[写真]=佐野美樹
インタビュー=安田勇斗
名古屋グランパスをけん引する日本屈指のストライカー、川又堅碁は少年時代から「自分で考えてやる」ことで技術を伸ばした。中学時代に「普通の部活」を経て、高校時代に特別指定選手として愛媛FCに加入した大器が「うまくなる秘訣」を語る。
――中学時代は学校のサッカー部に所属していたそうですね。
川又「普通の部活ですね。県で2位とかにはなりましたけど、そんなに強い学校じゃなかったです。たまたま自分たちの世代は結果を残しましたけど」
――いわゆる「強豪」ではなかった?
川又「そうですね。小学校時代に一緒にスクールに通っていた幼なじみと、そのまま一緒の中学に行っただけで」
――その後小松高校に進学して、2年生の時に愛媛FCの特別指定選手になりました。
川又「4月か5月ですね。高1の冬に愛媛と徳島(ヴォルティス)から声をかけてもらって練習に参加しました。そしたら、両方からオファーが届いたんですけど、徳島はちょっと遠かったので愛媛に行くことにしました」
――その時の気持ちを憶えていますか?
川又「何が何だかわからなかったです」
――テンションが上がったとかは?
川又「それはあんまりなかったですね。プロになりたいというのは頭になかったので。それよりも、どうやったらあの人たちみたいに点を取れるか、というのを考えてました」
――点を取れるのがプロであり、プロが目標ではなかった?
川又「そんな感じです。だからそこまでプロは意識はしてなかったですね」
――ただ周りの見る目は変わると思います。
川又「確かにそうなったかもしれないですけど、気にしなかったですね。自分がそんなにすごいとは思ってなかったので。まだまだ下手でしたし、『自分よりももっと上がいるでしょ』って思ってました」
――ではプロになった時も実感はなかった?
川又「いや、それはありましたよ。加入した時なんかはメディアの方々がワーッてなってましたから(笑)。でも、それでどうの、というのはないです。結果を残さなかったら何の意味もないので」
――考え方が大人というか、しっかりしてますね。
川又「どうですかね。まあJ2でプレーしたり、ブラジルに行ったりいろいろな経験をしてきたので」
――ちなみに中高時代、サッカーと向き合う中でにこだわっていたことはありますか?
川又「どうやったらうまくなれるかを常に自分で考えていました。自分から何でも取り組むことがうまくなる秘訣だと思うんです。自分はうまいわけじゃないけど、集中力をどう維持するかとか、“無の状態”を保てるかとかを考えてましたね。結局自分からやらないと何もできるようにならないので」
――“無の状態”とは?
川又「自分は“無”になると、『こんなこともできるのか』と自分も周りも思うぐらいのプレーができる。実際、試合の中で“無”になっている時の方がゴールは多いですね。むしろ“無”になってない時のゴールはあまりないです」
――“無”を意識している選手はそれほど多くない気がしますが、それを意識し始めたのは?
川又「いや、みんな“無”になってるんじゃないですか? 試合中は考えるよりも“無”になると思います。少なくとも自分は昔から“無”になるといいプレーができますね」
――それは子供の時からですか?
川又「そうですね。子供の頃、『点を取りたい、点を取りたい』ってずっと考えてた時は全然ゴールに入らなかったんですけど、“無”になって何も考えず、体が勝手に動くようになってからゴールをたくさん取れるようになりました」
――それは欲を出すと良くないということでしょうか?
川又「というより、集中力が高い時ってことだと思いますね」
――ストライカーとして集中力が大事だということでしょうか?
川又「すごく大事にしてますよ。考え方は人ぞれぞれですけど、自分は集中力が必要だと思います」
――プロを目指す学生プレーヤーにアドバイスをいただけますか?
川又「アドバイスできるほどの選手じゃないですけど、強いて言うなら、人にこうやれと言われてやるんじゃなく、自分で考えてやってほしいですね。自分からやった方がうまくなるし、それが大切だと思うので。サッカーには『こうやればいい』ってことはない。こういうパスが来て、こうターンして、こうシュートを打つって練習してても、実際の試合ではえげつないパスが来ますから(苦笑)。とにかく自分で考えてやることを大事にしてほしいですね」
――ちなみに自主練もしていたのでしょうか?
川又「結構やってましたよ。GKの選手とか誰かを捕まえたりして。小学生の時は壁当てでリフティング100回できなかったら飯を食わないとか、朝早く起きて自分で考えてやってました。砂利があるところはデコボコで危ないって言われたけど、何でそこでサッカーをしてたかってボールがイレギュラーするから。それに合わせてできるように練習したりしましたね」
――地方出身の選手ならではの練習ですね。
川又「だから他の選手とは違って、変な方向からプロになったと思いますね。だけどその分、違うものが出せると思う。Jリーグクラブのジュニアユースやユースでプレーする選手はレベルも含めて環境も良くすごくうらやましかったですけど、その差も自分が考えてやることで何とかなるかなと」
――そのノルマを課すことは今も続けているんですか?
川又「そうですね。日本代表を経験させてもらって、やっぱりああいう選手たちに負けたくないので」
――具体的に教えていただけますか?
川又「いや言えないっすよ、恥ずかしい(苦笑)。やってはいますけど内容は言えないです」
―一つだけお願いします(笑)。
川又「いやいや(笑)。そうですね……まあ今取り組んでいることで言えば、自分は真ん中でワンタッチでパンパンパンって崩していく動きが少ないので、そこは練習してますね。そういうメニューとかシュート練習とかを全体練習後に日替わりでやってます。自分からコーチに『こうしたいんだけど』って相談して」
――練習量が多いとオーバーワークが心配ですが。
川又「まあ、言われたら言われたで」
――まだ言われていない?
川又「言われるとしたら、ぶっ倒れた時でしょ(笑)」