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【特別連載】広島スタジアム問題のなぜ~第5回 新スタジアム建設のために考えるべきこと〜

平和への想いとともにサンフレッチェを世界へ。旧市民球場跡地で新スタジアム建設を訴える広島サポーター [写真]=中野香代(紫熊倶楽部)

 紛糾し続ける広島の新スタジアム建設問題。そのバックボーンにはいったい何があるのだろうか。

『サッカーキング』では、今回の新スタジアム建設問題に関する歴史的な背景を知ることで理解を深め、今後の方向性を明確にしていくために、広島在住でサンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』で編集長を務める中野和也氏に、「広島スタジアム問題のなぜ」というテーマで全5回の連載企画を依頼することにした。

 最終回となる第5回は、新スタジアム建設のために考えるべきことを考察していく。サッカースタジアムの存在意義や利用法、候補地決定に向けて必要な論点、そしてスタジアム建設問題で再認識した“広島らしさ”と“広島愛”とは――。

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 新しいスタジアムは、自立しなければならない。

 税金を投入して運営することは極力廃し、やむなしの場合は幅広い市民に積極的な寄与が可能な幅広い機能性を持つべきである。スタジアムが「お荷物」になることだけは避けねばならない。そうではなく、利益を創出する存在でなければならない――。

 これが最近のスタジアムトレンドであり、筆者自身も大いに共感するところであるが、この「スタジアムで利益を出す」という考え方は、サンフレッチェ広島の久保允誉代表取締役会長が2010年時点で言葉にしていたものだ。

「これからはスタジアムで収益を挙げる時代なんだよ」

 この言葉を聞いた時、具体的なイメージがつかなかったことは事実だが、今やこれは当然の認識となった。

 旧広島市民球場跡地でのスタジアム建設において「敷地が狭いために複合型スタジアム建設が難しい」という指摘があった。それが故に「スタジアムとして利益を出すのは難しいのでは」という意見もあった。だが、そんな蒙を啓いてくれる存在がある。それが、マツダスタジアムである。このスタジアムが「単体」として利益を出しているのかどうかではない。可能性について見せてくれたということである。「スタジアムで利益を出す」というと、ホテルやショッピングモールの併設といった『複合施設』を思い浮かべるが、そんなことをしなくてもビジネスは展開できそうということなのだ。

2009年に開場したMazda Zoom-Zoom スタジアム広島 [写真]=秋田陽康

2009年に開場したMazda Zoom-Zoom スタジアム広島 [写真]=秋田陽康

 昨年、筆者は知り合いの結婚披露宴に招待を受けた。式場はマツダスタジアムである。このスタジアムには「パーティフロア」が存在し、25名から200名までのパーティが開催可能。使途も自由で、当然、披露宴も開催できる。トイレはこのフロア専用で広々としており、試合も特等席で見られるとあって、招待客は最初からテンションが上がりっぱなしだ。いつもは長く感じられる披露宴も、あまりの楽しさにあっという間に時間が過ぎ去った。長くなりがちな挨拶も、とにかく野球を見たいわけだから簡潔に終了するという副産物もあった。

 マツダスタジアムには、貸し切りのパーティを開催できるスペースが他にも「ラグジュアリーフロア」、「パーティベランダ」、「パーティデッキ内野」、「パーティデッキ外野」、「スポーツバー」、「びっくりテラス」、「パーティグリル」、「ちょっとびっくりテラス」とあり、全席トータルで700名弱の団体客を収容できる。

 例えばパーティフロアを披露宴で貸し切ったとしよう。フロアの利用料金は70万円。別途必要な料理代金で一人4000円のデラックスコースを注文し、最大200名を招待するプランを立てると、70万円+4000円×200人=150万円となる。結婚披露宴の相場が諸経費込みで300万円と言われている中で、プロ野球のチケット+会場+食事でこの値段だとすれば悪くない話だ。もちろんスタジアムなので、豪華なフレンチや和食のコース料理ではなく、いわゆるB級グルメ的なメニューが多くなるが、味は十分においしかった。個人的にどうしても「カープうどん」が食べたくなってコンコースまで出たのだが、当然これは自腹である。そしてそれもまた、スタジアムの収入になることは言うまでもない。

市民球場の時代からサポーターに愛され続ける球場グルメ「カープうどん」[写真]=中野香代(紫熊倶楽部)

市民球場の時代からサポーターに愛され続ける球場グルメ「カープうどん」[写真]=中野香代(紫熊倶楽部)

