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30歳にしてレギュラーの座をつかむGK加藤順大…理想のGK像を追い求めてゴールを守る

浦和レッズユース出身の加藤順大は、2014年まで浦和に在籍。今年、大宮に移籍した [写真]=Getty Images

文●川本梅花

◆チームのGK代表として戦う

 スタメンを告げられたのは、試合当日のクラブハウスだった。

 加藤順大は、あの日の出来事を思い出していた。加藤がJリーグの公式戦にデビューしたのは、Jリーガーになって9年目となる2011年6月11日のことだった。スタジアムはあの日と同じく、NACK5大宮スタジアム。もちろん当時の対戦相手は、現在所属している大宮アルディージャである。昨シーズンまで浦和レッズに加入していた加藤は、今度は逆に、背番号1番を背負って大宮のゴールマウスの守護神として立つことになった。

「自分のJリーグデビュー戦がこの場所だったので、長かったな、と感じました。んーん、やっぱり……年月というのは長いものだと思う」と話す。

 昨年の12月11日に30歳になった加藤は、9年間という年月を経て物事を俯瞰して見られるようになったという。

「去年30歳になりましたけど、『妙に落ち着き出したな自分』と感じて」と言ってあどけなく笑う。「なんか、心の成長があったのかなと思いましたね」。そう話す加藤は、渋谷洋樹監督にスタメンを告げられて「チームのGK代表として戦う」という決意を胸に刻む。

「誰が試合に出てもおかしくない状況なので、試合に出るときにはGK代表として出るという気持ちをもっていました。僕が今日は試合に出ましたけど、しっかりGKの代表としてという気持ちをもって戦おうと考えていました」と述べた。

◆チームのバランスを考えながらのコーチング

 試合が始まる前のロッカールームで、加藤はディフェンス陣に自分がどんな意図をもってコーチングするのかを伝える。

「後ろのバランス。そこだけはうるさく言うから」

 加藤は、第2番手あるいは第3番手のGKとしてベンチから試合を見てきた。そうした状況に置かれたときでも、チームが戦うためにGKとして何が必要なのかを必死に考えてきた。

「バランスというところは非常に僕自身が意識して今日までやってきたことです。GKが声を出して指示しても、前にいる攻撃的な選手にまで声が届くわけではない。だから後ろにいる守備的な選手に声が届くようにと考えて、チームのバランスを中心にコーチングしています」

 180cmという身長は、GKとしては決して高い部類には入らない。一見不利だと思われることを有利な側面に代えることは大切なことだ。しかし、人が勝手にもつGKの印象を変えるのは至難の業である。先入観を振り払うには、その人が「どうすればいいのか」を必死になって考えて、「変えてやる」と真剣に物事に取り組まなければ成し得ないものである。

「僕は、GKとしては背が低い方だと思うので、傍から見れば『クロスが苦手だ』とか、『ハイボールの処理が』と思われがちです。身長が低いということを自分のウィークポイントにしたくない。クロスボールに対してしっかり前に出られるところは出る。シュートにもしっかりと行けるところは行く。身長が高い選手にはない部分を作っていかないとならないと思って、自分には何が必要なのかを、自分がアピールできるものはなんだろうかと、いつも考えてきました。足元で言えば上手いさばき。俊敏性ならボールを弾いたところの次のプレー。そうしたところを作っていけたらと考えてやってきたことが、今日に繋がっていたんだと思っています」。

◆試合が始まってすぐのピンチを防ぐ

 2015年3月8日、J2第1節、大宮アルディージャ対ツエーゲン金沢の試合が行われた。加藤にとって試合に出るのは約1年半ぶりのことだった。試合開始早々、大宮はペースを掴めずに金沢の猛攻にあう。試合のファーストシュートがGKの加藤を襲う。相手のシュートを抑えた加藤は、大切にボールを抱え込んですぐにプレーを続けた。加藤が後方からディフェンス陣に大声でコーチングする。

 加藤はこの試合の中で、キャッチングしたボールを本当に大切に扱っていた。一つひとつボールを両手で大事に抱える。そうした加藤のプレーを見て、彼のサッカーへの誠実な取り組み方がうかがえ知れた。

