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【コラム】大逆転の自動昇格へ――絶好調・清水を支える“危機感”と“進化”の正体を探る

北九州戦でゴールを祝う清水エスパルスの鄭大世 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 駿河湾を一望できる丘陵の中腹にそびえるIAIスタジアム日本平。ここを中心とするエリアは23日15時過ぎだけ、携帯電話の電波がいわゆる“ビジー状態”に近くなっていたのではないだろうか。
 ギラヴァンツ北九州を迎えた明治安田生命J2リーグ第37節で2-0と快勝した清水エスパルス。今シーズン初の4連勝に、同じく今シーズン初の3試合連続完封勝利で花を添えた試合終了後、1時間遅れてキックオフされていた3位セレッソ大阪と2位松本山雅FCの動向を、選手を含めたチーム関係者やメディア、家路を急ぐファン・サポーターが、スマートフォンでこぞってチェックしていたからだ。

 後半アディショナルタイムにダメ押しとなるPKをゴール右へ確実に決め、3試合連続弾で得点王争いを独走する21ゴールに伸ばしたFW鄭大世も、しっかりとライバル勢の最新スコアを把握していた。75分過ぎまでC大阪、松本がともにリードを許していたことへの感想を求めると、ミックスゾーンへ出てくる直前まで最新情報を確認していたのだろう。すかさず「松本は追いつきましたよ」という言葉が返ってきた。

 首位の北海道コンサドーレ札幌を含めた上位との直接対決を終えた清水は、残り6試合をすべて勝つという“人事”を尽くした上で“天命”を待つしかない。自力でJ1に自動昇格する可能性がなくなっている状況で迎えた北九州戦の32分。全体が自陣に引き、カウンターを狙ってくる相手のブロックをこじ開けたのは、キャプテンのFW大前元紀だった。

 右サイドバックの三浦弦太から右タッチライン際でパスを受けたMF石毛秀樹が、すかさずクロスを入れる。ターゲットはファーサイド。ゴール中央にポジションを取っていた大前はボールを見上げながら、左サイドに鄭大世とMF白崎凌兵の2人が詰めてきていることを確認する。

「折り返しが来る」と考え、どんなボールに対しても、瞬時に反応できる体勢を整えた直後だった。鄭大世に競り勝つように、宙を舞った白崎がクロスを頭で折り返す。ボールウオッチャーと化していた北九州のセンターバック福田俊介が慌てて対応したが、素早く福田の前に入り込んだ大前が右足アウトサイドでコースを変え、ボールをゴール右隅へと流し込んだ。

「相手は守ってくると分かっていたし、だからこそ『絶対に崩して点を取ろう』という話をみんなでしていた。相手のセンターバックがボールウオッチャーになるという情報も聞いていたし、最近はいいセンタリングが上がってくる中で、石毛がいいボールを入れてくれた。テセさん(鄭大世)とシラ(白崎)もいいところにいたので、いい場所でうまく反応できたのは良かったと思います」

 大前もこれで3試合連続ゴール。つまり、清水が誇る強力2トップによるアベック弾が3試合連続で炸裂したことになる。両エースの揃い踏みは今シーズン6度目。4月17日のカマタマーレ讃岐戦こそ2-2で引き分けたが、以後は5連勝と“不敗神話”も継続中だ。

 左肋骨を4本も折り、肺挫傷まで負った大前が約3カ月ぶりにピッチへ戻ってきたのが9月11日のモンテディオ山形戦。しばらくは途中出場が続き、その間に松本との直接対決で苦杯もなめさせられたが、先発復帰した2日のC大阪戦から清水の白星街道が幕を開けている。また、大前の復調と息を合わせるかのように、夏場にクラブタイ記録となる5試合連続ゴールをマークした後に5試合連続無得点と鳴りを潜めていた鄭大世も完全復活。チームはまさにラストスパートの体勢に入ったと言っていい。