 カープの場合、2016年度は全パーティ席がすでに売り切れている。一試合あたりフロア代だけで245万円を売り上げ、マツダスタジアムで計67試合が開催されることを換算すると、フロア代だけで約1億6400万円の売り上げが見込めるのである。この「スタジアムパーティ」のスタイルをサンフレッチェ広島の公式戦で設定できれば、大きな利益が期待できるはずだ。1試合200万円でも20試合で4000万円+フード代。パーティだけで、レギュラー選手一人分の年俸を確保できる計算になる。

 マツダスタジアムの大きな特長は、コンコースの広さと開放感だ。久保会長の新スタジアム案でもコンコースは広く設計され、ランニングコースもプランの中に入っている。屋根で覆われているため風雨の心配がなく、緑の芝生がどこからでも臨めるコンコースを使えば、どんなイベントでも可能だ。例えば結婚式であれば、サッカーの試合がない時でも使える。サンフレッチェがアウェー遠征に出ている土曜日や試合翌日の日曜日、コンコースを利用しての屋外披露宴。大型ビジョンを使っての様々な演出も可能だろうし、普段はプロ選手が使用しているドレッシングルームを2人の控え室に使うこともできるだろう。ファン・サポーターにとってはたまらない。スペインの名門バルセロナも、ホームのカンプ・ノウで行う結婚式をスタジアムビジネスの一つとしている事実もある。

サンフレッチェ広島

マツダスタジアムのコンコースではサッカースタジアム建設の署名活動も行われた

 2016年4月に行われる「春のまるごとグルメフェスタ」や2月に行われた「広島フードフェスティバル冬の陣」、昨年9月の「ひろしまオクトーバーフェスト(ドイツビールの祭典)」など、旧広島市民球場跡地で行われるイベントのほとんどはスタジアム内で開催可能なのである。「広島市としては『旧市民球場跡地』について、屋根付き広場としての活用を提案している」(松井一實広島市長)ことは事実だろうが、それはスタジアムで十分間に合うわけだ。広島経済大学スポーツ経営学科の永田靖教授も「旧市民球場跡地でイベントを行う際には塀で囲い込みを行うわけですから。それがスタジアムという名前になるだけ。間違いなく(イベントは)スタジアムで可能なことです」と話す。

 ピッチを使う必要はほとんどない。コンコースを事前にイベント用のフォーマットを準備できるよう、設計しておくだけでいい。訪れるお客さんのためにスタンドを開放すれば、ゆったりと座って食事を楽しめる。しかも屋根もドリンクホルダーもあるのだから、イベント時の休息にはもってこいだ。トイレも、Jリーグのクラブライセンス基準を満たすものであれば、まずはどんなイベントであっても問題はない。極端な話、Jリーグがオフ期間であれば、2013年に80万人を動員した「菓子博」のような24日間にもわたるイベントだって、開催できるポテンシャルはあるのだ。

 20試合程度しかJリーグが開催できないことは、スタジアム運営にとっては「チャレンジできる」という大きなメリットに変わる。スタジアムのパーティルームをパーティションで演出を変えれば、会議室やシンポジウム会場にも変貌する。VIPルームも同様だ。美しい大型ビジョンをうまく使えば、かつての「ドライビングシアター」のようなイベントだってできる。パーティルームをうまく設置すれば、若手アーティストのミニライブだって開けるはずだ。サンフレッチェ広島が使用するのは20日プラスアルファ。前日練習日でも夕方からは開いている。エディオンスタジアム広島では試合開催に向けてのテント設営などが大変だが、常設が可能な新スタジアムではその必要もない。

 さらに設計時において、広島グリーンアリーナとのアクセスを高めておけば、コンコースのランニングコースとグリーンアリーナのジムやプールが直結し、市民が使えるスポーツジム施設にもなる。新スタジアムに温浴設備とビジター用ロッカーを準備しておけば、ランニング後に気持ちよく汗も流せる。このプランもピッチを使う必要はないし、使用料収入も見込める。

 それほどいろいろな取り組みを行わなくても、スタジアム内に売店や飲食店を常設してコンコースやスタンドを無料開放するだけで、新スタジアムは街中の貴重なデートスポットになる。ピッチをライトアップすれば、青々とした芝生は間違いなく美しい。大型映像装置に美しい映像を流しておけば、それもムードが高まる。スタジアム内のコンコースからグリーンアリーナまでの通路が電灯で優しく照らされていれば、市民にとって安全な街中の通行路となるし、常設の店舗が賑わいを生んで、安全をさらに確保してくれる。

