大宮アルディージャに所属する家長昭博 [写真]=Getty Images
J2では、時折桁違いの強さを見せるチームが出現する。例えば、2008年の広島。ペトロヴィッチ監督率いる広島は、とにかくボールを繋ぎまくった。自陣のゴールラインから相手陣のゴールラインまで、システムのズレと絶妙なポジショニングでボールを丹念に繋いだ。ボールを取りにいけばかわされる。取りにいかないと、ずっと回される。広島のサッカーは見ていて楽しく、観る者を魅了してJ2を制覇した。昨季の湘南のサッカーは、とにかく痛快であった。11人で試合をしているようには見えないほど、人が湧いて出た。守備から攻撃に切り替わった時のスピード感、迫力は他のチームとは比べものにならない。まさに圧倒していたのである。
個人で、明らかに役者が違うと感じさせてくれた代表格は、現在ドルトムントで活躍する香川真司。彼のJ1での出場は11試合。つまり、日本でのプロ生活のほとんどをJ2で過ごしたのである。だから、あの頃にJ2を見ることができたのは幸せだったし、こういうところがJ2の魅力なのだ。多くの人が見ていない、深夜番組のようなところでスターを発見し、スターがスターになっていく過程を喜び、大スターになってみんなが知るようになると、前から知っていたぞという優越感と、自分のものではなくなってしまったという一抹の寂しさを味わう。大好きな深夜番組が、ゴールデンに進出した時に味わう気持ち。インディーズの頃に大好きだったバンドがメジャーデビューしていく時に味わう気持ち。そして、喜びと寂しさがない交ぜになって言ってしまう、「昔の方が良かったね」。バンド界隈にいそうなグルービーなお姉さんのように感傷に浸るのだ(そんなことないか!)。とにかく、J2時代の香川はドリブルで相手を抜きまくっていた。一人、二人とかわし、キーパーをかわす。そこにゴールがあったから、シュートを打ったけど、ゴールがなければ、入場口のおじさんも売店のお姉さんもドリブルでかわしてしまうのではないかと思わせてくれた。つまり、ポテンシャルの底が全く見えなかったのである。
そして、2015年のJ2で圧倒的な存在感を見せつけているのが、大宮アルディージャの家長昭博である。とにかく役者が違う。最大の魅力は、“意図的にスピードを上げずにプレーできるところ”にある。これが本当に難しいプレーで、相手が猛然とボールを奪いにきても、悠然としていて全く慌てることがない。ボール扱いのうまさはもちろんのこと、ボディバランスの良さや体幹の強さ、姿勢の良さ、そこから生まれる視野の広さと状況察知能力。すべてを兼ね備えた選手だからこそ、慌てずにプレーができる。もちろん、スピードもある。カウンターを仕掛ける際は、スピードに乗ったドリブルから、一撃必殺のパスも繰り出す。しかし、急げば急ぐほどプレーの精度は落ちる。相手の守備陣が整っているのに、急ぐ必要はない。慌てず、じっくり崩すべし。ピッチは広い。そして、90分もある。右でも左でも、前でも後ろでも、早くいこうがゆっくりいこうが自由だ。サッカーの魅力の一つ、自由さを体現しているのが家長なのだ。
しかし、自由を謳歌するためには、しっかりと責任を負わなければならない。家長は自由を謳歌する技術を持つのはもちろんのこと、昨季J2に降格した大宮に残留し、試合によってはキャプテンマークを巻くこともあるが、その表情には責任を果たす強い意志と凄みが溢れ出ている。ここ最近のプレーぶりを見て、「この選手が日本代表にいればな~」と思っているのは私だけではないはずだ。“緩急自在のフットボーラー”家長昭博。桁違いの凄さです。