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【コラム】「最後までもつれる」 再び降格圏内転落も力強く前を向く名古屋DF闘莉王の葛藤と信念

降格圏転落も前を向く名古屋DF田中マルクス闘莉王(中央) [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 勝ち点3を手にできなかった悔しさと、勝ち点0で終わらなかったことへの安堵感。胸中に抱く思いを白星と黒星との間で何度も往復させながら、名古屋グランパスDF田中マルクス闘莉王は試合後の取材エリアに姿を現した。

「どちらが勝ってもおかしくなかった。ウチは決定的なチャンスも多かったし、後半はバタバタになった部分もあった。あっちに運が転がったのもあった。ただ、今日で何かが決着するわけではないので。一番良くないのが、ここで負けてしまうこと。磐田さんがこの状況から脱出するような感じになるので。今日の磐田さんの出来は素晴らしかったと思うし、一方で俺らの出来があまり良くなかったところもあった」

 豊田スタジアムにジュビロ磐田を迎えた22日の明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第15節。キックオフ前の年間総合順位で勝ち点29の15位名古屋に対して、磐田は同32の13位。名古屋はこの試合の勝利で磐田と順位が入れ替わる一方、同28でJ2降格圏に位置する16位ヴァンフォーレ甲府の足音もひたひたと聞こえていた。

 一つの白星が各チームの置かれた状況を劇的に変えるサバイバルレース。心と体を激しくすり減らす直接対決で先手を奪ったのは、ホームの名古屋だった。

 44分、右サイドをMFハ・デソンとFWシモビッチのコンビネーションと個人技で完全に崩し、縦に抜け出したシモビッチがゴールライン際から折り返す形でクロス。ここに“あうんの呼吸”で飛び込んできたのは、左サイドバックで起用された磯村亮太。ペナルティエリア内のほぼゴール正面から放たれたシュートは磐田DF山本康裕にブロックされたが、その際にボールが山本の左手に当たる。PKを告げる主審のホイッスルが鳴り響いた直後から抱きしめて離さなかったボールを、シモビッチがゴール右隅へ豪快に蹴り込んだ。

 今シーズンから加入した、スウェーデン出身の199センチの巨漢ストライカーにとってはファーストステージ第16節柏レイソル戦以来、実に16試合ぶりとなる待望の10ゴール目。だが、長い眠りから覚めたエースの雄叫びとともに優位に立てるはずだった展開は、後半開始直後の47分に暗転する。

 自陣中央からFW永井謙佑が強引な突破を試みるも、横パスを磐田のボランチ宮崎智彦に必死に食い止められる。前方へのクリアに思われたボールは、不運にも右タッチライン際で張っていたMF太田吉彰の下へ。

 これが闘莉王をして「あっちに運が転がった」と言わしめたシーンとなる。

 フリーの状態から太田が放ったファーサイドへのクロスに、190センチの長身ストライカー、ジェイが完璧なタイミングで飛び込んでくる。181センチのDF竹内彬の背後から、頭一つ抜け出した状態で放たれたヘディング弾は、ゴール左ポストとGK楢崎正剛の体にまるでピンボールのように相次いで弾かれ、最後は着地したジェイの左足に当たってゴールへと吸い込まれてしまった。

「相手も攻勢に出てくると考えて、後半の立ち上がりと最後の10分間は『特に集中しよう』と声を掛けあった中での失点だったので、ちょっとダメージも大きかった。立ち上がりだったので、はっきりしたプレーが必要だったけど、自分たちのミスだったので、もう切り替えてやるしかないと」

 キャプテンのMF田口泰士が悲壮感漂う試合中の思いを明かせば、ニアサイドで上空を通過する太田のクロスを見上げるしかなかった闘莉王は自身が逃した決定機を悔やんだ。

「デカい人(ジェイ)がいると、ああいうのが入ってしまうこともある。運が味方しなかったし、ウチが2点目を取れなかったことがすべて。前半の最後も俺がヘディングをミスしていたし」

 1点リードで迎えた前半アディショナルタイムに獲得した右CK。田口が狙ったファーサイドへ、シモビッチをおとりにしながら背番号4がダイブしてくる。頭で捕らえた強烈な一撃は磐田ゴールを急襲したが、ややコースが甘く、GKカミンスキーの懸命のセーブに防がれてしまった。

 電撃的な復帰から5試合目にして待望の初ゴールかと駆けつけたファン・サポーターを総立ちにさせたシーン。このプレーではネットを揺らせなかったが、昨シーズン限りで名古屋を退団し、故郷ブラジルで自主トレを積んでいた闘将の帰還を境にチームは一変。小倉隆史前監督の下でクラブワーストとなる17試合連続勝ち星なしの泥沼にあえいでいた名古屋は鮮やかな変貌を遂げてきた。

 復帰初戦となった9月11日のセカンドステージ第11節アルビレックス新潟戦でチームは約4カ月ぶりとなる白星をゲット。続くガンバ大阪戦は苦杯をなめたが、一時は同点に追いつく粘りを見せ、その後はベガルタ仙台とアビスパ福岡に連勝。特に後者には大量5ゴールで圧勝し、1シーズンでのJ2降格へ実質的な“引導”を渡した。

 惜しむらくは、インターナショナルマッチウィークとYBCルヴァンカップ決勝開催のために、10月1日の福岡戦から3週間もの中断期間が生じたことか。静岡市内で6日間の短期キャンプを実施した名古屋だったが、各チームとも条件は同じとはいえ、“闘莉王効果”に導かれた勢いを削がれた感は否めない。