サンフレッチェ広島

サンフレッチェ広島が提案した「Hiroshima Peace Memorial Stadium」 ©サンフレッチェ広島

 20日間しかJリーグが開催されないからこそ、スタジアムは自由かつ安全な街中のストリートとなり、ピッチの芝生という“緑地”も生む。以前、広島市民球場に対して「閉鎖された空間」と言った人もいた。実際、「巨大な建築物は平和公園と中央公園を分断する」とサッカースタジアムの紙屋町建設にダメ出しが出されたこともあるが、考え方次第で街を優しくつなぐアクセス拠点となれるのだ。

 そしてスタジアムのスタンドという周囲から少し高くなった場所から原爆ドームを望める設計であれば、そのスポットは間違いなく人で集まる。これまで見上げるだけだったドームを違う角度から見ることができること、さらにその向こう側に平和公園と元安川を望むことで、広島が被った未曾有の災禍と、それでもなお美しく復興した広島の風景を見つめることができる。改めて“平和”の意味を考える場所として注目されることになるだろう。当然ながらスタジアムのスタンドと大型映像装置を利用すれば、平和のためのシンポジウムだって開催可能だ。

 これらの夢は、やはり旧市民球場跡地だからこそ、だ。多くの人が集まる立地だからこそ、スタジアムでのイベント企画もやりやすい。平和公園や原爆ドームなどを背景に持つからこそ、“平和発信”の拠点としても機能できる。宇品地区の広島みなと公園であれば、やはりもっと大がかりな都市開発を目指さなければ、スタジアムが利益を生む構造は作りにくい。メッセなどの巨大施設や商業施設を併設することも(埋め立て地であることから土壌は心配だが)可能ではあるが、多大なコストを要するのは言うまでもない。スタジアム建設だけでサッカー以外の収益構造を作ることが可能な旧市民球場跡地とは、大きなコスト差が生まれることは明白だ。

「旧広島市民球場跡地であれば、必要経費はほぼ『箱』だけ。道路整備などの必要もない。インフラはできていますから。マツダスタジアムは90億円でできたスタジアムですが、道路・環境整備でさらに70億円ほどのコストが掛かったと聞いています。トータルで考えれば、もっとも安く、最高の形ができる」(永田教授)

「広島みなと公園をうまく使いたい」ということであれば、この土地をサッカー・フットサル・ラグビーなど“球技の殿堂”という位置づけにしてみてはどうだろう。あの広さであれば、天然芝グラウンドや人工芝のフットサルコートを何面も置ける。そこをプレー場所に恵まれなかったアマチュア選手や子供たちに開放すればどうだろうか。サンフレッチェもジュニアやジュニアユースの練習場として使えるだろうし、降雪時期にはトップチームの練習場としても機能できる。アマチュアサッカーも重要な大会の決勝は新スタジアムで行うにしても、予選などではこちらを使えばいい。

 イメージは、静岡市にあるJ-STEP(清水ナショナルトレーニングセンター)だ。敷地面積は6.8ヘクタールと広島みなと公園の約10ヘクタールよりも狭いが、ここに天然芝2面のフルコートと人工芝コート2面を配置。さらにトレーニングジムやアクアプール、フィットネススタジオや宿泊施設を完備したセンターハウスもある。みなと公園であれば、天然芝をもう2面ほど追加することもできるだろう。年間約25万人(延べ)の利用実績、日本代表のトレーニングキャンプも招聘実績もあるJ-STEPの中国地方版であれば、広島の社会体育において大きく貢献できるはずだ。

サンフレッチェ広島

新スタジアム建設に向けた署名活動「START FOR 夢スタジアムHIROSHIMA」。他クラブのサポーターも署名に参加した

 3月29日、広島県・広島市・広島商工会議所の3者は、サッカースタジアム決定の結論出しを無期延期。「サンフレッチェ広島との協議」を優先させた形となった。

サンフレッチェ広島はサッカースタジアム検討協議会に出席し、小谷野薫前社長が意見を述べているではないか」という声もある。事実として、それは間違いない。だが、この協議会では決して「広島みなと公園優位」という結論は出していないのである。現実的に、広島みなと公園と広島市民球場跡地の間で意見は二分し、2014年12月に出された最終的な提言についても、以下のような文言にするのが精いっぱいだったのだ。

