帰したのもつかの間、6月8日のJ2第17節FC町田ゼルビア戦でキャプテンの大前元紀が肋骨を4本折り、さらに折れた骨で肺も傷つける大ケガを負ってしまう。だが、今シーズンからキャプテンを務める大黒柱が約3カ月間も戦線離脱したことが、鄭大世によれば「大きなターニングポイントになった」という。

「ケガをする前の(大前)元紀は結構守備よりも攻撃を重視して前残りしていたんですけど、彼がいない間にチームが勝ち続けたものだから、帰ってきた時には組織を意識したパフォーマンスを出し始めるようになった。襟を正してというか、まずチームのためにプレーすることが優先順位で上に来た。元紀はやっぱり相手にとって脅威だし、僕と元紀の2トップは相手にとっても嫌だったはずですよ。実際にゴールという結果も出していたし、攻撃だけをする2トップではなくなっていたので」

 大前の抜けた約3カ月間は、JFAアカデミー福島から加入3年目の金子を始めとする若手が必死に埋めた。特に163センチ、58キロの小さな体に無尽蔵のスタミナを搭載して守備で前線を走り回った金子は、26ゴールでJ2得点王を獲得した鄭大世に往年の得点感覚を蘇らせたという。

「自分で言うのも何なんですけど、今の僕は覚醒したみたいな感じじゃないですか。今まで全然点を取れていなかったし、3試合連続ゴールが最高だったのに、ここにきて7試合連続なんて本当に信じられない。その感覚が戻るきっかけが、元紀のケガで金子と組むようになったこと。アイツはすごく守備を頑張ってくれるから僕は前残りできて、裏を取れる体力の余力があった。やっていて『ああ、これだ』と唸ることがありましたから。試合で点を取っているのはほとんどディフェンスの裏に飛び出してのものだし、足下でもらってミドルシュートなんておそらく一つもない。そういう感覚的な部分を取り戻せたことについては本当に金子に感謝しているし、だからこそ今日、金子が結果を出したことがうれしいんです。自分の連続ゴールが途切れたこと? 全然問題ない。昇格できたからね」

鄭大世 金子翔太

 大前が戦列復帰を果たし、初めて先発メンバーに名前を連ねた10月2日のセレッソ大阪戦。後半アディショナルタイムに飛び出した20歳のFW北川航也、23歳のMF白崎凌兵の連続ゴールで、敵地で劇的な逆転勝利を収めた一戦が、鄭大世によれば二つ目のターニングポイントとなった。

 その一節前に清水は松本に0―1で惜敗。4差まで詰めた2位・松本との勝ち点は逆に7に広がり、順位も5位に甘んじていた。松本戦後に「残り9試合を全部勝てばいい。他のチームが全部勝てるわけではないので」と宣言していた鄭大世だが、大一番と位置づけていた松本に敗れたことで「実を言うと正直、心がブレていたかもしれない」と虚勢を張っていたと打ち明ける。

「だからこそ、逆に若手に支えられました。セレッソ戦で引き分け以下だったら、昇格という結果は絶対になかった。ほぼ負けを覚悟していた試合を逆転で勝ったことで、松本戦の負けを引きずらなかった。実力だけでなく勢い運も味方につけたチームが目標を達成できると思うし、今年は戦いながらそういうことを多々感じてもいたので。終盤戦は結構ベテランが活躍して、勝ち星を重ねましたけど、一番ポイントとなった試合で若手が活躍したことは、ちょうどいいバランスが取れていますよね。ベテランと若手の融合した結果が、今年はうまく試合のパフォーマンスにも出た。行ける、という予感を抱いていました」

 鄭大世が松本戦後の宣言したとおり、清水は怒涛の9連勝でフィニッシュ。松本と勝ち点84で並びながら、得失点差で大きく引き離して2位の座を死守した。ずらりと並んだ白星のうち、10月8日の町田戦から前節の岡山戦まで、リードされるどころか一度も追いつかれることなく90分間を終えている。

 ゴールを奪うべき選手、ゴールを守るべき選手がそれぞれ完璧な仕事を演じる。連勝の間には鄭大世と大前が5試合連続でアベックゴールを記録し、4試合連続完封とチーム全体が至高のハーモニーを奏でた時期もあった。

「シーズン始めに元紀とやっている時も僕は守備もして攻撃もやって、元紀がケガをして金子が守備をしてくれたおかげで得点感覚が蘇った。元紀が戻ってきて自分も守備をするけど、感覚が残っているから守備もするけど点も取れていた。今年の最後の数試合のパフォーマンスは、自分の中でもものすごく高かったと思う。チームも本当に右肩上がりにどんどん良くなったし、終盤戦は負ける気がしなかった。2点以上は絶対に取れる自信もあった。それでも徳島戦のように厳しい試合になると、やっぱり実力だけじゃなくて精神的な強さも求められる。それでもしっかり勝ってJ1に昇格できた。今日手にした勝ち点3は、J1に上がった後の戦いを考えたとしてもすごく大きな力になる。もちろん、現時点では正直、J1では絶対に勝てない。残留争いをする実力だと思うけど、去年よりは確実に良くなっている。若手の成長もそうだし、勝ち癖もついた。今のこの状態からさらに上へ行くために、自分たちの能力をできる限り引き出して、できるだけ多くの役割を習得できるように、J1で戦えるチームを目指して今から切り替えていきたい」

 ピッチ上に仰向けになって号泣し、金子たちから手を差し伸べられたシーンに、鄭大世は「ヒデさん(中田英寿氏)を意識しているなと思われるのが嫌でした」と照れながらかわした。2006年のFIFAワールドカップ ドイツでブラジル代表に惨敗し、グループリーグで姿を消したジーコジャパンのメンバーの中、中田氏だけがいつまでもピッチに仰向けになり、ドルトムントの夜空を見上げていた。当時29歳の中田氏は直後に突然の現役引退を表明したが、来シーズンのJ1開幕直後に33歳となる鄭大世の鋭い視線はすでに先を見据えている。

「まだまだ、全然大丈夫ですよ。35歳からじゃないですか、しんどくなるのは」

 J1復帰を果たした喜びに浸るのも、J2ながらシーズン26ゴールとキャリアハイの成績を残した余韻に浸るのもほんの一瞬だけ。“熱すぎる”ストライカーはさらに強い清水をJ1の舞台で見せつけるために、すでに魂を真っ赤にほとばしらせている。

文=藤江直人


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