2016.10.31

【コラム】史上最強の証明。公式戦10連勝の浦和が手にした強さの裏側を探る

浦和レッズ
セカンドステージ優勝を果たした浦和レッズ [写真]=Getty Images
スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

 ジュビロ磐田FWジェイが放った力のないヘディングシュートに、守護神・西川周作が判断良く飛び出してくる。彼が余裕を持って空中でキャッチした直後、試合終了を告げる主審のホイッスルが鳴り響いた。

 29日に行われた明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第16節。MF武藤雄樹が72分に挙げた値千金のヘディング弾を守り切り、浦和レッズが1試合を残してステージ優勝を勝ち取った。“ステージウィナー”の称号に今シーズン12度目の完封勝利で花を添えたが、エコパスタジアムのピッチ上では派手なガッツポーズも、弾けるような笑顔も見られなかった。

 キャプテンのMF阿部勇樹は、一安心したように大きく息を吐き出した。ベンチで見守っていたミハイロ・ペトロヴィッチ監督も選手たちも、15日のYBCルヴァンカップ制覇時のように狂喜乱舞していない。この時にチーム全員が共有していた「通過点」なる思いを、DF槙野智章が代弁する。

「自分たちは年間チャンピオンを目指してここまで戦ってきました。もちろんセカンドステージで優勝できたことには満足していますけれども、味方の選手たちだけじゃなくファン・サポーターからも、取るべきものは“年間チャンピオン”だというメッセージを受け取っています。いつもより喜び方がちょっと落ち着いた感じがありますが、年間チャンピオンを獲得することでそれをさらに大きな喜びに変えていきたい」

 浦和はすでに年間総合順位で2位以内を確定させ、明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ出場を決めていた。同時間帯に行われた試合で浦和を勝ち点1差で追う川崎フロンターレが勝利したことで、チャンピオンシップ決勝へシードされる年間総合1位を巡る争いは、11月3日の最終節へと持ち込まれた。

 ステージ優勝はタイトルにカウントされない。喜びを最小限にとどめた理由がまさにここにある。だが、磐田戦では10シーズンぶりのリーグ戦6連勝を達成。ルヴァンカップを含めれば公式戦10連勝という強さを誇る。2月27日のシーズン開幕から積み重ねてきた軌跡は、浦和が“新たな強さ”を身につけたことを物語っている。

 鹿島アントラーズと川崎の後塵を拝し、3位に甘んじたファーストステージで獲得した「33」を加えた勝ち点「73」は、J1が18クラブ制になった2005シーズン以降では、J1初制覇の2006シーズンと昨シーズンの「72」を上回るクラブ新記録。同じく10年前にマークした年間勝利数も磐田戦で一つ塗り替え、クラブ記録を23に更新した。

 優勝候補に挙げられながら、毎年のようにシーズン終盤で黒星を重ね、失速しては無冠に終わってきた浦和。彼らはこの“負のサイクル”とどのようにして決別したのか。槙野は「過去の失敗から多くのことを学んでいる」と、何度も募らせてきた悔しさが糧になっていると力を込める。

槙野智章

磐田戦で完封勝利に貢献した槙野 [写真]=Getty Images

「何度も失敗を経験した選手たちに新たな選手たちが加わったことでチーム力が底上げされた。前年とは違った浦和レッズが生まれている中、ペトロヴィッチ監督へタイトルを贈りたいという思いが年々増していることが、今シーズンのチームをさらに強くしていると思う」

 戦術面でいえば、槙野をして「新たにチャレンジした」と振り返させるニュースタイルが、時間の経過とともに“無双”の強さの源泉になった。それがシーズン開幕前の鹿児島・指宿合宿の途中からトライし始めたチーム全体が連動した前線からの激しいプレスだ。

 2012シーズンから指揮を執るペトロヴィッチ監督は、サンフレッチェ広島時代に完成させた「可変システム」を浦和にも導入した。基本を「3-4-2-1」に据え、マイボール時に「4-1-5」へ、相手ボール時には「5-4-1」へ素早くチェンジする戦い方だ。特に守備時には自陣にほぼ全員がリトリートして、ブロックを形成することで相手の攻撃に対応してきた。

ペトロヴィッチ

2012シーズンから浦和を指揮するペトロヴィッチ監督 [写真]=兼子愼一郎

 2011シーズンに残留争いに巻き込まれ、15位と低迷した浦和は、翌年からペトロヴィッチ監督の下で安定した成績を残すチームに変貌を遂げる。それでも2014シーズンはリーグ戦のラスト3試合で1分け2敗に甘んじてガンバ大阪にリーグタイトルをさらわれると、昨シーズンもファーストステージを史上初の無敗で制しながらチャンピオンシップ準決勝で再びG大阪に煮え湯を飲まされた。