「両候補地とも特徴的な優位性が認められるものの、それぞれが抱えている課題について、解決策を議論するまでに至らなかったこと等もあって、『広島に相応しいサッカースタジアム』の姿が協議会として一つに絞り切れなかった。そのため、協議会としては両候補地を更に1カ所に絞り込むことは困難であるとの意見で一致し、2候補地をサッカースタジアム建設の有力候補地とすることを結論とした。なお、新しいサッカースタジアムの必要性及び早期整備を望む点については委員共通の意見であった」

 この協議会の間、サンフレッチェ広島は一貫して「旧広島市民球場跡地が新スタジアム建設には望ましい」と主張している。また、久保プランが建設規模を「2万5000人」と規定したのに対し、「協議会では3万人で合意がなされている」と主張する向きもあるが、小谷野前社長は「3万人規模というのは、評価のたたき台であって、(その数字を)評価軸にすることは合意されていない」と語ってきた。実際、協議会の提言でもこう書かれている。

「広島に相応しいサッカースタジアムの規模については、コンセプトにおいて示したとおり、クラス1の国際大会の誘致が可能となることが求められる。また、広島に生まれ育ったサッカーチームのホームスタジアムとして世界に誇れるようなスタジアムとなることも求められる」

「国内他地域のスタジアムよりも国際大会誘致の面で優位性を有するには、3万人規模を超える専用スタジアムが国内に4カ所と少ないこと、西日本において3万人規模を超えるサッカー専用スタジアムは、3万132人収容のノエビアスタジアム神戸(御崎公園球技場)だけであること、さらに2015年秋に完成予定であるガンバ大阪の新スタジアム(吹田市)は4万人収容であることを踏まえて、3万人規模が適正と判断する」

昨季J1セカンドステージを制した広島。最終節は約3万3000人ものサポーターが詰めかけた [写真]=春木睦子

昨季J1セカンドステージを制した広島。最終節は約3万3000人ものサポーターが詰めかけた [写真]=春木睦子

「また、本スタジアムをホームスタジアムとして使用する地元プロサッカークラブの集客需要予測数値の最大値が、各候補地において約3万人であること、現エディオンスタジアム広島(広島広域公園陸上競技場)においても観客数が3万人を超える場合もあること、そして今後サッカー観戦に適した魅力あるスタジアムの整備とこれを核としたまちづくりが進むことによりマツダスタジアム(広島市民球場)のように新たなサポーター層の拡大(需要喚起)が大いに期待できることも、その適正規模は3万人規模とすることが妥当であることを裏付けている」

「そこで将来的な拡張も視野に入れつつ、協議会では適正規模を3万人収容とする」

「なお、協議会における議論の中で、『旧広島市民球場跡地』では、地盤の掘り込みなど高額なコストが発生することから、これを回避するため、3万人にこだわらず、規模を縮小することを考慮すべきとの意見もあった。また、『旧広島市民球場跡地』を志向する理由として、地元プロサッカークラブの経営環境の向上や安定化が期待され、集客需要予測に示された年間平均来場者数に見合った規模にすることによって、コンパクトで臨場感のある観戦環境を創出できる等の意見もあった」

 つまり、規模にしても、こういう付帯意見を付けざるを得ないほど、議論は紛糾したわけだ。協議会の議論の中で、サンフレッチェ広島だけが反対意見を主張していたのであれば、こういう文言はついてこない。「3万人」は一つの判断基準ではあるが「そうでなくてもいい」という意見も複数存在したことも事実。実際、日本サッカー協会が定めるスタジアム基準においては、「2万人~4万人」のクラス1と「4万人以上」のクラスSが存在し、クラス1ではA代表以外(五輪代表、なでしこジャパンなど)の国際試合開催は可能。「3万人」ではA代表の試合は開催できない。G大阪のホームである吹田スタジアムが「4万人」なのは、クラスSスタジアムの建設を目指したからだ。「3万人」は国際試合開催の基準ではない。

ガンバ大阪

G大阪の本拠地・市立吹田サッカースタジアム。収容人数約4万人を誇るサッカー専用スタジアムは今年2月にこけら落としとなった [写真]=Getty Images

 スタジアム建設について「(サンフレッチェ広島には)誤解がある」と松井広島市長が語っていた。確かにそうなのかもしれない。だが、作業部会なる組織がサンフレッチェ広島に対してのヒアリングも行わず、検討や議論の過程も見えない中で「広島みなと公園が優位」と言われても、従来の思惑や主張を変更するのは難しい。誤解があるとするならば、早急に取り除いてもらいたいし、その努力をより迅速に行うのは「誤解されている」と認識している側ではないだろうか。