「簡単に行くと思った人が多かったかもしれないですけど、そうじゃないということでしょう」

 不惑を迎えた守護神、楢崎は静かな口調でこう磐田戦を振り返った。中断前の一戦で磐田は残留を争う新潟にホームで苦敗を喫している。しかも、名波浩監督をして「非常に憶病なサッカー。後半は特に攻めるのか守るのか分からないような状況を自分たちで作り出してしまった」と憤慨させた体たらくぶりを、御殿場市内で実施した3日間の短期キャンプで鮮やかに修正。ストロングポイントとなるサイド攻撃を右の太田、左のアダイウトンに託し、特に後半は厚みのある攻撃を何度も仕掛けてきた。

 生きるか、死ぬかのJ1残留争い。残りはわずか3試合。一気に高まってきたプレッシャーが時間の経過とともに心と体を蝕んでいく状況で、闘莉王は仲間たちへの奮起を促さずにはいられなかった。

「多少みんな堅くなってしまうところもあるし、思い切ったことができなくなるところもある。後半の立ち上がりに失点してしまったことで、展開的にも苦しい展開になったこともある。まあ、(自分の復帰から)よくここまで来られたと言えばそれまでだけど、ここからもうひと踏ん張りしなきゃいけない。残り2試合、どうにかしてやらなきゃいけない。どっちが勝ってもおかしくないゲームで、最後は磐田さんが勝ち点1でもいいと考えたかもしれないですけど、最後の10分くらいは自分たちのサポーターの声援を力にして、もうちょっとワクワクできるような展開に持っていきたかった。何人か足を攣らせていたし、こういう状況だとどうしてもパスを控えてボールを蹴るシーンが多くなっていたので」

 ここでも本音が、白星と黒星の間で激しく揺れている。最後の最後であわや黒星かと思わされるシーンもあった。後半アディショナルタイム、ハーフウェイライン付近から力強く仕掛けた磐田MF松浦拓弥のドリブルに対し、名古屋の選手たちが後ずさりしていく。「常に前を向く松浦の意識が、相手を必ず15メートル以上も帰陣させていた」とベンチから注目していた名波監督の期待に応えるかのように、ペナルティエリア手前で松浦がシュート体勢に入った直後だった。

 誰もプレッシャーを掛けに行かない状況を闘莉王が一変させる。とっさに飛び込んでの捨て身のシュートブロック。わずかに背番号4のすねの部分にかすった一撃は威力を弱め、コースを微妙に変えて楢崎の正面へと飛んで事なきを得た。

 元日本代表監督の岡田武史氏(現日本サッカー協会副会長/株式会社今治.夢スポーツ代表取締役)が、横浜F・マリノスを率いて2003、2004シーズンのJ1連覇を達成した時にこんな言葉を残している。

「誰にでも目の前に運が流れている。それをつかみ取るためにも、一本のダッシュを怠ってはいけない」

 闘莉王が見せたシュートブロックは、まさに“運をもぎ取る”ための泥臭さであり、魂のほとばしりでもあった。

 今シーズンは残り2試合。対戦相手は3位のヴィッセル神戸、そして今節でJ2降格が決まった湘南ベルマーレだ。最後の最後で何よりも逆境とプレッシャーをはね返すメンタルの強さが求められると闘莉王が静かに吠える。

「(磐田戦は)簡単にはいかないと改めて感じさせられた試合だったけど、俺から言わせてもらえれば、(メンタルは)非常に大切なところ。(パスコースに)顔を出さなきゃいけないところで顔を出さない、あるいは責任を持ってパスをつながなきゃいけないところで逆に蹴るとか。こういう状況だからこそ、そういうところの判断が難しくなるのもある。まあここからです。あとひと頑張りを入れられるかどうか」

 全9試合が14時にキックオフを迎えた今節。頂点を狙うチーム、そして残留を懸けるチームは時に信じられない力を見せた。セカンドステージ制覇と年間総合順位でトップを狙う浦和レッズは、終了間際に飛び出したFW興梠慎三の一撃で新潟を撃破。あと数分で残留に向けて貴重な勝ち点1を上積みできた新潟は、無念の黒星で勝ち点30のままにとどまった。

 そして甲府。こちらも同じく終了間際に飛び出したFWドゥドゥの劇的な決勝ゴールで福岡に逆転勝ち。6試合ぶりの白星を敵地で手にして勝ち点を31に伸ばした。

 わずか数十秒の間に目まぐるしく推移した残り1枠の残留争い。勝ち点3差に4チームがひしめく状況は変わらないものの、勝ち点33の13位磐田に次いで、同31とした甲府が14位に順位を上げて降格圏を脱出。勝ち点30で新潟と名古屋が並び、得失点差でわずかに及ばない後者が再び降格圏に転落した。それでも、闘莉王は努めて前を向く。

「最後までもつれるし、(いずれにしても残留は)最後の試合で決まる。新潟が負けて、俺らが引き分けて、磐田さんは抜け出せなかったけど、次に俺らが勝つことで(新潟と磐田を)巻き込むことができる。最後まで泥臭くいくしかない」

 新潟はG大阪、サンフレッチェ広島との対戦を残し、磐田は次節でセカンドステージ優勝をかけた浦和をホームに迎える。未曾有の展開と化したJ1残留争い。ここから先は、一瞬でもスキを見せたチームが転落の一途をたどる。ボスコ・ジュロヴスキー新監督に乞われ、約9カ月ものブランクを乗り越えて復帰を決意した自身の存在価値を懸けて、1993シーズンのJリーグ元年からJ1の舞台で戦い続けてきた“オリジナル10”の名古屋を闘莉王が引っ張っていく。

文=藤江直人

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