 浦和は勝負弱い――いつしか貼られた不名誉なレッテルを何が何でも返上したい。今シーズンは守備への高い意識が数字になって表れていると槙野は声を弾ませる。

「他のチームと比べて、ウチは被シュート数が格段に少ない。セットプレーからの失点が少ないことも含めて、昨シーズンまでできなかったことがしっかりと改善されている」

 リーグ戦33試合終了時点での数字を比較すると、被シュート数は昨シーズンの「319」から「234」へと大きく減少。1試合平均が「9.67」から「7.10」へと減れば、それだけ自分たちのゴールが危険にさらされる確率も低くなる。相手のシュートをひと桁に抑えた試合も、必然的に昨シーズンの「17」から「26」へと激増。例えばファーストステージ第11節の大宮アルディージャ戦は2本、セカンドステージ第14節のG大阪戦は3本のシュートに抑えて、ともに零封している。このシーズン中、守護神の西川はこんな言葉を残している。

「自分のところにそれほど危険なシュートが飛んでこない点に、みんなの寄せの速さや球際における強さがいかにすごいかが表れていると思う」

西川周作

DF陣の貢献を称える守護神・西川 [写真]=Getty Images

 勝ち点と勝利数に加えて、実はクラブ記録をもう一つ更新する可能性がある。現時点の総失点は「27」とダントツの少なさだが、横浜F・マリノスをホームに迎える最終節でも無失点を記録すれば、2006及び2007シーズンの「28」を更新。同時に2005シーズン以降の年間優勝クラブとしても最少記録となる。

 自陣に引いて守るのではなく、前線からアグレッシブに攻めながら守る。それでいて危険なシーンを招きかねないエリアでのファウルは極力犯さない。激しさと冷静さを融合させたスタイルが完成の域に達しても、それでも槙野はまだ道半ばを強調する。

「なし遂げられれば非常にうれしいことではありますけれども、僕たちは記録のためにやっているわけではないので。まずはマリノスに勝って、チャンピオンシップへ向けていい結果を出すことが、僕たちに求められている仕事。その上でしっかりとゼロに抑えるところにつながると思うので」

 メンタル面での変化は積極的な声掛け、もっと踏み込んでいえばお互いに奇譚なく意見をぶつけ合う雰囲気が生まれたことが挙げられる。その象徴がホームにFC東京を迎えた6月22日のファーストステージ第13節のハーフタイムだったと槙野は振り返る。

 前節まで鹿島、G大阪、広島にまさかの3連敗を喫し、ファーストステージ優勝争いから完全に脱落していた浦和は、FC東京にも2点のリードを許し、失意のどん底でロッカールームへ戻っていたかと思われた。

「あのハーフタイムで見せた選手たちの表情やポジティブな声掛けですよね。非常に苦しい状況でも試合を楽しんでいる感じのロッカールームでした。ああいう声が飛び交っていなかったら、今の結果はなかったというか、ここまで大きく生まれ変われなかったと思います。もしFC東京戦で負けていたらペトロヴィッチ監督の進退問題も出たと思いますし、チーム内の分裂だけでなく、ファン・サポーターとの分裂も考えられた。個人的には今シーズンのターニングポイントだったと思っています」

 おそらくは5月25日に行われたAFCチャンピオンズリーグ ラウンド16の第2戦でPK戦の末にFCソウルに屈してアジア制覇の夢を断たれたショックが尾を引きずっていたのだろう。しかし、このままでは昨シーズンまでと何ら変わらない。「二度と同じ過ちを繰り返したくない」と念じる心の叫びが、浦和を土壇場で蘇生させた。件のFC東京戦は後半、槙野の2ゴールとFW李忠成の決勝弾で鮮やかな逆転勝ちを飾っている。

 セカンドステージでは背中でチームを引っ張ってきたキャプテン阿部、そして不完全燃焼の思いを手土産にリオデジャネイロ・オリンピックから帰国したFW興梠慎三という、どちらかと言えば寡黙なベテラン勢が試合中に積極的に声を出すようになったと槙野は笑う。

阿部勇樹

キャプテンとしてチームを支える阿部勇樹 [写真]=Getty Images

「いつも声を出してきて、なかなか反応がなかった僕から見れば、すごく大きな進歩なのかなと。今まで怒鳴るというか、そういう声出しをしていかなった選手たちが、今では『集中だ!』とか『ラインを下げるな!』と具体的な声を出せるようになった。自分のプレーに加えて周りの味方に声を掛けることで、チーム全体の士気だけでなく個人の集中力もアップする。苦しい時間帯ならば、なおさらですね」

 厳しい声は選手個人にも向けられるようになった。例えば、高木俊幸。清水エスパルスから加入2シーズン目の25歳は、ファーストステージで先発ゼロ、途中出場2試合で出場時間はわずか33分間に甘んじていた。あまりに不甲斐ない状況を打開しようと、ロッカーが正面に位置する槙野に対して「移籍を考えている」と打ち明けたこともある。だが、ドリブルを含めて、シャドーストライカーに求められる武器をハイレベルで搭載している高木へ、槙野は心を鬼にして苦言を呈し続けてきた。