 3月29日、スタジアム問題の結論延期問題で、湯崎英彦広島県知事は「建設的な議論をするためにも、サンフレッチェには独自案の詳細を提示してほしい。できるだけ早く結論を見るように皆で努力したい」と語った。それも一つの考え方だが、それならば「広島みなと公園優位」とするに至った根拠を詳細に提示することも重要だろう。サンフレッチェ側はスタジアムの資金調達方法からスタジアムそのものの具体的なコンセプトまで、久保会長の会見で発表している。せめて同等レベルの「宇品スタジアム」プランを見たい。その上で、互いに詳細を確認し合うべきではないだろうか。互いに結論ありきではなく、言葉に耳を傾け合うという意味でも。

松井一實広島市長(左)と湯崎英彦広島県知事(右)[写真]=中野香代(紫熊倶楽部)

松井一實広島市長(左)と湯崎英彦広島県知事(右)[写真]=中野香代(紫熊倶楽部)

 サンフレッチェ広島はこの「結論延期」を受けて、次のようにリリースしている。

「これまで、湯崎広島県知事・松井広島市長・深山広島商工会議所会頭およびサッカースタジアム実務者検証作業部会からは『サッカースタジアムの建設候補地は広島みなと公園が優位』との公式発言が相次いでいたところ、本日の建設候補地の決定が延期されるとの発表は、弊社が新設のサッカースタジアムでも主たる利用者として想定されている立場として、本年3月3日に発表いたしました広島市中区の旧広島市民球場跡地を建設候補地とする『Hiroshima Peace Memorial Stadium』(仮)建設プラン(以下「本プラン」)に、スタジアム建設推進にあたって各関係者の声を代弁すべき責任あるトップの方々が耳を傾けようとして下さる姿勢をお示しなられたものと思われます」

「弊社としても、これまでに本プランに対して、弊社に期待の声をお寄せいただいたサポーター・国内外のスポーツファン・広島県民・広島市民の方々を代表して、本日の発表に感謝申し上げます」

「また、これまで広島県・広島市・広島商工会議所が官民サッカースタジアム検討協議会での議論を踏まえて今月末のスタジアム建設候補地の決定を想定されていたところ、本日の発表で、その前提もなくなり、今後は関係者間の議論を深めていく視野が開けたものともとらえております」

 行政が目指していた年度内決着はなくなった。実はこのスタジアム問題の報道にあたり、新聞記事には常に「建設の是非を含めて判断する」と書かれてあった。つまり「建設しない」という選択肢を常にちらつかされていたわけである。だが、3月29日の「延期発表」にあたって、深山英樹広島商工会議所会頭は「建設しないという選択肢はない。広く市民、県民が建設して良かったと思えるように持っていきたい」とコメントしている。筆者は、この言葉に深く胸をなでおろした。少なくとも、経済界は「スタジアムが必要だ」と認識してくれているのである。それだけでも大きな進歩だ。

久保允誉

3月3日に新スタジアム建設プランを発表した久保允誉会長 [写真]=中野香代(紫熊倶楽部)

 その一方で、こんな言葉を思い出した。2009年の久保允誉会長の言葉である。

「旧市民球場跡地は、広島にとってのプラザ。スペイン語でいえば、公共の広場です。だからこそ、あの場所は『広島のアイデンティティ』が必要になる。突き詰めれば、心の部分。広島のアイデンティティについて、みんなで議論することが大切なんです。京都に人が集まるのは、京都にしかないものがあるから。では、広島にしかないものは何か。もちろん宮島であり、平和公園であり。そしてカープやサンフレッチェでしょう。スポーツの波及効果はすごく大きいんです。広島が持つ文化をより強く発信することで、東京や海外の人たちも、地元の人たちも、『そこに行きたい』と考える。カープの試合を見るために、サンフレッチェの応援をするために、様々な場所から人が広島にやってきてくれる。もっと『広島』を大切にするべきだと思います」

 そう。広島に住んでいる僕たちは、何よりも、広島を大切にしたい。

 そのために、何をするべきか。

 将来、どんなものを子どもたちに残してやるべきか。議論のベースにこの想いがあれば、きっとうまくいく。

 ポジティブに、そう、信じたい。

(了)

文=中野和也

[写真]=Getty Images

[写真]=Getty Images

第0回 サンフレッチェの提案内容とは
第1回 広島ビッグアーチが長らく抱え続けてきた問題点
第2回 広島における都市計画失敗の歴史
第3回 久保允誉会長が推し続けた専用スタジアム建設への思い
第4回 旧広島市民球場跡地の利用法を巡る議論

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