 データ上では1シーズンでのJ1復帰へ向けて右肩上がりに転じたように見えるエスパルス。だが、この現状にも大前は全く満足していなかった。

「リードしているのに、相手の流れになる時間帯が長すぎますよね。ホームだと勝っていても、ゆっくりボールを回していると『攻めろ!』という雰囲気になるので、ちょっと難しい部分はありますけど、もう少し自分たちの時間帯を増やせれば必然的に相手の時間帯も減る。早めに追加点を取れればいいんですけど、やっぱり途中で焦れちゃうんですよね。パスをつないでいるだけの状態になるというか。リスクを冒すことは大事なんですけど、そこで失うのが怖いから、結局、消極的なミスから相手ボールになるパターンが多いので」

 FC町田ゼルビアを2-0で下した8日の第35節も、21分に大前が先制点を挙げながら、ダメ押し点は90分に鄭大世がPKを決めるまで待たなければならなかった。普段からPKの練習を欠かさず、「絶対に決める自信がある」と豪語する元朝鮮民主主義人民共和国代表FWも、「ボールは支配しているけど、相手を圧倒しているわけじゃない」と現状に対する思いを大前にシンクロさせる。

「J1を見越したら(試合運びの部分は)ダメでしょう。今日も後半になると、センターバックによる無意味な横パスが多かったですよね。90分間を通して、無意味な横パスなどを引っかけられたら(J1では)失点につながると思うので。(小林伸二)監督は『昇格の先を見ている』といつも言いますけど、それに対しては僕も同感です。雑なパスは絶対に出さないことが鉄則だし、無理して攻めてカウンターを食らうことが一番怖いんだけど、それでも後半に攻めあぐねる時間帯が多すぎる。やり方自体は間違っていないけど、もうちょっとチャンスを作りたいというところはありますね」

 1シーズンでのJ1復帰を合言葉に、小林伸二新監督の下、クラブ史上初となるJ2に臨んだ今シーズン。大前を始めとする主力選手の故障離脱が相次ぐ中で、清水は試行錯誤を強いられながらの戦いを繰り返してきた。

 順位を見ても、大前が戦線離脱した6月17日の町田戦を終えた段階では9位。J1への自動昇格どころかJ1昇格プレーオフ圏内にも入り込めていなかったチームが、大前が復帰した山形戦では5位にまで上昇している。これは負傷するまで12ゴールを挙げて得点王争いを独走していた大黒柱を欠き、長期離脱も確実視されたことで芽生えた危機感が、プラスに作用したからに他ならない。

 その象徴がユースから昇格2シーズン目となる二十歳のFW北川航也。すでに8ゴールをマークしてエース不在の穴を埋め、JFAアカデミー福島から加入3シーズン目の21歳金子翔太も、162センチ58キロの小さな体を最前線で躍動させ、攻撃だけでなく守備でもチームにスイッチを入れてきた。

 チームの総合力が確実にアップしていることを物語っているのが、やはり1日に行われたC大阪戦だろう。1点ビハインドの後半終了間際に途中出場していた北川が起死回生の同点ゴールを決め、94分には左サイドのレギュラーとして完全に一本立ちした23歳の白崎が豪快なミドル弾をゲット。前節で松本に負けていたチームはまさに土壇場で、復活の雄叫びを上げた。

「やっぱりあの試合で逆転勝ちできたのが大きいし、チームとしても良かったと思う」

 北九州戦後に声を弾ませた大前は、自身が不在だった3カ月間にチームが急成長を遂げていることに刺激を受けたと明かす。心技体のすべてで離脱する前よりも強くなっていないと試合に絡む資格はない--離脱中に募らせた危機感が、復帰後の7試合で4ゴールと再び量産体制に入ったエースを支えている。

 現時点でもケガ人の連鎖は続いている。右サイドで存在感を放ってきた枝村匠馬はすでに練習合流しながらも最近5試合で、右サイドバックの六平光成は4試合で、ボランチの河井陽介は3試合連続で、それぞれベンチにも入っていない。特に枝村と河井が機能した夏場の戦いを「チームが完成形に近づいていた」と説明する鄭大世は、チームの成長に関してこう続けた。

