2015.11.24

素晴らしき戦友たちが語る佐藤寿人…「前しか向かない」不世出のエースの凄み

佐藤寿人
今季最終節の湘南戦に出場した広島FW佐藤寿人 [写真]=春木睦子
サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン「紫熊倶楽部」編集長

 2001年のアルゼンチン・ワールドユースでともに戦い、サンフレッチェ広島で降格も優勝も一緒に味わった佐藤寿人と森崎和幸の関係で思い出すのは2008年、広島がJ2で戦っている時のことだ。

 開幕から勝ってはいたものの、内容的に難しい状況が続いていた広島は第9節、ロアッソ熊本を相手に最悪の内容の試合を演じた。勝利は得たものの、誰にも笑顔はない。特に怒りを発したのは、この日がケガからの復帰戦となったカズ(森崎和)だ。ミックスゾーンで顔を真っ赤にしながら、「こんなサッカーを続けていたら勝てなくなってしまう」と強い調子でまくしたてた。

 カズは言葉だけでなく、行動に出た。アウェーの徳島ヴォルティス戦、朝の散歩。彼は選手一人ひとりをつかまえ、「試合の最初、入りの15分を前からいこう」と言い続けた。そして試合前、佐藤寿人にも話しかけた。

「キャプテンから改めて、みんなに声をかけてほしい」

 寿人は、了承した。

 この徳島戦で挙げた4-1の勝利は、チームにとって歴史的白星である。今や広島の代名詞となった3-4-2-1が初めて採用された試合であり、青山敏弘と寿人のホットラインが確立された一戦でもあり、そしてミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現浦和レッズ監督)の提唱するサッカーに対して明確な手応えを感じさせたゲームでもあった。そしてもう一つ、佐藤寿人と森崎和幸が明確なチームの中心となったことを示した出来事でもあったのだ。

 チームには前年まで戸田和幸やウェズレイなどの経験豊富な選手がいた。だが、ウェズレイは前年の降格決定時に、戸田もこのシーズン途中でチームを離れる。ストヤノフもいたが、彼はチームを牽引するタイプではなかった。主役はアテネ世代。そうでなくては未来はないと考えていたが、J2での危機に直面したところで彼らがリーダーシップを取り始めたのだ。

 その主役がこの年からキャプテンを務め始めた佐藤寿人であり、“ドクトル”と呼ばれるほど信頼度抜群の森崎和幸。そしてカズはキャプテンである寿人に自分の意志を伝え、チームの意識を統一してほしいと求めたのである。

 試合前、カズの意志をも内包した寿人の言葉とはチームにしっかりと浸透し、圧巻の内容で徳島を制圧。寿人は青山からのパスを2度ゴールに叩き込みチームを勝利に導いた。今や伝説となった2008年4月29日は、佐藤寿人と森崎和幸がチームリーダーとして広島を牽引し始めた、歴史的な一日なのである。

 そのカズは、寿人の今をどう見ているのか。

「ヒサの素晴らしいところは、常にゴールに向かってプレーしている意識の高さ。そこに加えて高いシュート技術があるから得点を重ねることができる。正直、これほどのハイペースで得点を重ねるとは思っていなかったし、ほとんどケガもしないで結果を出し続けるのは、本当にすごい。それだけ、生活のすべてをサッカーのために費やしているということ。僕も見習わないといけないことはたくさんありますね」

 実際、カズのパスから寿人がゴールを決めた場面は、ほとんど記憶にない。双子の弟・浩司から寿人へのアシスト、もしくは逆のパターンは何度かあるが、カズ→寿人、あるいは寿人→カズとつながったゴールは、現状のシステムではなかなか難しいかもしれない。

「そうですね。アシストしたい気持ちはもちろんあるけれど、大切なのはチームの勝利だから」

 苦笑いするカズではあるが、積極的に前に出てボールを奪いにいく今の彼のスタイルであれば、意外と早いタイミングで2人のコラボレーションゴールが見られる可能性もある。

 さて今シーズン、広島の年間1位に貢献したメンバーにはもう1人、アテネ世代の選手がいる。林卓人。ドウグラスや青山とともに、今シーズンのMVP有力候補の一人である。

 彼はベガルタ仙台時代、絶対に抑えなければならない「敵」として寿人と対峙していた。日本有数のシュートストップ技術を持ち、ゴールマウスに君臨するオーラも含め、日本代表の正GKになっても全く不思議ではない実力者にとって、日本最高のストライカー寿人は、自分の存在意義を証明するためにも、絶対に抑え込みたい相手だった。

「寿人さんは、いつもゴールを狙っているじゃないですか。だから、クロスに対してニアに走り込まれるだけで、GKとしては前に出られなくなる。でも本当の狙いはニアではなくファーだったりするわけで、GKにとっては対応が難しいんです」

 林にとって忘れられない試合がある。それは2013年7月17日、ユアテックスタジアム仙台での仙台対広島戦だ。この時、仙台の守護神として広島と対峙した林に、寿人が襲いかかった。13分、右サイドでボールを持った高萩洋次郎(現FCソウル)がアーリークロス。ニアに寿人が飛び込んでくる。強烈なスピードだった。だが林も仙台守備陣も準備はできていた。

「あの時、寿人さんには(鎌田)次郎も体をしっかりと当てていたんです。さすがにスピードも落ちるだろうと思ったら、そこからさらにグッとギアがあがった感じがしたんですよ。寿人さんはクロスに触ることもできないタイミングだと思ったのに、しっかりと触って、ニアに決められてしまったんです」

 「すげえ」。林は素直に脱帽した。

「寿人さんに走られるだけで、GKもDFも迷う。ピシャリと寿人さんにボールが合えばゴールだし、合わなくても他の選手のゴールになってしまう。守る側が『触れないだろう』って思っても、しっかりと寿人さんは触ってくる。本当にやっかいなんです」

 守る側にとっての「やっかい者」についての見方は、DFにとっての共通認識だ。チームメートの塩谷司も「寿人さんの動き出しの質は半端ない。こっちが一瞬でも気を抜いたら、もう前に出られてしまう。あっという間に視界から消えてしまうんです」と指摘する。

「あの人のすごみはマッチアップしないと分からない。映像だけで見れば抑えられるイメージはあるけれど、やってみると全然違う。本当に忍者なんですよ、寿人さんは」

 寿人は常に「素晴らしい仲間たちがいるから、僕はゴールできる」と言い続け、ついに「157」まで到達した。そして仲間たちは佐藤寿人という不世出のストライカーに敬意を払い、サポートを惜しまない。

「ONE FOR ALL, ALL FOR ONE」

 ラグビーのスローガンのようだが、広島を、寿人を支えているのは、まさにこのフレーズだ。紫の戦士たちは、誰もが1人ではない。だから、強いのだ。

文=中野和也(紫熊倶楽部)

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