 控えのGKとして選手生活を送ってきた加藤は、「なんで試合に出られないの?」と人に聞かれたことがあった。そんなときに「ヘタだから出られないんだよ」と答えたという。加藤は「そうやって自分に言い聞かせて、自分を奮い立たせて」ここまでやってきた。そして「常にサッカーが上手くなりたい」と思って練習に取り組んだ。

 加藤がこの日まで選手を続けられたのは、あるゴールキーパーコーチとの出会いがあったからだ。それは、浦和レッズのGKコーチの土田尚史である。

「土田さんがいなかったらここまでやってこられなかった。あの人に出会わなかったら。最初に会ったとき僕に『自分の理想のGK像を一緒に作っていこう』と言われたんです。僕は土田さんから言われた言葉をずっと考えて、自分にとっての理想像は何かを探し求めている。土田さんのいろんな教えで僕は支えられてきた。だから、今、こうしてここに立っていられるんです」と語った。

 加藤が探し求める理想のGK像とは、いったいどんな姿なのか?
「全体的にチームをまとめられるGKになりたい。安心感を与えられるような。もちろん、足元、つなぎであったり、普通はクリアするところを繋いでということもあったりするかもしれない。そうしたプレーすべてを含めて、『やっぱり加藤だから、さすがだな』と思わせるGKになりたいんです。ファン、サポーターのみなさんから『大宮のGKは大丈夫だ』と思われれば。それがGKにとって一番の姿じゃないのかと」

◆頑張り続ければきっとその先に

 大宮は、加藤のファインセーブに助けられて1-0で初戦を勝利した。

 試合後に、「相手の最初のシュートを抑えて、落ち着いたんじゃないですか?」と質問した筆者に対して加藤は答えた。

「最初からゲームに落ち着いて入れました。グラウンドも濡れていたので、常に想定外のことが起きる。そうした想定外の出来事を想定してプレーすることがGKとして大事だと思うんです。だから、どんなことが起きても焦らずにやれました。ゲームの中で選手が集中してやっていると、いろんなことが起きるので、そこでチームメイトに信頼感をもたれるようになれればと思っています」

 金沢戦では、何度も相手のシュートを防いだ。時には、味方のDFの頭を越えて蹴られたロングボールに対して、ペナルティエリアを飛び出してクリアする場面もあった。この日見せた加藤のプレーは、大宮にはいなかったタイプのGKの登場を予感させた。彼にとっても、2015年3月8日が再出発の日になったことだろう。

「レッズでデビューしたのがナビスコカップの試合で2006年だったんです。当時のレギュラーは都築龍太さんや山岸範宏さんだった。とても厳しい状況で。でも、いつか絶対にレギュラーになって試合に出てやろうと思って続けてきたんです。今日は、自分の中で新たなスタートの第一歩だと思っています。良いスタートをきれた。スタジアムで大宮サポーターから僕のコールをもらったことは、生涯忘れることはありません」。

 頑張り続ければきっとその先には良いことが待っている。ただし、どのように頑張るのかを必死に考えて、続けていくことが大切なことなのだ。人は、弱い存在なんだと思う。すぐに挫けて弱音を吐いて、自分が成し得ないことを他人の所為にしてしまう。誰にだってそんな経験があるだろう。

 サッカー選手を取材していると、試合に出られない理由を「誰か」の所為にして、自分の未熟さを覆い隠そうとする選手がいる。自分自身を直視できないまま、サッカー界から去っていく。自分の甘さに気づいたときは、すでに遅かった。そんな選手を見てきた。僕たちの生きている日常生活の中でも、似たような光景は存在する。

 人は自分ではない誰かによって支えられて生きている。加藤にとっては、その存在が家族であったり、土田であったりしたのだ。人が人を信じて生きる。今の時代、人を信じることはとても難しいことになっている。

 頑張り続ければきっとその先には良いことが待っている。格差が激しくなっていく社会の中で、もはや、戯言のようにしか聞こえない言葉だが、もしかしたら本当にそんなことがあるのかもしれない、と、加藤順大のプレーと彼との会話から、感じられたときだった。

 加藤の「新たなスタートの第一歩」に心から「おめでとう、よかったね」と言ってあげたくなる。

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