「枝村は相手の間でうまくボールを受けて前線の選手を円滑に使っていたので、彼がいなくなった当初はやっぱり戸惑う部分がありましたよね。河井がボランチに入るとボールを支配した上で相手を圧倒できていたし、何よりも最前線の僕がボールにたくさん触れていた。ただ、ゲームを作れる選手がいなくなった中で、今は石毛のところにボールが行けば何とかセンタリングを上げてくれるという力強さがあるし、本田拓也という守備的なMFが入れば相手の攻撃をしっかり止められるから、今日のようにほとんどチャンスを作らせない。変化が必要となり、新しい戦い方に慣れた中で最善の形が今日の北九州戦や前節のツェーゲン金沢戦で出たと思います」

 枝村の代わりに右サイドに起用された22歳の石毛が、北九州戦では先制点を呼び込む好クロスを送った。中盤のやや下がり目にポジションを取った本田は、2013シーズンの途中まで2年半在籍していた鹿島アントラーズが“常勝軍団”と呼ばれた理由を紐解きながら、戦う舞台はJ2であっても、同じような雰囲気が漂い始めていると感じている。

「強いチームは、たとえ試合内容が悪い時でも勝つことができる。鹿島も相手をゼロで抑えて、セットプレーなどで取ったゴールを守り切ることがあった。そういう試合ができていることは、強くなっているんじゃないですかね。ただ、成長していてもJ1に上がれなければ意味がないし、もちろん上がるだけじゃダメ。J1で優勝争いに絡めてきたら、J2はムダじゃなかったということになってくる」

 大前と鄭大世の合計ゴール数37は、北九州の総得点38とほとんど変わらない。「これだけ取っているのなら、もっと上の順位にいればと思いますよ」と大前が苦笑いすれば、鄭大世も71を数えるチーム総得点、+38という得失点差がリーグで群を抜いている点に「得失点差で僕たちが負けることはない。だからこそ、スコアではなく勝ち点3が欲しい」と残り5試合を見据える。

 北九州戦の取材の輪が解けた後に、松本とC大阪がそれぞれ引き分けた結果が伝わってきた。勝ち点を69に伸ばした清水は、これで同68のC大阪を抜いて3位に浮上。一時は背中が遠くなりかけていた同72の松本にも勝ち点3差、つまり“1ゲーム差”に肉迫した。また、今節で東京ヴェルディに屈し、札幌ドームでの不敗神話にピリオドが打たれた同78の札幌も、直近の4試合で1勝2分け1敗と勝ち点を伸ばせていない。残り5試合。J1へ自動昇格できる2位以内を巡る戦いも、予測不能のドラマが幕を開けようとしている。

「僕と(大前)元紀が点を取っていると言われますけど、どちらかと言えば無失点に抑えていることのほうが大事。一つでもクリーンシートにできていなかったら、引き分けていた試合があったかもしれない。その意味では、守備陣にもっとフォーカスしてほしいですよね。4連勝で『負ける気がしない』というのは刹那的な感情。残り5試合で一つでも引き分けたら、僕たちは苦しくなる。その意味では危機感しかない。とにかく目の前の試合で勝ち点3を積み上げていくこと。それができれば何かが起こるかもしれないし、起こらなければしょうがないことなので。他会場の結果がどうこうよりも、僕たちはまず自分たちと戦っていかなければならないので」

 鄭大世は上位陣の結果よりも、今までどおりに“人事を尽くして天命を待つ”姿勢を強調した。それでも、何度も襲ってきた危機感をバネにしながら若手を中心にチームの総合力をアップさせ、今もなお「J1復帰」と「J1復帰後」の二つの“果実”を貪欲に追い求める清水が放つ輝きが、胸突き八丁にさしかかったJ2戦線で眩さを増していることだけは間違いない。

文=藤江直人

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