「今のままじゃ点を取れない。この浦和でポジションを確立できないぞと。彼がメンバー外になった時も『今のプレーをしていたら当たり前だ』と、あえて強い口調で叩きました。彼も『お前に言われたくない』と、歯がゆい気持ちを抱いていたと思いますけど、彼ならやれると僕は思ったので」

 槙野だけではない。中盤で攻撃を司るボランチ柏木陽介も、高木の耳に入ることを承知の上で「トシ(高木)に対しては試合中、いつもキレている」と打ち明けたこともある。

「守備が全然できていない。100点満点で10点くらい。得点に関しては能力が高いわけだから、ちゃんとやってほしい気持ちがある。自分がボールを失った時はちょっと行くけど、基本的にはボールウォッチャー。そういうところをちゃんとしないと。うまいだけでは、他のチームに行っても試合には出られない。攻撃でも動き出しの部分が雑。何もかも(相手に)分かりやすすぎる」

 対照的にJ2の京都サンガF.C.からの移籍で自身初のJ1に挑んでいる24歳のMF駒井善成は、キャンプで同部屋となった槙野に浦和のやり方などを積極的に訪ねてきたという。

「(駒井は)今までの浦和の試合をしっかりと見ていたし、他の選手たちに対しても『どのような動きをすればいいですか』と積極的にコミュニケーションを取っている姿を見てきたので、フィットするのに何ら時間は掛からないと思っていました」

 先輩たちからの“檄”を刺激に変えた高木は、セカンドステージだけで11試合に先発。ノックアウトステージから登場したYBCルヴァンカップでは、5試合で4ゴールを挙げて大会得点王に輝いた。駒井も“京都のメッシ”と称された得意のドリブル突破を右ワイドで何度も発揮。磐田戦では右サイドを深くえぐって浮き球のクロスを送り、武藤の決勝ゴールをアシストしている。

「一対一の場面で勝つのが僕の仕事。僕は今シーズンからですけど、ミシャ(ペトロヴィッチ監督)が練習から目を光らせている。少しでも調子が悪かったらすぐに外されるので、そういう緊張感をみんなが持っていることが、チームにいい流れをもたらしていると思う」

 大仕事をなし遂げた駒井が充実した表情を浮かべれば、3本のシュートを放ちながらゴールに絡めず、68分にFW李忠成との交代でベンチへ下がった高木は不完全燃焼の思いを次戦への糧に変える。

「少し周りを気にしすぎている部分がある。もうちょっと強引さを出すというか、欲を持って自分で行ってもいいかなと思う」

高木俊幸

先輩からの檄を刺激に変えた高木俊幸 [写真]=Getty Images

 試合に絡めるようになったからこそ生まれるポジティブな思考回路。リオ五輪で遠藤航が抜けた穴を補って余りあるプレーを見せた35歳のDF那須大亮が控えれば、高木にポジションを奪われた李は「自分が途中から入って、点が決まっていることが多いからね」と腐ることなく自分の仕事に徹する。磐田戦で駒井へパスを出したのは、その4分前に投入されていた李だった。

 チーム内の競争が煽られ、誰が出ても遜色のないプレーを表現できるようになった成果は、ペトロヴィッチ監督の采配にも表れている。これまではなかなか交代のカードを切らず、一部のファン・サポーターからは「遅い」と揶揄されたこともあるが、今シーズンは2人同時の交代を決断した試合が「10」と昨シーズンの倍を数える。

 ファーストステージ第16節の広島戦では、3人同時に交代させて周囲を驚かせた。猛暑の8月には62分で交代カードを使い切り、ボランチからシャドーにポジションを上げた柏木に「ちょっと勘弁してほしい。足がつったら大変なことになる」と心配を抱かせた試合もある。

「各ポジションで大きな争いが繰り広げられているのが、今シーズンの一番の強みだと思います。リスクを背負った交代が多くなったのも、それだけベンチに控えている選手の層が厚くなり、誰が出ても質の高いサッカーができるという自信があるからでしょう。チーム内にいい意味での競争が芽生えた中でYBCルヴァンカップを制して、チームが新しい方向へと変化を遂げている途中ですが、手にできるものはしっかりと獲得して、今シーズンのレッズは違うというところを見せていきたい」

 槙野が最後に静かに吠えた。横浜FM戦で白星を挙げれば、勝ち点「76」で昨シーズンに広島がマークした「74」を、年間勝利数「24」で2010シーズンの名古屋、2011シーズンの柏、昨シーズンの広島の「23」を更新するJリーグ新記録となる。そして前述したように、完封すれば年間最少失点という“勲章”も加わる。唯一無二の目標に掲げてきた年間王者へのマイルストーンをクリアしていくたびに、心技体のすべてで進化を続ける浦和が「Jリーグ史上最強」の称号を手にしていく。

文=藤江直人

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